十二、異世界バトル ~Malsama monda batalo~
夜が来ないから、本当に時間の経過というものがない世界だと思う。
だから、家を建ててもあまり家の中にはいない。
家の中はシンプルで、まずはベッドがいらない。だって夜がないんだから寝ないし、寝ないからベッドもいらない。眠くなったりもしないし。
それとトイレもない。使う必要がない。
お風呂はあるけどリラックスするために入るって感じで、体が汚れたから洗うって感覚はない。
それも、目の高さの太陽からの光を浴びている方が気持ちいいから、あまりお風呂に入らなくなった。
別に体が汚れるって感覚はないから不思議。
時間が存在しないから区切りもなくて、自動的に「お風呂の時間」なんてものも存在しない。
そのうち、お風呂も家から消えていた。
食事も適当に食べたくなったら、念じて食べたいものを出して絵梨香と一緒に食べる。
純粋に楽しむためだけの食事。
食べなきゃ死んじゃうって感じもないし、空腹もない。
ただグルメを楽しみたいってだけで食事してる。
やることもなく暇かっていうと割とそうでもなく、たいていは家の外にいて村の人々と交流している。
もう何も隠しごとのないあけっぴろげの交流。
笑い声が絶えない。
私と絵梨香のほかに、転生者は数十人くらいいるかなあ。あとNPCが十人くらい。
NPCっていったって決してモブ的な存在じゃなくって、むしろ私たち転生者をサポートし、指導するための存在みたい。
転生者の人とはいろいろ話するけど、転生する前の話はあまりしない。
ていうか、みんなそのあたりの記憶があいまいになってる。
断片的には医者でした、公務員でした、漁師でした、スーパーの店員でした、教師でした、サラリーマンでしたっていろいろで、年齢も四十代、五十代、中には九十近い年でここに来たって人もいるけど、みんなそうはいっても二十歳前後の若者。
転生して来た時はそれぞれの年齢だったけど、いつの間にか二十歳前後になってたって。
全体的に年配だった人が多いみたいで、道理で多くの家が昭和チックなんだ。
私たちも普通の高校生でした以上のことは言えない。
言いたくないから言わないんじゃなくって、それ以上の記憶がなくなってる。
でも、なんか刺激がない。
せっかく異世界に転生したのだから、異世界バトルの一つでもないかなって思う。
だけど、絵梨香やほかの村人を相手にバトルをするわけにもいかない。
一度、念じただけで家も建つし食物も出るんだからと、念じてモンスターを出現させようと思ったけど、なぜかそれはできなかった。
時には村の外をも散歩する。
いつも絵梨香が一緒だ。
日本の地方都市郊外と変わらない感じで村の外は森があったり湖があったりするし、けっこうすがすがしい。
小鳥のさえずりも聞こえる。
まじ心なごむ。この世界って本当に心が落ち着くね。
時間に追われて毎日を忙しくあくせくと動いていた(らしい)あの日々はいったい何だったの?
時間というものが存在しないだけで、こんなにものんびりと暮らせるんだ。
でもたしかに心落ち着くし、なごむんだけど、でも……こんな時にこそ何かイベントがほしいなあって思う。
ほら、思ったらさっそく何か始まりそう。
でもなんか、いやな予感……いやいやいやいや、やっと退屈さをしのげるイベントの始まりだあああああぁぁぁぁ!
ここへ来てから頭はヴェールをかぶったように鈍くなってるけど、逆に感覚はこれまでの数十倍も研ぎ澄まされて敏感になってる。
何かが起こるという嫌な予感……じゃなくてわくわく感は本物だ!
キタ-----、前方から魔の集団が……モンスターか、魔族か、いきなり魔王のお出ましか……。
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