外来種怪獣は進撃し、ドロイドたちは逮捕される

 状況報告


 0510時

 ツエミ市郊外に落着した隕石の調査として、国防陸軍の調査隊派遣。

 現地にて未確認の巨大生物と遭遇し、調査隊は全滅。

 巨大生物はツエミ市に向け移動。以降、当該の巨大生物を巨大生物"アグレスタ"と呼称。


 0520時

 ツエミ市全域に避難勧告


 0540時

 ツエミ市内にて、国防陸軍小銃小隊が巨大生物"アグレスタ"と会敵。

 小銃、機関銃などの火器は効果なし。小隊は撤退。


 0600時

 避難民を追うようにツエミ市を移動する巨大生物"アグレスタ"に対し、国防陸軍の8個小隊が、迫撃砲などを用い遅滞戦闘


 0612時

 ツエミ市中央街に巨大生物"スコル"出現。

 巨大生物"アグレスタ"と交戦状態へ。


 0618時

 新たに未確認の戦力が出現。

 巨大生物"アグレスタ"と交戦状態へ。

 以降、未確認戦力をユニット"α"と呼称。


 0623時

 巨大生物"アグレスタ"との交戦により、巨大生物"スコル"およびユニット"α"沈黙。

 巨大生物"アグレスタ"は飛行し逃走。


 0628時

 国防空軍がスクランブル発進。


 0640時

 ツエミ市に接するセイエミ湾上空にて、国防空軍のスクランブル機が巨大生物"アグレスタ"と会敵。


 0648時

 スクランブル機の攻撃により、巨大生物"アグレスタ"は墜落。

 以降、巨大生物"アグレスタ"は行方不明。


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 彼女は疲れていた。思い通りに進まない苛立ちを押さえつつ、水中を進んでいく。

 本能が訴える。この先に"栄養"がたくさんあると。



 長い長い"渡り"を終えて目覚めると、小さな生き物が彼女を観察していた。一つ摘まんで食してみると、非常に栄養が豊富だった。

 "営巣"が目的の彼女にとって、栄養豊富なこの"小さい生き物"は非常に都合が良かった。

 とりあえず、その場に準備されていた"小さい生き物"は全て捕食し、更に多くの栄養を求めて彼女は移動した。


 途中、"小さい生き物"がじゃれついてくるのを楽しみながら、そして摘み味わいながら、彼女はより多くの栄養を求め、本能が指し示す方向へと移動する。

 すると、彼女のまえに立ちふさがる者が現れた。彼女が"小さい生き物"と戯れ、摘まみ食いするのを邪魔してくるのだ。


 そいつは空を跳ね、冷たい塊を飛ばしてきてうっとおしかったので、適当に撫でつけて黙らせた。

 そう、そこまでは良かった。


 その後に現れた緑の小虫。

 彼女の回りをブンブンと飛び回り、あろうことか彼女に強烈な体当たりをしてくるのだ。ギシリと体が痛み、腹を立てた彼女は、少し本気で緑の小虫を叩いた。

 それでも抵抗を続ける緑の小虫に、彼女は何度も本気の攻撃を繰り出した。結果、小虫は黙ったが、彼女は思った以上に消耗してしまった。


 仕方なく、彼女は一旦その場を離れ、体力の回復を図ることにした。なぁに、他にも栄養はたくさんあるのだ。

 空を飛び、さらにたくさんの栄養がある場所を探している彼女を、また別の羽虫が追ってきた。


 彼女はその羽虫に背中を撃たれ、なんと水中へと落ちてしまった。つくづく腹立たしい。


 "不本意ではあるが、身を隠しつつ、栄養をとれる場所を探そう"


 彼女は水中を進む。その先には人口200万をこえる都市、ゴナイア市があった。





 スチール製の机を挟んで反対側に座っている中年の男性。その男から冷たい視線を向けられ、ヴェントは冷汗を流す。

「君らは宇宙人だと、そう言いたいのか?」

「えっと……、はい」

 戸惑いつつも肯定するヴェント。彼は今、この星の原住民が組織する治安機構により捕縛され、名前や出身、なぜ現場にいたのか? などを再三にわたって聞かれていた。


 要するに、警察の取り調べを受けているのだ。


「なら、あの怪獣を放ったのは君らということか」

 強面の中年男性が、更に表情を険しくしてヴェントに問う。

「いえ、それは、たまたま居合わせただけで……」

「宇宙人と、宇宙からの怪獣が、たまたま居合わせたと?」

 ヴェントのこめかみに、一筋の汗が流れる。

「ええ、そうなんですけど……」

(自分で言ってても胡散臭い……)

 ドンッという音を立て、男性が机を叩く。

「ヒッ!」

 ヴェントは驚いて小さく悲鳴を上げる。

「適当な受け答えしてんじゃぁねぇぞ! ちゃんと答えろ!!」

(ちゃんと答えてるのにぃぃぃ!!)

