ただの高校生が会社を作るまで

ふうせんかずら

第1話 すれ違い

「いいかお前ら、俺たち三人で会社を作る!」


「は?」


「え?」


 似たような返事が同時に返ってきた。


「だから、俺たち三人で会社を作るって言ったんだ」


「今の話の流れでどの薬打ったらその展開になるのよ」


「もちろん今すぐには無理だ。まずは先立つ金を集めるとこからだな」


「お前人の話を聞くって知ってるか?」


「知らん!よく聞け。俺らが出会ってもう三年が経つ。その間いろんなことがあ

ったよな?」


「うん」


「まあ」


「それぞれ全く違う性格でありながら俺らは最高の親友になった。違うか?」


「うん」


「まあ」


「てことで会社を作るぞ」


「いやいや、説明かと思ったら全く微塵みじんも説明じゃなかった!?」


「全く意味がわからん。」


 あまりにもやる気がないこの2人は俺の中学の同級生だ。


 中一のクラスで席がたまたま前後だったから仲良くなった。


 前に座っていたのは花音。中一にしてペンネーム「カノ」を名乗り『叶わないラブソング』でメジャーデビューを果たした小説家だ。それを知ったのは中二の後半だが。


 後ろは康輔。こいつも中一にして天才プログラマーだ。そして驚くほどにコミュニケーション能力が高い。


 前に座っていた俺に声をかけてきたのはもちろん康輔からだ。


 そして俺はこの二人と比べるとなんの取り柄もないフツーの中一だった。


「そして俺らの良さはなんと言ってもそれぞれに対して恋愛感情がない!そういうトラブルがない方が何事も円滑えんかつに進むはずだ」


「…」


 少し不満げな表情の花音だったが俺は続けた。


「花音の文章力と康輔の技術力と俺がいれば絶対に成功できる!!」


「お前の役割が説明されていないんだが」


 冗談混じりの顔と口調で康輔が言った。


「俺はいわばプロデューサーだよ。俺が可能性を感じて見込んだお前らをプロデュースするのがとりあえずの俺の役割だ」


「まあ必要な役職ではあるな」


「さすが康輔!わかってるじゃん」


 そしてどっかのタイミングで不満げだった花音が多少の声の荒さで


「私はやらない」


 とか言いやがった。


「なんでだよ」


 すかさず俺は聞き返した。


「だっていきなりすぎるし意味わかんないもん」


「いきなりなのは否定しないが大体の説明は今しただろ」


「その説明がわかんないって言ってんの!」


 さっきよりも声が荒くなった。なんでこんなにキレてんだ?


「だってほら、俺ら三人同じ高校に合格しててさ?高校入るまで暇だからなんか三人でできる楽しいことしたいねって言い出したのは花音だろ?だから俺が楽しいこと考えてきたんじゃん?」


 なるべく下手に出て説得するように俺は話した。


「私が言ってたのはそういうことじゃなくて、みんなで遊びに行ったり海行ったり祭り行ったりバーベキューしたりさ」


「冬なのに海と祭り?それにバーベキューは去年の夏にしただろ」


「それで言ったら海も祭りも去年行ったな」


 康輔が口を挟む。


「それはそうなんだけど…」


「そうよ」


「とにかく私は反対だからね!!」


 そう言い放って花音は誰もいない放課後の廊下を走り去って行ってしまった。



「なあ康輔、花音どうしちまったんだ?」


「あいつなりに思うところがあるんだろうよ」


「どんな?」


「それは俺の口からいうことじゃねーな。直接聞いてみな」


「あの感じならおそらく話してくれないだろ」


「まあいずれ聞かせてくれると思うぜ?」


 別に言ってくれればいいのに、なにを勿体もったいぶってんだ?まあいい。


「そうか。てかお前はこの話どう思った?」


「だから花音に聞いてくれって」


「いやそっちじゃなくて。会社のほうよ」


「あ〜そっちか。俺は面白そうだと思うよ。いずれ俺も同じようなことしたいと

思ってたくらいだからさ」


「本当か!?」


「おう!でもまずは花音を説得するところから始めないとな。具体的な話はそっ

からだ。俺も協力すっからさ」


「そうだな。恩に着る」


「いいってことよ」


 正直会社を作るなんて単なる思いつきだった。だが、いざ二人に話してみると妄想が現実になっていく未来が見えた気がしたんだ。


 俺はこの勘にかけたいと思ったのだが、予想外の花音の反発にかなり動揺した。それと同時に決意した。



 絶対に会社を作ると。





 ・・・・






 あの日俺はあえて花音を追いかけることをしなかった。理由としては自分の考えが全くまとまっていなかったことと、康輔に言われたことが気になっていたからだ。


 ゴリ押しでは通用しないことはよくわかった。あいつは腐っても小説家だから、やはり物事を順序立てて簡潔にわかりやすく説明することが重要だろう。となるとどうしたもんか。


 理由なんてほぼない思いつきが故に全く思いつかん。康輔に相談してみるか?

