十六、自分の心 ~Mia koro ~

「おい、横田。放課後に体育館の裏に来い」


 そんな男子に放課後に呼び出された。


「おめえ、いい気になってんじゃねえぞ」


「え?」


「おめえが俺らのこと全部先生にちくってること、わかってんだぞ」


「おめえ、それと引き換えにテストの問題、先生に教えてもらってんだろ」


「そんなことしてない!」


「嘘つけ。おめえばかりがどんどんテストでいい点とってんじゃんかよ」


 私はツインテールに結んでいた髪の毛を引っ張られた。


「白状しろよ」


 お腹を何回も蹴られた。


「おい、おまえら、何してる!」


 放課後の校内巡回の先生の声だ。男子たちは一目散に逃げていった。


 そのあと、職員室で私はいじめに遭っていたのではないかと先生に聞かれた。


「そんなこと、ありません。遊んでいただけです」


 私は口を割らなかった。

 いつもは些細なことでもクラスメートの悪事を逐一報告する私だったけど、この時だけは言う気はなかった。

 あの男子たちが怖かったからじゃあない。かばおうとしたわけでもない。

 ただ、あいつらに借りを作らせて、マウントとろうとしてた。

 それは覚えてる。

 でも、その時はそんな意識はなかった。悪い男子をかばって、いいことしたつもりでいた。


 自己満足……


――十四歳の頃の私――


 クラスの佑介って子が好きで、私はコクることに決めた。

 でもその前に、一応クラスメートのさゆみに相談した。


 放課後の、誰もいない教室。


 そしてその時震える声で、さゆみは言った。


「私も……佑介君が……好き」


「え?」


 私は一瞬頭の中が真っ白になった。でも次の瞬間には私は言っていた。


「佑介のことさゆみが好きなら、私、あきらめる」


 つまりは、きっぱりとあきらめることで自己満足してたんだ。


 ――十六歳の頃の私――


 高校に入ってからも、嫉妬、恨み、卑下なんかが心の中で渦巻いてて、心とは裏腹の他人の目を気にしての行動ばかり。

 いつも人の目ばっかり気にしてた。


――映像はここまで――


 私、思わず泣きだして座り込んだ。


 映像は頭の上の空中に映されてたけど、まるで足元から私が毎日書いていた日記の総てのページが開いて、それが紙吹雪のようになって舞い上がって、そのすべての文字が宙を舞っているみたい。

 私の記憶に全くなかったことの方が多い。


 そしてそれが、周りにいる大勢の人たちに全部読まれている。

 もともとこの世界はプライバシーも個人情報の観念も全く存在しない。

 心のすべてがガラス張りの部屋のようにあけっぴろげ。

 だから隠したってしょうがない。


 私は苦笑を漏らした。


 その時、ふと気づいた。

 周りの誰からも、その中にいる絵梨香からさえも、全く批判的な波動は感じられない。呆れたって感じも伝わってこないし、馬鹿にしている人も誰もいない。


 むしろみんな、私が本当の過去を知ったことを祝福さえしてくれていた。

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