第三章 進展

第8話 驚愕

 「仁己にアドバイス的なものはしてもらったものの、これやっぱ俺の頑張り次第なんだよな…。」

 そんなことを考えながら、駅まで歩いていた。やれると昨日まで自分に言い聞かせたものの、いざやるとなると逃げ腰になっていた。そもそもあの子に今日会えるとも限らないし、朝は満員電車だから可能性は絶望的だし、会うとしたら帰りかな。

 「まじで、色々と絶望的だろ…。」

 

 駅に着きホームを見ると金曜の帰りに予想した通り人であふれていた。乗れない可能性もあると考えて、普通の出る時間より三十分早く家を出たのだが人混みをみて始業時間に間に合うか心配になった。

 「これは作戦以前の問題だな…。」

苦笑いしながら言った。なぜかというとこの状況もそうだが、この後電車の中で自分がぺしゃんこになる未来が見えたからだ。



 し、死ぬ…。

 十分後になんとか乗れたが、奥に押し込まれて体は身動きがとれず、予想通りぺしゃんこになっていた。最寄りの駅に着いたが人が多すぎる、頑張って人をかき分け降りることができた。今度からは反対側のドアの方に押し込まれないようにしなくちゃな...。

 毎朝これは鬱になりそうだな。



 マジかよ。三十分早く出たのに始業まで十五分しかないじゃないか。クラスの人たちは地元の人が多いのか、ほとんど揃っているようで集団で楽しく会話していた。

 自分の机に座り、誰とも話せないので陰キャの必殺技である机に突っ伏して寝るを実行した。本当に寝てしまってはだめだが、こうしているとさっきまでのの疲れが紛れる気がした。


五分前のチャイムが鳴るのが聞こえる。朝のショートホームルームまであと五分休憩する猶予がある。と思っていると前の席から自分に話しかけているような声が聞こえる。

 「ねぇ、もうそろそろ先生来ちゃうから起きた方がいいよ。」

 話しかけられているのに、せっかく話しかけてもらえたのに無視するのは最悪な行為だ。どうやら女子のようだが、ぼっちの俺にも声をかけてくれる優しい人がこのクラスにもいたらしい。そういえば、入学式の日は前の席のやつ帰りのホームルームにはいなかったな。よし、どんなやつでもとりあえず頑張って話してみますか。

 「あぁ、教えてくれてありがと…。」

そこで言葉が止まった。自分の中で最も予想していなかった事態が起きたからだ。瞬時に俺の思考は止まり、頭の中が真っ白になった。

 「ん? なにか顔についてる?」

彼女はまだ気付いていないようだが、見間違えていなければ金曜の電車で会った彼女だ。

何も俺が言わないので、鞄から手鏡を取り出して何もついていないか確認して、もう一度俺に何か言おうと口を開こうとした瞬間彼女もまた遅れて俺が一体誰なのか気付いたようだった。

 「あ、あのもしかしてだけど、帰りの電車で金曜日助けてくれた?」

 彼女から聞かれたことで確信へと変わった。

 「う、うん。飴ありがとね。」

 それだけの言葉しか、今の俺では言えなかった。もっと何か言おうと考えたが結局言葉がそれだけしか絞り出せず頭の中がショートした。

 「本当に、あのときはありがとね。まさか同じクラスだったなんて思わなかったな。私は白戸紗姫しらとさきよろしくね。」

 そう微笑みながら俺にいう。かわいい…。

紗姫って名前なんだ…。

 俺が見とれてしまっていると。

 「君の名前はなんて言うの?席も近いし、助けられたといい何かしらの縁を感じちゃうよね。」

 あ、やばい早く答えなきゃいけないのに…。

めっちゃドキドキする。緊張してうまく声が出ない。

 「お、俺の名前は木原心哉きはらしんや。よろしく。」

よし!はじめは少し危なかったが、なんとか言い切ったぞ。俺頑張ったな。帰りは、コンビニでビッグプリン買って帰ろう‼



 「心哉、これから仲良くしようね!」

 これは普通だ。そうだこれは普通に仲良くしてくれようとしてくれているだけだ。少しでも勘違いするな俺。あまりに陰キャすぎて、さすがに自分でも引くぞ。

 「う、うん。そうしてくれると助かる。」

 そういった瞬間に、チャイムが鳴った。

 「じゃ、また後で話そうね。」

 そう言うと、紗姫は前を向いた。



 はぁ、びっくりした。まさかこんなに近くにいたなんて思いもしなかった。というかなんだ妙に緊張するし、話そうとするだけで心臓がうるさすぎる。

 あれ?俺ってこんなに女子に耐性なかったっけ?春休みの間に耐性なくなるとか俺の体やばすぎだろ。

色々と混乱していたせいで、ホームルームの連絡事項をほとんど理解できなかった。

 唯一、まともに聞き取れたのは担任の名前くらいだ。

どうやら、入学式のホームルームできていたのは副担任だったらしい。顔と名前を覚えてもらおうと自己紹介を頑張っていたので、記憶に残った。


紗姫は外見的には、おとなしそうに見えるのに意外と明るいタイプなのかもしれないな。そんなことを思いながら、笑顔の紗姫にまた話しかけられるのであった。




色々と大変な俺の高校生活が、やっとスタートし始めた。

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