LastSection:地球にたどり着いたドロイド
地球人たちの故郷である惑星へ
気が付くと、ヴェントは宇宙を漂っていた。スペーススーツが自動展開したため、生命維持的には問題は無い。が、なぜこのような状況なのか? と疑問を感じた。
『地球への直接転移はできません』
バイザーを通じてノルンの声が聞こえた。
ヴェントは自分の右手を握る存在に気が付き、視線を向ける。そこにはノルンが居た。宇宙空間であるにも関わらず、緑の髪を漂わせ、白いワンピースという姿は違和感がすごい。
もちろん、ドロイドであるため、スペーススーツは不要なのだが……。
現在の位置は、太陽系の最外縁部、準惑星である冥王星軌道周辺である。
太陽系内はセキュリティ上の問題で、
『ここからは通常推進で地球まで向かいます。パワーアーマーモードへの移行をご指示ください』
「わかった。ノルン、パワーアーマーモードへ」
『指示確認、パワーアーマーモードへ移行します』
ノルンの体表を覆うエクサセルが吸収収納され、白磁のボディが展開する。フレームには先の惑星における戦闘の傷跡が残っている。
ノルンの全身が更に展開し、ヴェントに覆いかぶさると、パワードスーツのように外骨格体へと変形した。
『しばしご辛抱ください』
そう言って、ノルンはプラズマジェットによる加速を開始した。
「損傷は大丈夫なの?」
『現在の戦闘能力は30%程度まで低下していますが、通常推進を行う分には問題ありません』
ノルンの自己分析を聞き、ヴェントは何とも言えない気分になる。
「ごめん、僕が少しでも戦えれば……」
『いえ、こちらこそ申し訳ございません。マスターをお守りするのが私の役目、にもかかわらず、先の惑星では、私情で戦闘を行ってしまい、結果、大きく機能を低下させてしまいました……』
「ふふ」
自戒するノルンが妙に人間臭くて、ヴェントは少しおかしくなってしまった。
『何か、変でしょうか?』
「いや、そんなノルンを、僕は好ましく思うよ」
『……、ありがとうございます』
表情は見えない。が、ノルンも少しは笑みを浮かべていたかな? と思える声色に、ヴェントはほんわかとした気分になった。
そんな余韻を残したまま、しばし無言で航行する二人。
『接近する機影……』
「ノルン?」
全身を揺さぶる衝撃に、ヴェントの言葉は途中で止まった。バイザー内には各部のアラートが表示される。
『回避運動を行ないます! しばらくご辛抱ください!』
ノルンはそうヴェントに告げ、機体を急加速させる。彼らを追尾してくる"船"を撒くため、ノルンが急速な加減速やロールを行なう。振り回されても変な声を出さないよう、ヴェントはぐっと堪える。その過程で、彼らを追尾してくる小型艇の姿を、ヴェントは視認した。
小型艇がミサイルを発射。ミサイルはスラスターで姿勢制御を行ない、ヴェント達を追尾してくる。
ノルンはフレアーを発射し、ミサイルを攪乱する。が、小型艇は更に2基のミサイルを発射した。
最後のフレアーを放出してミサイル1基を逸らし、もう1基に向けてノルンは右手を突き出し光線を──、しかし、右手が異音を発し、砲撃形態へと変形しなかった。咄嗟に左腕を砲身に変え、緑の閃光を放出する。
迎撃に一瞬遅れたため、ミサイルがヴェント達の間近で爆散する。その衝撃で吹き飛ばされ、錐もみ状態となった機体の姿勢を補正した時には、小型艇が目の前まで接近していた。
ヴェントはバイザー越しに、一人乗りの小型艇、そのコックピットに居る人間を確認した。
「カーリグ!?」
あちらもヴェントを凝視しており、そんなはずは無いのに、目が合ったような錯覚を覚えた。
小型艇が遠隔操作アームを2本射出する。独立稼働する遠隔操作アームは、スラスターで姿勢制御しつつ、急速にヴェント達へと近づいてくる。
プラズマジェットを噴射し、その手から逃れるノルン。だが、小型艇から発射されたワイヤーに、左足を絡めとられた。
ノルンは左手の砲身をワイヤーに向ける、が、その瞬間、死角から突進してきた遠隔操作アームがノルンの左腕を抑え込む。更に小型艇から追加のワイヤーが発射され、右足に絡みつく。
左手を抑え込む遠隔操作アームを剥ぎ取るため、ギリギリと異音を発する右腕を無理やり動かす。が、右腕も遠隔操作アームが捕らえる。
小型艇は更にワイヤーを発射し、ノルンの胴体、首に巻きつける。
『……っ!』
各部のスラスターやプラズマジェットを稼働させるも、がっちりと抑え込まれ、ノルンは身動きが取れなくなってしまった。
