第7話 相談
まさかばれていたとは思わなかったので、驚いた。
「いつから気づいてたんだ?」
「いや、昨日の夜に心哉のお母さんからなんか隠してる素振りだから、連絡来たら話聞いてくれる?ってラインが来てさ、それで昨日の夕方心哉に誘われてたから、相談事でもあるのかって思っただけ。」
母さん気づいてたのか…。変に心配かけっちゃたな。
「で、何の話だ?友達作りなら話すきっかけさえあればできるぞ?それにアドバイスした所で心哉が行動できなきゃ意味ないしな。」
うっ…。
そうだな初日で話しかけずに話しかけられるのを期待して待ってた俺が悪かった…。
「それは自分でも分かってたけど、怖かったんだ。また、中学の時のようになるのは嫌だから…。」
俺は中学の一年生の時、友達は確かにいたが、最初に仲良くなった奴らが最悪だった。最初は普通に話していたが、だんだんと時間が経つにつれて態度が変わっていった。人の本性がわかってくるのは、だいぶ時が経ってからだ。俺は、そいつらにいいように使われて、結論的に言えばいじめられていた。暴言を吐かれる程度なら、大した問題はなかった。俺は人より精神が強い自信があったから。だが、何もせずにいたのが更にこの状況を悪化へ導くことになった。
世の中の人達が想像するようないじめからは少しずれてはいたと思うが、いかに俺でも精神的に参ってしまった。
俺へのいじめは、日常的なものとなりクラスの連中も認識するほどになった。ペンケースから新しく買ったばかりのペンを目の前で破壊されたことだってあったし、思いっきりみぞおちに蹴りを入れられたことだってあった。さすがにクラスの奴がじゃれあいじゃないことに気づき、先生に対処してもらおうとするが奴らはその場で誤り反省しているように見せるだけで俺へのいじめは消えることはなく、むしろ巧妙になり気づかれにくくなった。誰が何をしようと何も変わらない。これが死ぬ人の感じる世の中への絶望なのかと思った。何がそんなに俺を追い込んだかって?
部活も奴らと一緒だったからだ。うまく奴らは休憩や練習中にちょっかいをかけてきて、何が一番苦痛だったかというと他校との試合で一日中奴らと一緒にいることだった。
そんな俺は、運がよかったんだと思う。仁己が親の仕事の関係で二学期から転校してきたのだ。半分死んでいるような俺に笑顔で話しかけてくれたのだ。正直人なんか信用できないと思っていたが、仁己はちゃんと踏み込んじゃいけないラインを分かっていたし、趣味も同じだったため直ぐに打ち解けた。それから仁己は、俺がいじめられていることを知って、そいつらから救い出してくれた。
部活も顧問と相談し、やめることにした。
もう奴らと極力関わらないように…。
あの時から、人と関わるときは何十倍も疑い深くなったし、簡単に人を信用できなくなってしまった。
「心哉…。お前の気持ちはわかるが、中学三年間でそんな奴らばかりじゃないってわかっただろ?」
「まぁ、そうだね。いい人ばかりだった。」
実際視野を広げて、仲良くなった人たちはノリのいい、他人を尊重して認めてくれるいい性格をしていた。
「高校を変えてまでした意味がなくなっちまうぞ?誰か仲良くなれそうなやつが見つかってからなら、いくらでも相談に乗ってやるよ。」
高校を変えた理由の一つは、行こうとしていた高校に奴らも行く話を耳にしたからだ。
そこそこ勉強もできていたのでレベルの高い高校にチャレンジしようと考えていたがそれで諦め、登下校で偶然会わないようにとレベルを一つ落とし、今の高校ににゅうがくしたのだ。
「その相談をしたくて今日誘ったんだ。」
何とか暗めになりつつあった雰囲気から、本題に持ち込むことができた。
「まじかよ。仲良くなりたいのはどんなどんなやつなんだ?」
そう聞かれ、俺は正直に帰りの電車であったことを話し、女子と友達になろうとしていることも話した。
