Section0110:惑星PSTA01218で怪獣に遭遇するドロイド

外来種怪獣に襲われている惑星

「あのー、ノルンさん? 何か怒っていらっしゃいますか?」

 ヴェントから見て、どうもノルンが不機嫌に見えた。が、

「いえ、そのようなことはございませんが?」

 本人は否定する。しかし、ヴェントにはその応対が、どこか冷淡に感じられた。



 ドォォンという地響きと共に大地が揺れ、ヴェントとノルンがポンっと浮き上がる。


「うぉっと、っとっと」

 ヴェントは何とか倒れないようにバランスをとり、ノルンは何事も無いかのように立ち続けている。


「えーっと、それで、これはどのような状況でしょうか?」

 二人が視線を向けた先には、20世紀日本風の街並みが広がり、その街並みに不釣り合いなほどに巨大な生物が2体、戦闘を繰り広げていた。

 どちらも、体高は10m以上あり、片方は巨大な狼のような見た目で、もう片方は巨大なカマキリである。

「情報確認いたします」

(まさか、わざわざこんな場所選んで飛んでないよね……?)

 ヴェントがちらりとノルンの表情を窺うと、

「そのようなことはございません」

「読まれてる!?」


 巨大狼は、不思議な能力で空中に足場をつくり、その上をジャンプしながら巨大カマキリへと接近する。

 狼が巨大な顎を開き、カマキリへ噛みつこうとした瞬間、残像を残すような速度で"カマ"が突き出され、狼の左肩が裂ける。


「オォォォォン!」

 狼は左肩から青い血を垂らしつつ飛び退き、再び空中の足場へと着地する。


 カマキリが背中から光る翼を展開し、周囲の建物を破壊しながら猛烈な勢いで狼へと突進した。

 狼は口から氷の塊を発射してカマキリを迎撃するが、それらは全てカマによって逸らされ、周囲の街へと着弾した。


 カマキリは一層激しく羽を震わせ、更に加速。狼が振り下ろした右前足と、カマキリのカマが激突する。

「ガアァゥ!」

 狼の右前足が裂け、青い血が噴き出す。

 カマキリが連続で繰り出すカマにより、狼が次々と傷ついていく。


 狼はよろめきながらも、空中の足場から落ちないように足を踏ん張る。


「あの狼、もしかして街へ被害が出ないようにしている……?」

 二体の戦いを固唾を飲んで見守るヴェントに、ノルンが声をかける。

「情報確認しました。少々分かり辛いですので、狼型巨獣を巨獣W、蟷螂型巨獣を巨獣Mとします」

 余計に分かり辛い気がする、と思いつつ、横やりを入れずにヴェントは話を聞くことにした。


「巨獣Mは、別惑星からの侵略型外来種です。この惑星から1光年ほどの距離にある惑星に生息しており、数千年から1万年に1度程度の頻度でこの星に襲来しているようです。この惑星では、2000年ほど前までは宇宙レベルの文明があり、当時の文明人たちにより、巨獣Mへの対抗手段として作られたのが巨獣Wです」

「わぁ、なんかどこかで聞いたことがあるような設定……」

 ノルンは"設定?"と首を傾げつつ、説明を続ける。


「更に、巨獣Mについては、宇宙開拓船団のデータベースに情報がございました」

「え、そうなの?」

 意外な情報に、ヴェントは素っ頓狂な声を上げた。


「300年ほど前、巨獣Mの生息惑星に対し船団の調査が行われています。その際、危険な侵略型生物として、ある程度の間引きを実施し、惑星を閉鎖。以降の侵略行動は行われていないようです」

 ヴェントはノルンの説明を"ほうほう"と聞き、今暴れているカマキリを指さす。

「だとするとアレは?」

「300年以前に当惑星へ向けて旅立った個体だと予想されます」

 淡々とノエルが述べる情報に、ヴェントは"ずいぶん壮大な生き物なのね……"と呟いた。


「間引きの際に船団との戦闘記録がございます。そこからの予想ですが、巨獣Wと巨獣Mは良くて相打ち、最悪の場合は巨獣Wは撃破されます」

「ヤバイじゃないか」

 狼が侵略型外来生物への対抗手段として作られたのであれば、狼に勝利してもらうべきだ。しかし、このままでは良くて相打ち、最悪狼が負けてしまう。


「巨獣Wが老朽化していることも原因の一つです。おそらく耐用年数は既に越え、メンテナンスも行われていません」

 どんな優れた機械でも、ノーメンテで永遠に動き続けることはできない。


「ガァァァァァッ!!」

 カマキリの攻撃で、狼が倒れる。ついに足場を維持しきれなくなったのか、家々をなぎ倒しながら地面に伏せてしまった。

 カマキリは余裕を見せ、じりじりと倒れた狼に近づいていく。


「ノルンなら、勝てる?」

 ヴェントの問いかけに、一瞬黙考するノルン。

「……、戦闘記録から推定した結果、私なら巨獣W、M共に撃破可能と予想します」

「あ、そこは外来種の方だけでよろしく」

「承りました」

 ノルンはカマキリに体を向け、"戦闘モードのご指示、お願いします"とヴェントに告げる。


「戦闘モードへ」

「指示確認、戦闘モードへ移行します」

 少女の姿をしたノルンは内側へと消え、白い外殻が露わとなる。緑のエネルギーラインが力強く明滅する。

「侵略的外来種を撃滅します」

 プラズマジェットを噴射し離陸するノルンは、音速の壁を破りながらカマキリ型の巨獣へと突貫した。


 超音速で迫るノルンに、カマキリは素早く反応した。接近するノルンを迎撃するように、カマが突き出される。

 ノルンは機動を強引に変え、カマをひらりと回避する。更に連続で繰り出されるカマを次々と回避し、その合間を掻い潜ってカマキリの胴体に回し蹴りを叩きこんだ。


 ドォォォンという衝突音と共に、カマキリの巨体が僅かに浮き上がる。

 それでも怯まずに繰り出されるカマをノルンは回避し、カマキリに更に一撃叩きこんだ。


「ギギィィィィッ!!」

 ノルンの攻撃で、悲鳴らしき音を発するカマキリ。だが、さすがの巨体は、数発の攻撃ではビクともしていない。

 ノルンは更にカマキリを翻弄するように周囲を飛行し、徐々にそのボディに巡る光を強める。

 それに対応するかのように、カマキリも背の羽から光を発し、全身に青白い光を纏い始める。


 カマキリ後方から緑の閃光となって接近するノルン。ノルンは右手の平にエネルギー球を作り出し、それをカマキリに──

 次の瞬間、ノルンは地面に叩きつけられていた。

「!?」

「ノルン!!」

 即座にその場を飛び退き、離陸するノルン。直後、ノルンが寸前まで伏せていた地面が爆ぜる。

 緑の閃光が、ジグザグと不規則な機動をとりながら、カマキリへと接近していく。が、青白い光が緑の閃光を弾き飛ばす。


 全身を青白く染めたカマキリの攻撃速度は、ノルンの感知速度を超えていた。

 ぶつかり合う青白色と緑色の閃光。数十回の衝突の後、打ち負けたのは緑色であった。


 吹き飛ばされ、建物を次々と破壊し地面に落着する緑の閃光。直後、緑の閃光は瓦礫から飛び出す。その右腕は砲撃形態へと変形している。

 右腕から深緑色の光線を発射するノルン。だが、カマキリはそれを先んじて感知していた。青白いオーラがカマキリ前方に収束し、プリズムのような防壁を展開した。

 深緑の光線がプリズムに接触、そして、屈折しながら防壁に沿って飛び回る。再度防壁から飛び出した光線は、ノルンへと一直線に向かってきた。

「!?」

 咄嗟に同じ攻撃を撃ち返して相殺するノルン。だが、至近距離で爆発した2発分の光線エネルギーに当てられ、ノルンは吹き飛び、落下した。

「ノルン!!」

 ヴェントは落下の行先へと駆けつける。



「ギ、ギギギ、」

 ノルンの全身からは緑の光が消え、手足が一部誤動作し、発声器官からは異音を発していた。

「ノルン、だ、大丈夫!?」

 ヴェントはノルンに駆け寄り……、だが、ドロイドの修理方法が分からずオロオロすることしかできない。

「ギ、ゴ、ダ、ダイじょぶ、です。ジコ、シュウフクで、修復、カノウな、ソンショウ、です」

 内部で急速に自己修復が進んでいるノルンは、急激に会話機能が回復する。

「申し訳、ゴザイません。ウチ負けて、シマイました……。戦闘ノウリョクが、キロクを大幅に、ウワマワって、います……」

 ノルンはボロボロの状態でも、起き上がり、ヴェントを背に庇うように立ち上がった。

 青白い光は消えたが、依然健在な巨大カマキリが接近していたのだ。


「に、逃げよう! ノルンが壊れてしまう!」

「いえ、イマは、ジェットが使えマセン。ここはワタシが食い止めマす。マスターは逃げてクダサイ」

 必死にヴェントを庇うノルンに対し、余裕を感じさせる速度で、緩やかに近づいてくるカマキリ。

「マスター、ハヤく!」

 ノルンに急かされ、戸惑うヴェントが腰を上げようとした瞬間


「ガァオォアァァ!!」

 全身青い血まみれの狼が、カマキリに飛び掛かった。

 隙を突き、狼はカマキリの背後に飛び掛かった。胴体に爪を立ててしがみ付き、その首に食らいつこうとして、カマキリの背から放出される青白い光に阻まれた。


 仰け反りながらも、背から離れない狼。カマキリはそれを振り払うべく、背中から光を全力で放出しつつ、狼を振り回す。

 カマキリは強引に羽を広げ、地面から飛び立つ。カマキリが空中で宙返りしたことで、ついに狼は背から離れてしまう。


 落下する狼、そこへカマキリはダメ押しの追撃として、カマによる攻撃を連続で浴びせかけた。

 全身を切り裂かれ、青い血を吹き出しながら、狼は地面に叩きつけられた。


 この一瞬の間に、最低限の戦闘機能を回復させたノルンは、再び全身に緑の光を纏う。ただ、その光は先ほどまでに比べ、かなり弱い。


 数瞬、にらみ合う両者。しかし、カマキリは複眼を上空に向けると、そのまま飛び去って行った。


「見逃してもらえた……?」

 ヴェントは空を見え上げ呟く。その横で、ノルンが全身を脱力させ、地に膝を付いた。

「ノルン! しっかり!」

「大丈夫、です。巨獣Mも、ショウモウ、したのだと、考え、られマス」

 ヴェントはノルンを抱きしめた。硬質な体は、戦闘後であるため強い熱を発していた。

「マスター、今は……」

「ごめん、ノルン。僕のせいで……」

 火傷を負いそうなほどに熱いノルンのボディだったが、ヴェントは抱きしめたまま涙を流した。

「問題ありません、先ほども、申し上げました、が、自己修復で、修復可能、な、損傷です」

 とぎれとぎれに述べたノルンは"でも"と言って続けた。

「ご心配、ありがとう、ございます」

 ノルンは自身を抱きしめるヴェントの腕に、そっと自らの右手を添えた。



「動くな!」

 そんな二人を、この惑星の人間が包囲していた。彼らはこの星、この国の治安機構。つまり警察であった。

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