十三、とんだイベント ~Outrageous okazaĵo ~

 ……と、思いきや、なんか普通の町の繁華街なんかにいる普通のヤンキーたち……?

 そのまますれ違って……いや、肩がバンとぶつかって……


「おいおい、ぶつかっといて謝りもなしか」


 って、謝る暇も与えなくって因縁つけてきやがって……って、これじゃあまりにもベタな不良の絡みの常套手段。


 四人のお兄さん、どす黒いオーラに包まれて……いや、決してそういった雰囲気をオーラといってるわけじゃなくって、本当に黒いもやもやとした毒気に体中が包まれているのがはっきりと目に見える。


 いつの間にか周りの癒しの森の風景も、荒涼とした荒野になってる。

 絵梨香は私の腕をぎゅっとつかんでる。


「おい、金出せよ」


 真ん中の背の高い、体格のいいお兄さんが睨みをきかせてくる。

 ふん、ここじゃあ念じただけで家も建つし、服も好みの服に替えられるし、食べ物だって出てくる世界でしょ。

 お金なんていらないじゃないって思うけど、とにかくこんな変なやつらやっつけてやらないと。

 銃にしようか、剣にしようか、やはり剣がいい。もう、近すぎるもの。


「絵梨香、下がってて」


 まずはそれなりの戦闘スタイルに変身、そして剣を出して……え? どんなに念じても何も起こらない。


 私のスキルは? どんなチートなスキルでもいいから俺TUEEならぬ「私TUEE」で、こんなただのヒト族のただの不良なんてあっという間に……ばかな!


「なにを中二な想念発してんだよ」


 ヤンキーの兄ちゃんたち、笑ってやがる。その笑いが消えた瞬間、私の下腹部に激痛が走った。血がしたたり落ちる。ナイフで刺された。


「優美!」


 隣で絵梨香が叫んでる。その絵梨香もほかの仲間に囲まれてる。

 そのまま私、地面の土の上に押し倒された。そしてだいぶ殴られたり蹴られたりした。

 ここで服を脱がされて……られる……。


らねえよ」


 男はまた薄ら笑いだ。


「こんなガキの体なんていらねえよ。女はもう飽きた。今までさんざんやりまくってきたからな」


 別のやつが口を挟む。


「ここじゃあ、女とやりてえと思ったら向こうから裸でやってきて、もう次から次へとなかなか放してくれねえし、もうつくづくこりごりなんだよ。それより」


 この人たちも、転生者なんだ。


「金出せよ。俺たちは金が欲しいんだ」


「そんなもの持ってない」


 たしかに私、財布も持たないで家を飛び出したんだ。でも、この世界に来てからは財布がないからって困ったことはなかった。


「ここでは、お金なんていらないでしょう」


「ああ、金なんてなくても何でもできる。でもよお、一つだけできねえことがあんだよ。それは俺らの仲間のところに帰ることだよ」


 元いた世界に帰りたがってる、この人たち。


「よく覚えてねえけど夜の町でけんかして刺されて、死んだと思った。でも死んでねえで生きてて、なのにこんな世界に突然転生させられた。訳が分かんねえ過ぎる」


 こいつ、よくしゃべる。聞きもしないこと、ぺらぺらと。

 そんなこといちいち言わなくても全部わかっちゃうのに……。

 こいつ、まだ転生して来たばかりで、心の中が互いに丸見えってことがわかってなな。

 ひとの心の中は読み取ってるくせに。


 それにしても、お腹が痛い! 普通に刺されたよりも数十倍痛い。


「金さえあればできねえことなんかねええ。だから、金さえあればきっと帰れる」


「そんなわけ……」


 その時、隣で三人の男に囲まれて小突かれていた絵梨香の蹴りが男たちの腹に入った。そしてさらに素手での攻撃で、どんどん相手を倒していく。


 そうだ! 絵梨香って空手部のエースで、全国大会にも出たくらいだった。


 やつら、慌てて逃げていった。


 絵梨香が私のそばまで駆け寄ってくれた。私の腹に刺さっていたナイフも、いつの間にか消えていた。


「立てる?」


 そう言われて立ってみたら、すくっと立てた。

 顔の正面の太陽の光がスーッと入ってくると、私の刺された傷もスーッと消えた。あれほど痛かった死ぬほどの激痛も、全くなくなってる。

 顔の殴られた痣も消えたのだろう、顔にも殴られた感触がない。

 いつものふわっとした軽い体になってる。


「えっと……」


 私はただ茫然としていた。 

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