十五、走馬灯 ~Retromemoro ~

 人々がざわついている。

 そのうち私は優しく案内されて、広場の真ん中に。

 自然と人々はそのそばに集まってくる。みんな普通の服装の若い人たちだ。


 すると、私の意識がすっと上の方に行ったような気がした。


 でも私自身は元の位置に立っていて、みんなが私の頭の上あたりを見ているので私も上を見上げていた。


 するとそこに動画が始まった。

 しかも二次元の動画じゃなくって、見事なほどのVRの3D動画。

 見ている人たち、同じ方向からじゃなくて私を取り囲むように立っているのに、みんな動画を正面から見る形になってる。

 私だって下から見上げているのに、正面から見てる。


 映ってるのは私……? まだ幼稚園に行ってた頃……


 ――五歳の頃の私――


 場所は私の家。


「まあ、子供っていうのはなかなか思うように育たないものですね」


 笑っているのは、お母さん? 若い!

 近所のおばさんと話しているその後ろに、私はちょろちょろと隠れたり顔をのぞかせたり。


「いえいえ、優美ちゃんはいい子だって近所でも評判ですよ」


「まあ、そう言っていただけると嬉しいですけど。何かと手のかかる年頃ですし。でもまあ確かに聞き分けのいい子で、その分だけ手がかからずに済んではいますけど」


「まあ、ほんとにいい子でうらやましいわ」


 おばさんは私の頭をなでる。


「え? 私、いい子じゃないよ」


 あれあれ。優美ちゃん、何を言い出すの?

 ほら、お母さんの顔、ひきつってる。


「お母さんの言うこと、みんな嘘。私、お母さんの言うことでも、聞きたくないことは聞かないもの。いやなことはいやだもの」


 おばさんもバツの悪そうな顔をしてるし、お母さんも無理に愛想笑いを浮かべてる。

 それでも私、延々と自分がいかに悪い子かってあげつらってる。


 そしておばさんが帰ってから、笑顔だったお母さんが豹変して……さすがに顔や頭はぶたれなかったけど、逆さに抱きかかえられて思い切りお尻を叩かれた。


「この子ったら、大人の会話に口挟むんじゃないの! 余計なことぺらぺらと、お母さんの面目丸つぶれじゃないの!」


 泣き叫ぶ私の声。

 その私、なんでお母さんに叱られてぶたれているのかわからずにいる。

 本当のことを言ったのに叱られているのが、全く理解できないでいる。


 それからもいろんな出来事が映し出されて……


 お母さんは相変わらず世間体とか、見栄ばかり気にしてる。

 子供の私もいつしか、そのまねするようになってた。

 もうあんなふうにお尻叩かれるのいやだってことが、意識の下の方に潜んでしまったみたい。


 ――十歳の頃の私――


 学級委員になった私……。


「横田さんはクラスの細かいところまでよく気がついて、先生もとても信頼しています」


 みんなの前で先生にそう紹介されて、嬉しそうな私。

 でも、その時のクラスのみんなの声が今ははっきり伝わってくる。


 ……このちくり魔……ちくり魔……ちくり魔……ちくり魔……


 その時はそんなこと全く感じてなかった。でも、実はそう思われてたんだ。


「悪いことをしている人を見たら、先生に言うのが当たり前です」


 そんなこと言ってる小学生の私。

 でもその心の声が、今ははっきり伝わってくる。


――たくさんみんなの告げ口して、先生から褒められたい。私は優等生だもの……、優等生は優等生らしく行動しなきゃ……。


 ああ、縛ってる、縛ってる、縛ってる。

 自分で作った自分の虚像が自分を縛ってる。


 はっきり覚えていることも、そういえばこんなことあったっけって感じのことも、全く記憶にございませんってことも次から次へと映し出される。

 異世界ここに来てから頭に霧がかかったように元の世界のことを思い出せないって思ってたけど、逆に私ってこんな鋭い記憶力だったのって感じで、自分のこれまでの人生がすべて映し出されている。


 こんなのをよく「まるで走馬灯のように」っていうらしいけど、私はっきり言って走馬灯って何だか知らない。

 見たこともない。

 それよりなんか天才的料理人のアニメにそんなのあったっような……よくおもいだせないケド。


 でも、今の映像、本当に私の記憶力から出てきてるの?

 だって、クラスの男子が私のことを川に突き落とそうって計画してたってことも知らされる。

 そんなこと今初めて知ったんだし、私の記憶から出てきているわけじゃないって証拠。


 映像はまだまだ続く。

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