十七、アカーシャ・クロニクル ~Akashic Records ~
イベントは終わった。
ずいぶん長いことかかったような気もしたけれど、実際にかかった時間は0分0秒。
だって、時間というものが存在しない世界だから、それで当たり前か。
「誰もあなたを裁きませんよ」
私の隣にアキラさんが来て、優しく私を立ち上がらせてくれた。
もう、大勢いた人々は解散したようだ。
「今あなたが見たことは、これから本当の世界に行くにあたってとても大事なことなのです。本当の自分を知って
「でも、あの映像は……」
私が言わなくても、もうアキラさんは私の心を知っている。
「あなたが記憶していたことだけが映し出されたわけではないことに驚いていますね」
「あの記憶はどこから来たのですか?」
「地球誕生以来のすべての人の記憶は高次元の世界にあるアカーシャ・クロニクルに記載されています。あなたの意識も90パーセントはその中にあって、実際に感知している意識は10パーセントにすぎないのです」
「潜在意識ということですか?」
「そういう言い方もできますけれど、あまり正確ではありません」
なんだかよくわからない。
「あなたが見た本当の自分の意識は、そのアカーシャ・クロニクルから引き出されたものです。本当の世界でレベルが上がると、そのクロニクルに自らアクセスして自由にデータを取り出すこともできるようになりますよ」
そして、私はまた自分の家の自分の部屋にいた。
隣には絵梨香もいた。
「見た? さっきの」
聞くまでもなく、私は大勢の人々の中に絵梨香がいたのを知っている。
絵梨香はうなずく。私は急に気恥ずかしくなった。
「大丈夫だよ」
微笑んで絵梨香は言う。その言葉に偽りはないことは、この世界でならわかりすぎるほどわかる。
「私の時は本当に恥ずかしくて、いたたまれなくて、やめてーって泣きさけんじゃった」
絵梨香はもうこの大事なイベントを経験してたんだ。
でも、いつの間に?
絵梨香は私よりもずっとずっと長くこの世界にいるみたい。
でも、今目の前にいるのがいつの絵梨香かはわからない。
起こることも時系列通りにはなっていない。
なにしろこの世界は時間と空間が存在しないのだ。
「優美が私に見られて恥ずかしかったっていうのは、まだ元の世界の感覚が残っているからだね。私もそうだったし」
そう、元の世界では見栄や外聞を気にして演技をして、自分までをもごまかして生活してた。
ここではそんなことはできない。
また、そうする必要もない。
何も隠し事ができないのだし、そうなると他人の目や他人の評価なんて全く気にする必要はないんだ。
だから悪はさらけ出されて、それを正当化する必要もない。
なぜならこの世界は法律も道徳もなく、何をしても自由だってから。
そして心底の善もまた表に出る。
他人の評価を気にしての作った善ではない。
こうして人はレベルが決定する。
つまりは、自分で自分をさばき評価するってこと?
他人には裁かれない。
ここには閻魔大王も
そんなものに裁かれるってことはないのだ。
私は立って窓から外を見つめた。
「ねえ絵梨香。いつまでもいっしょに行こうね」
私はそう言ってから振り向いた。
でもそこに絵梨香の姿はなかった。
「絵梨香!」
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