 内心悲鳴を上げるヴェント。なお、このやり取りは3回目である。




 ヴェントが取り調べを受けている部屋とはまた別の部屋にて。

 終始、取調官に押されっぱなしのヴェントとは対照的に、ノルンは泰然としていた。

「何か言ったらどうだ!」

「……」

 取調官が恫喝しても、優し気に話しかけても、彼女は黙秘を貫いていた。

 表情を一切変えず、眉どころか、瞬きすらしないノルン相手の取り調べは、取調官の精神力をゴリゴリと削る。

(こいつ、本当に生きてるのか……?)

 微動だにしないノルンは、まるでマネキンのようであった。取調官はマネキン相手に話しかけているような気分になり、その"無意味さ"に、心が苛まれる。


 だが、そんな取り調べにも変化が現れた。ノルンが僅かに視線を上げたのだ。そして、突然振り返り、遠くのどこかを見つめるように目を細める。

「い、いきなりどうし──」

「取引です」

 取調官の言葉を遮り、ノルンが初めて言葉を発した。


「あの侵略型外来生物は、"今"駆逐する必要があります。さもなければ、あなた方は早晩滅亡することになるでしょう」

「は、はぁ?」

 突然の事態に、取調官はいまいち付いて行けない。

 それを察し、横で調書を取っていた男が仕方なく割り込む。

「お前たちが奴を放ったからか?」

 ノルンは男に冷たい視線を向けつつ、言葉を続けた。

「私たちが"アレ"と無関係であることを証明することはできません。そのことについて、無駄に議論はしません。ただ、私たちには"アレ"に関する情報があります」

 男は怪訝な表情を浮かべる。

「お前たちを信じられると思うか?」

「信じる信じないはご自由に。私はマスターの意向を推測し、提案しているのみです」

 男にどのような視線を向けられても、ノルンは全く動じず、淡々と答える。


「まるで俺達が受け入れなくても構わないという言い方だな」

「その通りです。私がここに留まるのは、マスターならば、あなた方に手を差し伸べると推測しているからです。この程度の拘束は、既に回復した私であれば脱出することなど容易です」

 表情に変化はないはずだが、ノルンの言葉には凄みがあった。遠巻きに緑の閃光が飛び回る様を見ていた男は、この言葉に怯んだ。

「ず、随分と自信があるんだな」

「我々の助力が不要だと言うなら、すぐにでも"その事実"を証明いたします」

 ノルンは全身から剣呑な空気を発している。


 ノルンは突如立ち上がり、背後の壁を難なく破壊し、飛び立っていく──


 男はそんな様子を幻視した。


「ちょ、ちょっとまて、上に掛け合う。だからもう少し待ってくれ!」

「……、いいでしょう。3時間だけ待ちます」

 そう言ったきり、ノルンは再び沈黙した。





「マスター、マスター」

「うん……」

 ここはヴェントの夢の中、緑髪の少女の優し気な声が響く。ぼんやりと夢の中に現れた彼女は、なぜか服を着ていない。

「うぁ、ノルン、なんで裸……?」

「マスター、マスター」

 一糸纏わぬ姿のノルンが、手を振りながらヴェントに駆け寄ってくる。

「うぁ、ノルン、服を……」

「マスター、マスター起きてください」

「うぇ? ふごっ」

 寝返りを打ったヴェントは、狭いベッドからはみ出し、地面へと落ちた。

「の、ノルン?」

「はい、ノルンです。お迎えに上がりました」

 目を開いたヴェントの視界に、緑の少女が映る。この彼女はちゃんと服を着ていた。



「服が、どうかいたしましたか? 特に汚れや破損は無いようですが……」

「あ、いや、だいじょぶ、なんも問題ない!!」

 裸のノルンを夢で見たなどと言えず、慌てて否定するヴェント。うっかりそんなことを漏らしたら"お望みでしたら"などと言いかねない。


 そこでふと、ヴェントは重大な事実に気が付く。

「って、ここ留置場だよ?」

 ヴェントはノルンの背後に視線を向ける。留置場の鉄格子が歪み、人間一人分程度の隙間が生まれていた。その外では、見張りの警官らしき人物が、昏倒していた。

「あ、そういう……」

 納得しているヴェントに、ノルンが更に言葉をかける。

「残念ながら交渉は決裂しました。脱出しましょう」





 時間は遡り、ノルンが取調官へ"取引"を持ちかけていた頃……。


 ゴナイア市の中心地とも言うべきゴナイア中央駅。そこはこの地方における最大規模の主要駅であり、駅ビルをはじめとした多数の高層ビルが立ち並ぶ。

 そんなゴナイア中央駅にある地下街の一画。そこの壁が崩落し、人間サイズのカマキリが数匹出現した。

 カマキリたちは逃げ惑う通行人たちを捕らえ、次々と穴へと引きずり込んでいった。


 数十分後、警官隊が駆けつけた時には、地下街のあちこちに穴が出現し、百近い小型カマキリが地下街を闊歩していた。

 彼我戦力の不利を悟った警官隊は、突入を断念。国防軍へと対応をゆだねる。


 更に1時間後。ゴナイア中央駅周辺へ集結した国防陸軍の目の前には、巨大な"巣"に作り替えられた高層駅ビルの姿があった。

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