第25話
曲のキリがいいタイミングで、僕たちは
次に訪れたのは1年生の教室が立ち並ぶ2階。
1-Gの『
その名の通り、縁日でよくあるゲームが何個か設置されている。入口でカードを渡され、それらのゲームで稼いだ合計得点で最後に景品がもらえるシステムのようだ。
受付でもらった紐付きのカードを首からかけると、
「負けた方は勝った方の『お願い』をなんでも聞くっていうのはどう?」
「なんでも……?」
「そう。お互い競い合った方が楽しいでしょ?」
「たしかにな。んじゃそうするか」
そう言って彼女の提案に乗ったものの。
――僕が勝ったら小峰になにをお願いしたらいいんだ……?
一番はもちろん「付き合ってください」だが、「なんでも」とは言えさすがに無理なら無理と断られるだろう。
結局良い案は浮かばないまま、脳内がピンクに染まった状態でゲーム合戦が始まった。
最初の試合は輪投げ対決。
輪っかを投げて床に設置されたピンに通すだけだ。一応輪によって点数が決められており、真ん中最後方にある金色のピンが高得点らしい。
先行は小峰だ。
「ふっ!」
長いリーチを存分に活かして輪っかを投げていく。高得点狙いのようで、結構な力を入れた
しかしその目論見ははずれ、輪っかは後ろの壁に激突してピンをくぐることなく床に落ちる。ヒットしたものもあったが、どれも大した点数にはならない。
結果は……まあ、そこそこってところだ。
「うーん、しくじったな……」
小峰は悔しそうに首を捻っていた。
次は僕の番だ。
「ほっ!」
テープで区切られた場所から次々に投擲。
別にコントロールとかに自信があるわけではないが、この時はたまたま上手くいったらしい。
五つ投げたうちの二つが金色のピンを通過し、それなりに良い成績に終わった。
「む。やるね、片桐くん」
「へへ、一歩リードってところかな」
「次は負けないから」
拳を握り、意気込む小峰。
そういえば、勝負を言い出した彼女は一体なにを「お願い」するのだろう。
ふとそんな考えが頭をよぎったが、訊ねる合間もなく次のゲームに案内される。
*
続いてはモグラ叩き。
それって言うほど縁日か……? と、思わなくもなかったが、細かいことは気にしちゃいけない。
箱に開けられた穴から出てくるモグラをひたすら叩くゲームだ。もちろんゲーセンにあるやつみたいに機械ではないので、仕掛けの向こうにはスタッフがいる。案内役のスタッフが裏でこそこそ会話をして、ゲームが始まった。
今度は僕が先行だ。
最初ということで
ポンポンと軽く叩いて、「ああ、これスリッパを改造して作ってるんだなぁ……」とか余計なことに思考を巡らせる。
チュートリアル的な感じなのだろうが、
もっと歯ごたえのある難易度にしてくれてもいいんだぜ? とか思った矢先に――
ヒュン、ヒュンヒュンヒュン!
「え⁉ ちょ……この!」
途端にスピードが上がる。
不意を突かれたが、
「終了でーす!」
あっけにとられたままブザーが鳴ってしまった。
「くぅ……!」
さっきは良い調子だったのに、ここで得点を稼げなかったのは痛い。
「次はわたしだね」
そう言って、小峰は僕と交代する。
だがあのスピードでは点差を縮めるのも厳しいだろう。
ここでこちらの優位は崩れることはない。
――とか思っていた時期が僕にもありました。
「うおお……⁉」
この感嘆は後ろで見ていたスタッフのもの。だが、僕も似たような声を漏らしていたと思う。
小峰は尋常ではない反射神経で、次々と出てくるモグラをシバいていく。
僕らのような凡人は、バトル漫画で強者同士の戦いを眺めるモブみたいに残像を追うことしかできない。
と、そこでブザーが鳴った。
結果は……。
「ぱ、パーフェクトです!」
「よし!」
ガッツポーズをする小峰。スタッフたちは若干引き気味だ。
「すごいな小峰」
「えへへ。部活で鍛えてますので」
照れながら言うが、あれはどう考えても部活レベルで磨ける能力ではなかった。
小峰明日香、生まれた時代が違えば無双の武人となっていたかもしれない。
*
そして最終決戦、射的ゲームである。
コルクガンで台に並ぶ的を狙撃する。こちらは的ごとの点数などは特になく、シンプルに当たった数が得点となるらしい。的は全部で10個。用意された弾も10発だ。
ここまで交互に来たので、通例に習って小峰が先行。
今のところの合計得点は彼女が勝っているため、ここでまたパーフェクトを出されたら僕に勝ち目はなくなってしまうが、
「当たらないぃー……」
発射されたコルク弾は的の合間をスカスカと通過する。
天は二物を与えなかったようだ。鬼のような反射神経を有していても、射撃の腕はイマイチらしい。
小峰には悪いが、僕は内心ほくそ笑んだ。
命中したのは10発中2発。
点数的には逆転が狙える
「ここで決めたかったのに……はい、片桐くん」
「ん、しっかり逆転してやるよ」
僕は小峰から銃を受け取り、規定の位置に立つ。
銃を構えて慎重に狙いを定め――
1発目、命中。
2発目、命中。
3発目……あ、クッソ。外した。
4発目、命中。
そんな感じで順調に当てていき、残りの弾数は2発。
この2発を当てれば小峰に勝利することができる。
そして運命の9発目――命中!
あと1発だ!
「あぁ! そんな!」
背後で小峰の悲鳴がする。
フフフ。悪いが、お前の願いは聞けないぜ。
そうして僕は一度深呼吸をしてから銃を構え、発射。
コルク弾は真っ直ぐ飛んでいき、台の上に並ぶ的に――
見事命中した。
「よっしゃー!」
思わず
「うあぁ……負けちゃったぁ……」
一方の小峰はガックリと肩を落としていた。
「へへ、僕の射撃技術を甘く見たな!」
「片桐くんがこんなに射的上手だったなんて……」
「ま、僕も初めて知ったんだけどな」
「悔しい……」
そんな感じで勝利の
「あの~。少々よろしいでしょうか~」
スタッフから声をかけられた。
「え? なんですか?」
「大変申し上げにくいんですけど……お客様、先ほどから規定の線を越えちゃってたらしくて……」
そう言われて、僕は恐る恐る足元を見る。
すると、僕の足はテープで区切られた箇所から一歩分はみ出ているではないか。
「……ま、まさか…………」
口元を震わせてそう言えば、そのまさかの言葉が返ってきた。
「すみません……射的での得点は無効になります」
「そんなぁ!」
今度は僕が嘆く番だった。
思いがけぬ幸運に小峰は顔を
こうして、ゲーム合戦の結果は小峰の勝利ということで幕を閉じた。
*
得点を記入したカードを持って、僕たちは出口のスタッフのところに行く。
すると、景品を渡される前にスタッフの女子が緊張した面持ちで声をかけてきた。
「あ、あの……小峰先輩!」
「え? わたし?」
「はい! あたし、ずっと小峰先輩に憧れてて……さっきの劇、すっごくかっこよかったです! 一緒に写真撮ってもらえますか⁉」
「うん、構わないよ」
「やった!」
そうして、その女子は自分のスマホで小峰とツーショットを撮る。
よーしこれで景品もらって次行くかー、と思ったのだが、
「小峰先輩、わたしも……」「あ、ズルい! 私もお願いします!」「あたしもあたしも――」
他の持ち場についていた女子たちが、
小峰の女子人気は1年生が大多数を占めている。かっこいい先輩というのは憧れの的になりやすいのだろう。
とはいえこれはさすがに――
「多すぎないか?」
ツーショットを撮ってから、1-Dの教室は瞬く間に恋する乙女たちで溢れかえった。
小峰がいると聞きつけた他の1年生たちも中に入ってきたらしい。
「す、少し落ち着いて……」
小峰は必死に場を収めようとするも、彼女たちの勢いは止まらない。
「ちょっと押さないでよ!」「私が先でしょ⁉」「いーえ、私です!」「あたしが先だって!」
教室内は大混乱だった。これでは店の運営すらままならない。
生徒会として、この状況を見逃すわけにはいかないだろう。
そう思って僕は――
「小峰! こっち!」
「え⁉ う、うん!」
彼女の腕を引いて1-Dから飛び出した。
「明日香様が逃げたわ!」「待ってー小峰せんぱーい!」「わたしまだ撮れてないのにー!」
僕は嘆く1年女子たちに向かって、
「3時から始まる2-Bの演劇見に来てくださーい! そこならいくら写真撮ってもらっても構いませーん!」
と叫び、スタコラサッサと逃げ
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