第20話 取り調べ

 取り調べは、丸橋ともう一人、剛力という刑事が交互に行った。剛力はげじげじ眉の強面こわもてで、恐ろしく息が臭い。そのどぶ川のような悪臭に耐えられず自白する容疑者もいるかと思うほど臭い。尋問されたときは鼻をつまんだが、それでも臭い。しかも、わざとその汚い顔をこちらに近づけ、口を大きくあけながら大声でじゃべるから、たまったものではない。いったい胃袋に何を入れたらあれほど臭いのかと思うほどだった。

 丸橋が尋問するときは、なだめるように穏やかに尋問する。それが剛力に代わると恫喝に近いような激しい口調で迫ってきて、両者の緩急をつけた尋問で落とそうという意図を感じさせた。しかし、私は黙秘を貫いた。何時間も何時間も口を閉ざして開かなかった。何を言われてもあらぬ方向に視線を送り、だんまりを決め込んだ。

 何時間かわからぬが、長い長い間拘束され、やがて空腹を覚えた。

「おい、何か食わせろよ、おれが餓死したらお前らただじゃ済まされんだろう」

初めて口を開いてそれを訴えた。

「たった20時間くらいで死ぬもんか。自白したらいくらでも食わせてやる。食いたきゃとっとと吐いちまえよ」

丸橋は答えながら、私に見せつけるように剛力と一緒にどんぶり物をかき込んでいる。さらに尋問を受けること数時間、今度は眠気が襲ってきた。私が机に突っ伏すと、鼻の奥がツンと痛くなるほどの強烈な刺激臭をかがされ、眠いのに眠れない状態にさらされた。回数は数えていないが、10回以上それが繰り返されたと思う。

 やっとのこと丸橋と剛力が去ったと思いきや、今度は別の二人が尋問に当たる。今度の二人もしつこいことこの上ない。私は気力も体力も限界を感じ始めていた。ひたすら凛の顔を思い浮かべ、早くしてくれと心中で願った。だが、とうとう気力も体力も限界に達したらしく、意識が混濁し、横向きに椅子から崩れ落ちた。そのまましばらく地面に横になっていると、今度は大量の冷水を顔面にかけられる。ここまでくると、もはや拷問である。痕跡の残らない拷問。私は椅子に戻され尋問が再開された。だが、相手が何を言っているのかさえよくわからないほど意識がもうろうとしていた。そして、倒れては冷水をかけられ、また倒れてはかけられる。数時間にわたる尋問と拷問の末、ついに意識を失った。


 

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