第11話 裏の顔

 探偵の森川に丸橋の調査を依頼して10日ほど経つ。翌日、おおよその事情はつかめたという連絡が入った。探偵事務所を訪ねると、森川が胸元を広めに開けた服を着て出迎えた。しっかり谷間ができた胸を見せつけるかのように、襟首のあたりをいじっている。

「あたしって着やせするタイプなの。わかるでしょ」

「ああ、わかったよ。この前は失礼した。最近は寄せて上げるブラもいいもんが出てるらしいな」

「相変わらず口の減らない男ね。まあいいわ。本題に入りましょう」

「聞かせてもらおう」

「なかなかのワルね、丸橋って刑事。パチンコ店にサクラを派遣して、店から紹介料を受け取ってるみたい。それも数十の店舗から」

「サクラって、あのパチ屋がいかにも出してるように見せるために使う打ち子ってやつか?」

「そう、打ち子は時給千円くらいで雇う。打ち子の台で出た玉は換金するように見せて店に返す。周りの客は自分の台も、と期待して数万単位で投資する」

「一人派遣していくら店から紹介料をもらう?」

「そこまではわからない。でも月に数百万は稼いでるはず。でないとあのタワマンは買えないでしょう。おそらく現金で買うと税務署に目をつけられるから、ローンを組んでると思うけど、月々の支払いは相当なものでしょう」

「サクラはどこで調達してる?」

「そこまではつかめなかったけど、調査を頼んだ私の元同僚はマル暴の紹介じゃないかって」

「あんたの元同僚はよく突き止められたな」

「色仕掛けよ。丸橋が会ってた若い男をつけてホテルに誘ったらしいわ。聞くだけ聞いてお酒に睡眠薬混ぜて眠らせといたって」

「その若いのがマル暴の紹介って言ったのか?」

「はっきり言うわけないでしょ。下手すれば小指がなくなるわ。男の話しぶりからマル暴かもと言ってただけ」

「同僚の彼女、録音してくれたんだろうな」

「もちろん」

「身分証は?」

「男が眠ってる間に財布から運転免許証抜いたって。コピー取って、現物はそのあと本人宛に郵送したそうよ」

森川は上着のポケットから小さなテープと免許証のコピーを取り出した。

「いくらだ」

「サービスしとくわ。あんたちょっといい男だから」

「すまんな。やはり胸の大きい女は度量も大きい」

森川は声をあげて笑った。

「それで、タワマンの方だけど、所有者は丸橋とグラビアアイドルの愛川すみれの共有名義になってる。丸橋は愛川すみれにぞっこんで、雑誌やDVD、写真集や関連グッズなどほとんど買いあさってるらしいわ。タワマンもおおかた彼女にねだれらて購入したんでしょうね」

「愛川には会ったのか?」

「ええ。職業柄、男と住むのはまずいから丸橋とはたまに夜目をしのんで会っているみたい」

「肉体関係はどうだ」

「そんなのしゃべる訳ないでしょ。でも丸橋のこと、さも軽蔑するようにエロオヤジ呼ばわりしてたから関係は持ってないと思う」

「丸橋に会いに行くのは危険だと思うか?」

「そうね、丸橋がマル暴とつるんでるとしたら自殺行為ね。事情は知らないけど、会ってどうするの」

「テープを買い取らせる。五百万くらい出すだろう」

「そう簡単に行くかしら。海千山千のデカを相手に素人がゆするなんて無茶だと思うけど」

「コピーを用意して、おれの身に何かあったら署に届くようにすればどうだ?」

「命と引き換えにやる価値はあるの?」

「命までは取らんだろう」

「わからないわよ。マル暴と手を組めば、闇から闇にほうむることなど難しいことではないでしょう」

「うーん、何かいい方法はないか」

「そうねえ、わたしなら愛川すみれを使うわ」

「どうやって?」

「それは自分で考えなさいよ」

「わかった。だが、おれは愛川と面識がない。追加費用を払うから愛川と引き合わせてくれないか?」

「わかったわ。でもそれでおしまいよ。あたし警官て人種好きじゃないから」

それで話は決まった。計画を練ってから再度会う約束をして事務所を後にした。

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