『まさかとは思ったが、地球へ向かっていたとはなぁ!!』
バイザー内にカーリグの声が響く。ヴェントはその声に体が震える。船団で様々な嫌がらせを受けた結果、すっかりカーリグへの恐怖が沁みついていた。
尚ももがくノルンと、それを抑え込むカーリグの小型艇。両者は推進器による綱引きをしながら、間近にある小惑星の重力に囚われ、落下を始めた。
『っ!? ちっ! 無駄にじたばた暴れやがるせいで!!』
今更ながらに、小惑星に落下しつつあることに気が付いたカーリグは、重力圏から離脱すべく、小型艇の推進器を稼働させる。が、ノルンは敢えて落下するように加速を繰り返す。
ノルンの行為により、落下速度がどんどん上がっていく。
『てめぇ! ノルン!!』
『落下します』
ノルンの警告直後、凄まじい振動がヴェントを襲う。カーリグの小型艇とヴェント達が、小惑星表面、岩の地面へと衝突するように墜落した。
しばし岩肌を滑る両者は、数百mほど移動した後に壁面に激突して停止した。
「いてて……」
一瞬気を失っていたヴェントだが、すぐに気が付き目を開いた。
真っ先に目に入ったのは、天空に大きく浮かぶ木星だった。そんな
不思議な光景に一瞬見惚れるヴェント。そんな情感を破るように、突然ノルンがパワーアーマーモードを解除し、白いボディのドロイドへと変形した。
『マスター今の内に離脱を──』
通信しつつ、ノルンがヴェントを庇うように立つ。そんな彼女に向けて巨大なロボットアームが振り下ろされた。ノルンはそれを両手で受け止める。
『ノォォルゥゥゥン!!』
カーリグが狂気のような叫びを上げる。カーリグの小型艇が巨大な手足を展開し、まるでロボットのように変形し襲ってきたのだ。
ギリギリとせめぎ合うノルンとカーリグ。が、ノルンの右腕が肘から火花を発生させ、ガクリとパワーダウンした。
「ノルン!!」
ノルンは全身のアクチュエータをフル稼働し、ロボットアームの軌道を横へと逸らす。が、その動作に耐えきれなかった右腕が、肩からもげた。
強引な駆動で一瞬動作が停止したノルンを、カーリグが左のロボットアームが捕らえた。胴体を掴まれたノルンは、そのままアームによって持ち上げられた。掴まれたボディは、ロボットアームの握力によりギチギチと軋みを上げている。
ノルンは左腕を砲身に変え、コックピットに向ける。が、カーリグは右のロボットアームでその左腕をねじりあげ、砲身を逸らす。
『ヴェント! お前はまるでわかってない、こいつの価値が! マターコンバータの価値が!!』
ギチギチと軋みを上げていたノルンの左腕が、バキリとねじれ潰れた。
『それを、こんなおもちゃに入れちまいやがって!』
ロボットアームから解放された左腕は、関節部が破損したために、ダラリと力無く垂れさがる。さらにカーリグは、空いたロボットアームでノルンの頭部を掴み、握力を籠める。
「やめろぉぉぉ!!」
ヴェントは小型艇に向けて飛び掛かるも、小型艇の足で軽々と蹴り飛ばされる。
『大人しく見てな!』
再びノルンに視線を向け、カーリグは叫ぶ。
『初めからこうすりゃぁよかったんだよ! このおもちゃからコンバータを直接毟り取っちまえばよぉ!!』
「ノルン!」
ヴェントは立ち上がり、痛む体を押さえつつ叫ぶ。自分には何もできない。その不甲斐なさに、かつてないほどに絶望する。
『ダイ丈夫でス、マスター……』
頭部を潰されかけ、一部発声がおかしくなっているノルンが、優しい声色で述べる。
「ノルン……?」
その優し気な様子に、ヴェントは嫌な予感を覚えた。
『コンバータが、アルから、イケナいのでス』
『お、お前まさかコンバータを!? やめろ、自爆することになるぞ!?』
カーリグは戸惑い、焦りの声を上げる。
マターコンバータは唯一無二の装置である。そんなものをエネルギー変換してしまえば、ドロイドのボディで許容できないほど膨大なエネルギーを発生させることになる。
『ば、ばかな! "自壊"は三原則で禁止されている! そんなことできるはずが……』
ノルンの体から光が漏れ始める。
『ま、まさか、や、やめろぉぉぉぉぉ!』
ノルンのボディを引き裂き、中から溢れた光が小型艇とカーリグを飲み込む。
「ノルゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
小惑星の表面を焼く白い閃光が、ヴェントの叫びを飲み込んだ。
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