二、絵梨香がいない ~Ne estas Erika ~


 けど、なかなか南さんからの返事は来ない。

 だから私、絵梨香に電話してみた。


 ん? 出ない。何度も鳴らしてるけど、出ない。


 仕方なく切ってから、もう一度メッセの画面見てみる。

 南さんって子からの返事はまだないし、既読もついてない。

 そのまま五分くらい待って、もう一度絵梨香に電話……また出ない……南さんの既読もつかない。

 めっちゃいやな予感……胸騒ぎ半端ない……。


 絵梨香にメッセしてみる。


「南さんって子からなんか変なメッセ来たよ? 絵梨香が私のID教えた? 電話ちょうだい」


 いつもだったら絵梨香はわりとすぐに既読つけるし、こう言えばすぐに電話かけてくる。

 だから待った。……でも、電話来ない。……既読もつかない。


 もう一度絵梨香に電話してみる……やっぱ出ない。


 私、思いきって南さんに電話してみることにした。なんかめっちゃ怖いけど、それしか今の胸騒ぎを抑えられない。

 南さんが私のIDでメッセくれたってことは、もう勝手に友だち登録されてるはず。だったら、無料通話できるはず。

 だから私は南さんのメッセージが表示されている画面の上の、電話のマークをタップして携帯を耳に当てた。


 呼び出し音、鳴ってる。だったら、つながるはず。

 でも、いつまでたっても呼び出し音のまま。


 仕方ないからもう一度、絵梨香に電話……やっぱ出ない。


 だから私、絵梨香の家電いえでんにかけてみた。

 今度はすぐに出た。


「はい、竹村です」


 声でわかるけど、絵梨香のお母さんだ。


「あのう、横田ですけど」


「あ。優美ちゃん? 絵梨香がお世話になってます」


 今日はそんなお愛想の挨拶はスルー。


「あのう、絵梨香は?」


「え?」


 今度はお母さんが凍り付いたような声。


「あのう、優美ちゃんのおうちでお世話になってるんじゃないの?」


「え、待って、どういうことですか?」


 今度はこっちの声が凍り付く。


「今日、学校からまっすぐ優美ちゃんち行って、そちらに泊まるって。今あなたのおうちのかたに電話しようと思ってたとこなんだけど」


「学校って……」


 絵梨香、今日学校休んでた。お母さんはそれ知らない……。


「だって絵梨香、今日」


 私はそこまで言いかけて、抑えた。


「あのう、今からそちらへお邪魔してもいいですか?」


「え? あ。あの、別に構わないけど、いったい何がどうなって……」


「直接お話しします」


 なんだか電話で言ってしまっていいことではないみたい。


 私は部屋着から着替えて、玄関への階段を下りた。


「ちょっと絵梨香んちに行ってくる」


 母に声をかける。絵梨香の家は自転車ですぐだから、だめとは言わない。


「遅くならないようにね」


 母が言ったのはそれだけ。すぐに中学生の妹の美帆が廊下に顔を出す。


「お姉ちゃん、私先にお風呂入っていい?」


「いいよ」


 振り向きもせずにそれだけ言うと、私はもう外に飛び出していた。


 暗くなった住宅街を、私は自転車を飛ばす。

 もう人通りも少ない。

 とにかく焦ってた。胸騒ぎはますます強くなる。


 途中、大通りを横切る。そのままのスピードで、私は渡りきろうとした。


 その時、私の全身は閃光に包まれた。

 ああっと声を発する間もなかった。二つの大きな光の玉が低い位置からこっちに飛んでくる。


 次の瞬間、体中に衝撃を感じた。でも急に体は軽くなってふわっと宙に浮いている感覚だった。

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