いや、それをしてはいけない気がする。なんとなくだが。


 まずはなぜ花音が反対したのか考えてみるか。えーっと、最初に説明不足だ

な?あとは本業の小説家の関係か。やはり学生をしながら小説を書いて会社もってなるとかなり大変だよな。


 それと花音の意見を尊重してあげてなかったから会社以外の別の楽しいことも提案してみよう。よし!これだ!


・・・・


「話ってなに?前言ってたことなら反対って言ったはずだよね」


 俺に夜の公園に呼び出された花音はあからさまに不機嫌そうな態度で言い放った。赤いセーターに白いマフラーを巻いている姿を見るのももう3回目になる。


どっちも俺が誕生日プレゼントであげたものだ。


「いきなり呼び出してごめんな。お察しの通りこの前の話なんだけど、俺の説明不足がかなりあったから少し聞いて欲しいんだけどいいか?」


「はあ」


 花音は少し何かを考えているようだった。


「わかった。少しだけね?」


「ありがとう!感謝感謝!」


「すぐ調子のんな〜!」


「悪い悪い」


 とりあえず話を聞いてくれるとこまでこぎつけたのは大きな進捗だろう。本番はここからだ。


「まずこの前のことは悪かった。あの時は自分のことしか考えてなかった。自分の言いたいことだけを言って花音のことは否定してばかりだったよな俺。本当にごめん」


 花音は静かに頷いた。


「でも俺の気持ちはあのときと変わらない。俺が花音と康輔とだからこそ一緒にやりたいって心から思えたってことだけはわかってほしい」


「わかってる」


「前に花音が言ってた楽しいことがしたいっていうのはこういうことじゃないっていうのはわかってる。だから海もいこう。川もいこう。バーベキューだって楽しそうだ。花音が望むならいくらだって俺が楽しいこと考えて文字通り楽しませる」


「…」


「でも!俺は三人で会社作りたいんだよ。絶対楽しいと思うから!なんで楽しいかなんて言わなくてもわかるだろ!この三人だからだよ!三人だからっ、どんなことがあっても乗り越えていける、なにがあっても俺が二人を支える、今はわからないかもしれない。でも花音が嫌でも楽しくなるように、いや、なにがなんでも楽しくなる!だから花音!俺についてこい!!!」


「ーーっ」


 花音は泣いていた。だが表情は数分前と違ってとても和らかかった。


「なあ花音。お前が本当にやりたくないなら無理にとは言わない。でも俺は花音がそう思ってるとは思わないんだ。あの時怒ったのも、本当にやりたくないならああはならないだろうなって思った。それを思ってなおさらやりたいって思ったんだよ。もしそれが俺の思い違いで花音が本心からやりたくないのなら俺は諦め…」


「もういい」


 花音は服の袖で涙を拭いながら言った。


「私のこと、ちゃんと支えられるの?」


「…約束する」


「…わかった。私やるよ」


「よかった。ありがとうな、花音」


「でも、これだけは約束して」


「ん?なんだ?」


「これからも絶対に三人一緒って」


「なに言ってんだ?そんなの当たり前だろ?」


「うんっ」


「よしじゃあこれでやっと俺らの会社作ろうプロジェクト始動だな!」


「そうだね!頑張ろうね」




 てなわけでめでたく花音が仲間に加わり、ここから本格的に始まるわけだ。


あ、そういえば。


「ところで花音、本業との両立は大丈夫そうか?」


「多分大丈夫だよ。今も小説書きながら学校行ってても余ってる時間はかなりあるし〜」


「さすが天才だな....」


「まあね〜あはは」


 春の優しい太陽のように笑う花音を見ていると、自然とこの笑顔を守りたいと思ってしまうのだった。

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