二章 悪役令嬢は沈黙の魔女がお好き ③
* * *
「オーッホッホッホ! ご機嫌よう!」
屋敷のどこにいても聞こえてきそうな高笑いでモニカを出迎えたのは、モニカと同じ年頃の少女だった。
身につけているのは
モニカが
「あーら、ご機嫌よう、モニカ
言葉の意味を理解できずとも、その声に込められた明確な敵意がモニカに突き刺さる。
気の弱いモニカは、他人の悪意に敏感である。ほんの少しでも
イザベルの悪意たっぷりの言葉に、早くもモニカの目には涙が
だがモニカがその場にうずくまるより先に、イザベルは意地悪そうな表情を引っ込め、
「今のいかがですか? 悪役令嬢っぽくありませんでしたこと? わたくし、今回のお役目をいただいた時から、毎日ずっと欠かさずに発声練習をしてまいりましたの! この高笑いのキレは
高笑いのキレとは一体。
モニカが目を点にして
「あらいけない、わたくしったら自己紹介もせずに、はしたない」
イザベルはドレスの
「お初にお目にかかりますわ、〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット様。ケルベック伯爵アズール・ノートンが娘、イザベル・ノートンと申します。黒竜討伐の際には大変お世話になりました。父と領民に代わって、感謝の意を述べさせてくださいまし」
衝撃のあまり彫刻のようになってしまったモニカに、イザベルはニッコリと
それは意地悪さなんて
「あぁ、あの恐ろしいウォーガンの黒竜を退け、翼竜の群れを撃ち落とした七賢人様が、こんなに可愛らしいお方だったなんて! 聞けば、わたくしと一歳しか違わないというではありませんか!」
一歳違いということは今年で一八歳だろうか、とモニカが
「あぁ、どうか……モニカお姉様とお呼びすることを、お許しくださいますか?」
まさかの年下だった。
「あ、あの、えっと、その……」
モニカがうろたえていると、今までソファに座ってこのやりとりをニコニコと眺めていたルイスが口を挟んだ。
「ほらほら同期殿、これから貴女に協力してくださるイザベル様にご挨拶は?」
「よっ……よろ、しく……おねがい……しまふ」
モニカが
「申し訳ありません、イザベル様。〈沈黙の魔女〉殿は少々シャイな方でして」
「いいえ、いいえ、気にしませんわ。モニカお姉様はシャイで……でも誰よりも強くて勇敢なお方であると、わたくし知ってますの!」
一体それは誰のことだろう、とモニカは思った。少なくとも強くはないし、勇敢でもない。
だが完全に自分の世界にトリップしているイザベルは、薔薇色の頰に手を添え、うっとりと語り出した。
「ウォーガンの黒竜は、竜騎士団でも退治は難しいと言われていました。黒竜の吐く炎は
「あの……えっと……」
なお、モニカが黒竜退治に参加したのは、ルイスに「たまには運動をされてはいかがですか?」と無理やり山小屋から引きずり出されたからである。
だが、そんな事情を知らないイザベルの目には、モニカが勇敢で謙虚な大魔術師に映るらしい。
盛大な誤解であるが、それを説明できるほどモニカは雄弁ではなかった。
ルイスにいたっては、この誤解を最大限に利用しようとしている。
「お姉様! 今回はフェリクス殿下の護衛のために、セレンディア学園に潜入されるとうかがっております! そのお手伝いができること、大変光栄に思いますわ! お姉様が疑われることがないよう、わたくし、お姉様を徹底的にいびって、いびって、いびり抜きますので! 安心して殿下の護衛に専念してくださいませね!」
そう言ってイザベルはモニカの手を取り、ブンブンと力強く振る。
完全にその場の空気に流されているモニカは、されるがままになりながら頷くのが精一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます