第2話
「むぐっ……」
顔全体を
魅惑の感触に思考が溶かされる。
沸き立つ
――なんで……なんでこんなことに……。
そう心の中で嘆きながら、僕は現在に至るまでの経緯を振り返った。
*
体育があった日から二日が経過した土曜日。
一般的には休日ということで授業は休みなのだが、僕たち生徒会は翌月に控えた文化祭の打ち合わせで登校していた。
「ちょっと行ってくる」
「おーう行ってら」「行ってらっしゃい」「お気をつけて」
僕は役員が詰めている生徒会室を出る。
文化祭を前に、学校の公式ホームページを
僕はそこに掲載する校内写真を撮るため、デジカメを片手に廊下を歩き出した。
日当たりの良い教室で一枚。
蔵書数が売りとなっている図書室で一枚。
学食のテラス席で一枚。
着々と素材を撮影していき、残るはグラウンド周辺と体育館だけだ。
連絡通路を渡ってテニスコートに目を向けると、
「……さすがに他校生を写すわけにはいかないよな」
僕はテニスコートの撮影を後回しにすることにして、体育館へと向かった。
入り口へと近づくと、中から活気のある音が漏れ聞こえてくる。
ダムダムとボールが跳ねる音。シューズが床を擦るスキール音。そして生徒たちの威勢の良い掛け声。
館内はサウナのような熱気に満ちていて入って数秒で汗が出てきた。
僕は練習を監督している顧問の下へ行き、撮影の許可をお願いする。
練習していたのは女子バレーボール部だった。
列に並んだ生徒たちが順繰りにスパイクを打っていく。
その中には当然、
長い手足にバレーのユニフォームがぴったりと似合っている。
体格のしっかりした女子が多い部内においても、彼女の身長は飛び抜けていた。まるで子供の中に大人が混じっているみたいだ。
「って、いやいやいや……」
そんなことより今は仕事に集中せねば。
それにこうやってすぐ小峰の姿を目で追ってしまうから、
僕は
何枚か撮った写真を見返して、「うーん……」と首を傾げる。
「なんか違うんだよな……」
体育館の写真って、もっとこう、奥行きがあってグワーッとなっているイメージだ。
しかし、僕が撮ったのは「ザ・平面」って感じで、悪くはないが面白味もない。
いろいろ校内を回って撮影をしてきたせいで変な
それにホームページに掲載する写真だから、力を入れるに越したことはないだろう。
そう思って、今度は体育館の中を移動しながら撮影してみる。
「お、これはなかなか」
良い感じだ。
パシャパシャとシャッターを切り、そのたびに一歩ずつ位置を変える。
そうやってベストなアングルを探していると、
「やばっ!」
練習中の女子の悲鳴が聞こえた。
打ったボールがあらぬ方向に行ってしまったらしい。
それは体育館上部通路の
ヒュン!
猛スピードで跳ね返って僕の方に向かってくる。
「うわっ!」
回避行動を取ろうとしたが遅かった。
あわや直撃しそうになった瞬間――
横から伸びてくる長い腕が、バチッとそれを防いだ。
突然の出来事に身を
すると、僕よりはるかに高い視点からこちらを見下ろす影――
「大丈夫?」
小峰
「こ、小峰⁉」
僕は反射的に飛び
30㎝も高いところから、小峰が僕を見下ろしている。
その表情はなにを考えているんだかわからない全くの「
――小峰は男嫌い。
そのはずなのに。
「なにやってたの?」
彼女は普通に、そう問うてきた。
視線は僕の手元にあるデジカメに注がれている。
「え? ……あ、ああ……ええと……これは生徒会の仕事で写真撮影を行っておりまして、決して盗撮などではなく……」
テンパる僕。
言わんでもいい余計な一言を付け足す。
なにを言われるんだろうと身構えていたが、彼女は「ふーん。そっか」と
「ここいるとたまにボール飛んでくるから。入り口のとこいた方がいいよ」
と、忠告して練習に戻っていった。
「ごめーん! 大丈夫だったー⁉」
こちらにボールを飛ばしてしまった女子が、片手
「……ああ、いえ、別になんとも……」
僕はそちらに向かって会釈しながら、視線は小峰の方に向ける。
「明日香! もう一本!」
「はい!」
高く跳んで
「男とも喋れんじゃん……」
そう呟かずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます