十、薄れゆく記憶 ~Forvelkanta memoro ~
とにかくこんな出来事がずーっと続いてる。
だぶん、もう何日もたってるんじゃないかなって思う。
でも夜がないし不思議と眠くもならないし、区切りってものがないからどのくらいたったのか本当に分からない。
ってか時間というものがないのなら、何日もたってるってこと自体がないのかも。
家は確かに念じただけで現れた。
村自体も普通の日本の地方都市の郊外って感じだし、家も普通の日本の現代建築の家。
だからますます異世界って感じじゃないね。
村の人たちも普通に日本人だし。
家ができたからって別にやることないし、だから絵梨香とずっとおしゃべりばかりしてた。
だけど、学校のこととか友だちのこととかアニメやアイドルのこととか、そんな元いた世界のことを話そうとしても、頭の中にヴェールがかかったようで思いだせない。
それは、絵梨香も同じみたい。
なんだかもう遠い世界の出来事って感じ。
試しにいろいろ思いだしてみようとした。
日本史の年代、英単語、数学の公式、古文の動詞の活用……私けっこうそういう暗記ものは得意だったのに、そのほとんどが出てこない。せいぜい三分の一くらい……?。
私がPだったアニメシリーズの男性サイドの声優ユニットも、推しメンの名前さえ出てこない……。
「もうそんなこと、どうでもいいじゃん」
私と絵梨香の家の中で、絵梨香が笑っている。
考えてることが全部伝わっちゃうっていうのは、時にば便利だけど時にはちょっとやだな。
「そういえば、南さんと何かあったの?」
「あった。でもよく思い出せない」
絵梨香はそう言うけれど、突然絵梨香の頭の上の空中で動画が再生される。
――人間なんて、みんな嘘つき! 顔はにこにこして口ではいいこと言って、実際は何考えてるかわからない!
あの誰とも口をきかないような陰キャと思ってた南さんが、絵梨香に思い切り詰め寄っている。絵梨香がなだめてる。
でも動画はそこで終わり。
「これ以上は思い出せない。でも、元いた世界って、他人が考えていることがわからないから、ある意味ここより便利だった。だって、隠せたからね」
なんか絵梨香とはいつもしょうもない話でゲラって、じゃれ合ってばかりいた友達って感じだったから、こんなマジ話するの初めてかも。
やっぱ私も本音では生きていなかったかなあ?
「そうよ。あの世界では、みんな演技してるだけだもの。相手の心がわからないから、いくらでもごまかしがきくしね」
「でも、なんであの世界のこと、だんだん忘れていくんだろう」
「頭で覚えたことは、どんどん忘れる。その代わり、心に響いたこと、魂に刻んだことはかえって記憶が鮮明になるね。感動したこととか、うれしかったこととか、でも人を憎いと思ったり嫉妬したり怒ったりとかも」
「よく時が解決してくれるなんてことあったけど、ここはその時というものがないんだから、いつまでも消えないってことか……」
なんだか異世界は異世界でもとんでもない異世界に来ちゃったみたい。
「とんでもなくも素晴らしい世界へようこそ」
いつの間にか、NPCのアキラさんが私たちのそばにいてニコニコ笑ってる。
「はい!」
力強く私はうなずいた。
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