「本当に友達になりたいんだな?理由はそれだけでいいんだな。心哉が話した通りならアドバイスはしてやれるが、確認はするが異性へ向けるような気持ちは一切ないんだな?」
そう仁己から言われ、少し考え込んでしまった。あの子とそういう関係になりたいと言われればなってみたい気もするが、そういう目的をもって近寄るのが自分的には嫌だった。
「一切ない。俺は友達としてあの子と仲良くなりたいんだ。」
「分かった。そういうことにしといてやるよ。」
なにか言いたげにみえたが、気のせいだろう。
「さっきの話だと名前も知らないんだろ? 分かっていることが、同じ高校で同じ電車に乗ると…。情報少なくないか? これならクラスの人と仲良くなった方が早いと思う。」
「やっぱ仁己もそう思うか? だけど他人の物を長い間持ってるのはモヤモヤするからこれだけは早く返したいんだ。」
仲良くなれるかはさておき、ハンカチは返さないとまずい気がする。しかも誰のものか分かっているならなおさらだ。
「その気持ち分かるぞ。他人のものって汚したり壊しちゃったりしたらどうしようって無駄に気にかけちまうよな。」
どうやら仁己も同じ考えのようだ。
「とりあえず、月曜にその子に会えたらいいな。ハンカチ返すついでにラインだけは絶対に交換してこい。面と向かって話すより楽だし、最短で相手のことしれて仲良くなれると思うぞ?」
「まじかよ。頑張って交換してみるわ!」
だが、この時の俺は気づいてなどいなかった。女子とラインを交換するという難易度の高さに…。
「もし普通に話せたなら、好きな曲とかなんでもいいから相手を知ろうとしろ。そこから仲良くなれる場合もあるからな。」
「分かった。覚えとくよ。やっぱ仁己に相談してよかったよ。とりあえず、どうなったかは後日またラインするよ。」
「おう。こんなことでよければいくらでも相談乗るぞ。」
本当に頼りになるし、これからもずっとこいつと仲良くしてたいと思った。
「その代わりといっちゃなんだが、今度ラーメンおごってくれよな。」
はぁ、これだからちょっと残念なんだよな~。
「それはまぁ助かってるからいいよ。今日は久しぶりに遊んで疲れたし、そろそろ帰るか。」
「そうだな。あんまりここに長居しても迷惑だしな。」
いくら空いているからといって、店内に長時間いてもいい理由にはならないので、ごみを捨てて帰ることにした。
そのまま、帰る方向的には同じなので仁己に細かいアドバイスや雑談をしながら家に帰った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
キッチンから母さんが、エプロンを外しながらやってきた。いつものことを言うのは予想済みである。
「外から帰ったら、手洗いうがいちゃんとするのよ。」
こういうところは、うちはしっかりしている。
「母さん、仁己から聞いたよ。変な心配かけちゃってごめん。」
「いいのよ。本当は母さんが聞いてあげるべきなんでしょうけど、話にくいこともあるでしょうし、母さんこそ力になれなくてごめんなさいね。それでヨシちゃんに相談して解決したの?」
「解決というより、背中おしてもらった感じかな。」
「今度お礼しなくちゃいけないわね。」
「そうだね。仁己には大分助けられているしね。」
母さんには、中学の時は話さなかったがママ友から聞いたらしくすごく心配されたが、仁己に助けてもらった後だったから「もう大丈夫だから安心して。」といった。母さん的には、それから気付けなかった自分を責めている節がある。あれからものすごく俺の変化に気づいてくれるようになったが、母さんには心配かけたくないのでできるだけ隠すようにしている。今回はばれてしまうほど、精神的に疲れていたんだろう。
特に変わったことはなく日曜は小説を読んでゆっくり過ごした。そして、ついに月曜がやってきた。
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