九、家 ~Domo ~
「あの村」
絵梨香が山の上から見る景色の中の盆地の中央にある森を指さした。
「あそこだね。まずは行くところは」
絵梨香についてそのはるか遠くに見えていた森の方へ二、三歩歩いただけで、もう森の入り口に来ていた。
ここって時間が存在しないだけじゃなくて、空間というものも存在しないのかなあ?
そうでも考えないと、この瞬間移動は説明がつかない。
村の中にいて、こっちを見て手招きしている若者が見えた。
もう、すぐに私はその若者と向かい合って立っていた。
普通の若い人のラフな服装だけど、その伝わってくる心の波動からこの人は転生者じゃないみたい。
なんていうの、言葉じゃ説明できないけど、そう、NPCみたいな感じの人?
「こんにちは。ぼく、アキラっていいます」
次の瞬間、私は頭の上からつま先まで、電流のようなものが走るのを感じた。何だか、懐かしいって感じ。
心の中の全部の鐘が一斉に打ち鳴らされたといってもいいくらい。
アキラさんって超絶イケメンってわけじゃないけど、それなりの外見。
もちろん初対面のはずなのに、初対面とは思えない何かがこの人にはある。
その人はニコニコ笑って立っている。ただそれだけなのに、私のすべてが知られてしまうって気がして、私は顔がほてってきた。
そして、なぜか涙さえ出てくる。心の中の冷静な部分はなぜ、なぜ、なぜって聞いてるのに、それとは関係なしに涙がどんどんこぼれる。
胸も熱い。
何かこれが、本物の「感動」っていう感じ。真理香も同じように、涙を流していた。
「あなた方はこれから本当のふるさとに行くんですから、執着はいちばんの妨げになります」
シュウチャクとか本当のふるさととか、またなんか訳の分からない言葉が出る。
でも、私にもこの人の考えていることが何となく伝わってくるし、素直に聞けるから不思議。
そしてまた、余計に感動する。
「一切の執着を断って、本来の自分の姿、
アキラさんはその後ろにいつのまにか集まってきていた村の人たちを、私たちに示した。
「みんな、仲間です。まずはこの村で暮らすのですよ。あなたたちは」
それを聞いてなぜか私の心は勝手に感動していて、どんどん涙が出てくる。
「「「「こんにちは。よろしく」」」」
村の人たちはみんなやはり若者で、ニコニコしながら口々にそう言って近づいてきて握手を求めてくる。
なぜか嬉しくて、なぜか暖かくて、私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。村の人たちも泣いてる。初めて会う人たちなのに、やっと再会できたって感じるのはなぜ?
この村には、ふるさとの暖かさがある。何かずっと昔、私この村にいたことがある……ような気もする。
「さあ、あなた方の家を建てなさい」
アキラさんはにこやかに言う。
「え。でも、建てるって言ったって……」
私は絵梨香と、互いに涙顔のまま顔を見合わせた。私たちに、家なんか建てられっこない。
「建てられっこないなんてことはないですよ」
アキラさん、笑ってる。
「ここは想いの世界、想念の世界ですからね。思いはすぐに形になります。思念を凝集すれば家もできます」
村を見渡してみる。
村というよりも町に近いかも。
かなり多くの家が密集している。でも決して中世ヨーロッパのような異世界の町じゃあなく、普通の日本の集落。
ただここも最初の村のようにレトロな、昭和っぽい家が多い。
そんな集落の空き地に私は絵梨香と並んで、二人で強く念じた。すると今まで私や絵梨香が住んでいたような、普通の現代の家が現れた。
――あれ?
私は首をかしげた。アキラさん、それを見て笑ってた。
私がイメージしたのは、せっかくだからと思って某ねずみの国にあるようなメルヘンチックな家だったのに……
隣にいる絵梨香も同じことを考えて、やはり首をかしげている。
「あなたがたが頭の中で思い描いた家とは違うから驚いていますね。でも、実際に現れるのは頭で考えた家ではなくあなたがたの深層心理にあるイメージ、つまり『心』のそのもっと奥にある『想念』が現象化します。あなたがたはお二人とも心の奥底の想念では、普段暮らしていた普通の家を欲していたのですよ」
私は絵梨香を顔を見合わせた。
「ま、いっか」
私たち、二人して笑っていた。
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