第2話 王立騎士養成学校
ここは王立騎士養成学校、戦闘部隊のVRT《ヴァーチャル・リアリティ・トレーニング》ルーム。
ここでは戦闘に特化した騎士を育成する為、日々実戦と同様のデータを用いて疑似戦闘を行っている。
その中でひとりの青年が、データ化された機械兵士と戦闘を繰り広げていた。
素早い身のこなしで弾丸を避け、弾き、機械兵士の硬い装甲の隙間を狙って手に持つロングソードで破壊する。
機能を停止した機械兵士を盾に、銃を発砲する機械兵士に迫り、停止している兵士ごと剣で突き刺した。
そのまま兵士が手に持つ銃を持ち、壁の後ろに隠れていた機械兵士に対し、弾丸を壁に貫通させて機能を完全に停止させた。
「うむ、流石レカム・スターチスだ。天才と言われるのも頷ける。任務完了だレカム、終了しろ」
「了解」
手に装着している端末に触れると、周りの景色が緑の光となって消え始め、灰色の壁が顕になっていき、青年はあっという間に何もない灰色の空間に立たされていた。
青年は息を吐いてから手に持つロングソードを背中に納めて、装着していたゴーグルを外す。
「模擬戦闘訓練、パーフェクトはお前だけだ。実践経験者の実力は違うということか」
「ありがとうございます」
「本日の訓練はこれで終わりだ。明日の訓練に備え、身体を休めるといい」
「了解、それでは失礼します」
喜ぶこともなく、ただ淡々と答えて部屋を後にする青年の名は、王立騎士養成学校 戦闘部隊並びにナイトメア前線戦闘部隊所属、レカム・スターチス。
「よぉ、レカム! さっきの凄かったな!」
「レカム君。お疲れ様、良かったらこれ飲んで」
「流石は天才レカム様だな!」
先程の戦闘を見ていた【騎士見習い】たちから声を掛けられるものの、青年は反応する事なく食堂に向かい、端の席に座った。
「相変わらずつまらなそうだね、レカム」
そう言いながら、小柄で華奢な少年が反対の席に牛乳を飲みながら座った。
「お前、またそれ飲んでるのか」
「まーねぇ、僕ってほら小さいじゃん? 身長あったらもっとモテると思うんだよねぇ」
小柄で華奢なこの少年は、王立騎士養成学校 技術開発部所属のライラック・アイリス。
「またか。ライラも相変わらずだな」
「んなっ、またっていつもこれ飲んでる訳じゃないよ! 僕だって時にはコーヒーを片手にしっぽりする事もあるのさ」
(しっぽり?)
「つまり大人、ってことさ」
(多分、違う)
心の中で不思議に思いながら、「そうか」とだけ呟く。するとライラはカバンから何かを取り出したかと思えば、飲み物をテーブルの上に並べ始めた。
「じゃーん、これが僕の大人シリーズだよ」
(大人シリーズ、多いな)
「いつも持ち歩いてるのかこれを」
「筋トレにもなるしね! 僕の魅力はそういう地道な作業の積み重ねにこそあるんだよね」
(震えながらよく歩いているのは、これが原因か)
ライラは「そんなことよりっ」と上機嫌で大人シリーズをかばんに詰め込んでから何やら下の方からクシャクシャの記事をレカムに手渡した。
「見てよ見てよ! 僕の功績が記事に乗ったんだ、凄いでしょ!」
「製造した武器がナイトメアの正式装備に認定……正式装備とは凄いな」
「でしょでしょ! これには僕の相棒であるレカムも鼻が高いだろうなと思ってさ。いやぁ、これじゃかなりモテちゃうね僕」
(あまり褒め過ぎは良くないな)
上機嫌なライラを無視して、周りを見渡してみると、この時間帯からは人が増えていくはずだが、未だに席はガラガラ。
(静かなのはいい事だ。今日はゆっくりできる)
食堂にある自販機で缶コーヒーを買って、またライラのいるテーブルに座る。
「今日全然人がいないね」
「珍しい日もあるんだな。毎日こうであってほしい」
「あっ、思い出した! レカム、僕と指揮統括部隊にいかない?」
「指揮統括部隊に? 何かあるのか?」
ライラの趣味は機械と女性。つまり、それ以外に興味を示すことはなく、指揮統括隊で扱われている機器に興味があるのか、それとも……。
(考える必要はないか)
そう、おそらく女性関係のことだろう。
「何でも指揮統括部隊で天才美女がいるらしいんだよね」
(当たった)
「なんだかワクワクしちゃってさ! ねっ、見に行こうよっ!」
「断る」
「えぇ、ほんとに! ありがとう! レカムもいてくれると心強いなぁ……って」
ガタンと音を立てて、立ち上がったと思えば胸元を掴んで泣きながら押したり引いたり押したり引いたりの連続で、首がおかしな方に曲がっていないか心配になってくる。
それでも断る。
「んねぇ! いいじゃん別に! 減るもんじゃないでしょ?」
「嫌だ」
「可愛い女の子だよ? レカムも見たいよね?」
「興味ない」
「嘘だぁ! 嘘だと言ってよぉ!」
(首が取れそうだ)
正直なところ、その天才美女? がいることは前から知ってはいた。名前までは分からないにしろ、適正数値がほぼ限界に近いという噂が本当だとするなら、かなりの逸材に違いない。
適正数値は1から100の数値で、数値によってFからAランクに格付けされる。主にcランク(適正値60以上)から初めて能力が発揮されると言われている。
この学校は、適正数値によって戦闘部隊なら戦闘数値が、指揮統括部隊なら指揮数値が、技術開発部なら技術数値が高い者と、入学前に行なわれる適正判断実技試験で査定され、それぞれ高い能力の部隊に配置される仕組みになっている。
当然、希望に反する部隊に配置される結果にもなり得るが、稀にふたつの数値が同じ者も存在する。
それらはふたつの部門を行き来し、どちらの能力も高めるか、どちらかのみを希望するという選択肢が与えられる。
(大半はどちらかのみを選ぶ。ふたつの行き来は辛い)
そしてその適正数値がほぼ限界というのは前例に無く、奇跡とも言われているのだ。
「ねぇってば、どこ見てるの!? 何を考えているの!?」
(ライラの数値は戦闘値22、指揮値31、技術値91と圧倒的に技術値がずば抜けている)
「レカムぅ!」
(俺自身の数値は戦闘値92、指揮値90、技術値……あまり言いたくないが3だ)
「確かにレカムは戦闘も指揮能力もずば抜けているけど、そのレカムの指揮値を上回る逸材だよ? 少しだけで良いから!」
数値は5の差があるだけでも、変化が見られるほど、その値は細かく緻密に設定されている。
つまり、その指揮統括部隊の天才美女? は知力なら誰にも負けない能力があるということだ。
「あっ、そうだ! 後でレカムが好きなケーキ奢るからさ。いいでしょ?」
「グズグズするな、行くぞ」
「え……」
「ケーキ屋が閉まるまで時間がない。急ぐぞ」
「えぇ……ま、待ってよぉ!」
(これからはこの手を使おっかな)
途端に走り出すレカムの後を追いかけるライラック。そんなふたりの様子を暗闇からモニター越しに見つめる男。
「オダマキ様、どうやら天才と【超人】が接触するようです。予定より早いですが、あのライラックという子ども、中々に使えそうですね」
「うむ。早ければ早い程データが多く取れる。我々の叡智の結晶……【H計画】の完成は近い」
(この人、いつも暗いところでモニター見てるけど、絶対目を悪くするよなぁ)
「ククッ……天才と超人、取り入るか、溶け込むか、或いは喰い殺すか……。引き続き監視を続行しろ」
「はっ、失礼致します!」
(自分の子どもには明るいところでテレビを見させよう)
ひとり暗闇でモニターを見つめる男、オダマキ。独立戦闘騎士団、ナイトメア総隊長並びに総司令官。ナイトメア最高、最強の騎士の異名を持つ男の瞳に映るのは、一体?
「レカム・スターチス、シオン・アング……叡智を極めし我が子どもたちよ。戦争は……終わらない」
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