Section0101:惑星FTGY00958で無双するドロイド

剣と魔法のファンタジーな惑星

「ふっはっはっはっはっはっ! 勇者も大したことは無いな!!」

 人型ながら、牛の頭を持つ怪物が、巨大な戦斧を担ぎながら高らかに笑う。

「くっ!」

 その怪物の前で膝を付く少女。"勇者"と呼ばれた彼女は苦悶の声を漏らす。


「四天王たる我の手にかかることを光栄に思うがいい! 死ねぃ──あぶっし!」

 ご機嫌で"勇者"に引導を渡そうとしていた牛頭の頭上から、二人の人間が落下し、牛頭を押しつぶした。


「い、ってて」

 地面に尻もちをついたヴェントが、腰をさすりながら立ち上がる。

「申し訳ありません、マスター。あの"異物"のために、少々高度計算にズレが出てしまいました」

 ノルンがヴェントに対してのみ、慇懃に謝罪を述べる。"異物"扱いされた牛頭の額に血管が浮き出る。


「貴様ら……」

 牛頭は怒りにぷるぷると体を震わせている。

「あれ? 言葉が分かるよ?」

「この星の情報は開拓船団のデータベースにございましたため、即時翻訳が可能です」

 "あー、そうなんだ"と、呑気にやり取りするヴェントとノルン。その様子に、更に怒りをたぎらせる牛頭。


「二人とも、危険だ! 早く逃げて!!」

 少女は、ヴェントとノルンに警告を発する。が、既に牛頭は怒り心頭である。

「この四天王モウモウ様を前にして、逃げられると思うな!!」

 牛頭あらため、モウモウの怒声を前に、ヴェントは噴き出した。

「ぶふぅぅ!!」

 笑ってはいけないと思いつつも、ヴェントはこらえ切れずに肩を震わせる。


「情報を確認しました。この星でも牛は"モー"と鳴くようです」

「ぶはっ!」

 ノルンの追加情報により、ヴェントは更に噴き出す。笑いすぎたヴェントは、ヒィヒィと過呼吸のようになっている。


「叩き殺す!!」

「うるさいです」

 ノルンに襲い掛かるモウモウ!

 だが、出足を綺麗に払われてぐるりと一回転。空中で真っ逆さまになった状態で、顎を肘うちで叩き落され、頭から地面に突き刺さった。


「……」

「……」

 上半身が地面に沈み込み、大昔のミステリー小説に出てくる被害者のような姿で沈黙するモウモウ。それを見て、唖然とした表情で固まっている少女。



「この星は、また一風変わった姿の生き物がいるんだね」

 地面に刺さったモウモウを見下ろし、ヴェントがしみじみと述べる。

「船団の記録によりますと、文明レベルは産業化以前と低いですが、"魔法"と呼ばれる特殊な技術が存在しており、一部産業化が進んでおります」

「へぇ、魔法って、まるでファンタジー小説みたいだね」

 ノルンの説明に、ヴェントは感嘆の声を上げる。

「"魔法"と言いましても、別段珍しい技能ではありません。他惑星に比べ大気中に"念動粒子"の含有量が特に多いことに起因する現象です。特筆すべき点があるとしたら、この惑星の生物がその環境に適用しており、念動粒子との感応性が非常に高く──」

「あ、あの!」

 惑星の情報を確認していたヴェントとノルンに対し、少女が声をかけた。


「ボクは、イヴイヴといいます。助けていただき、ありがとうございました!」

 少女が頭を下げる。金髪を緩くまとめた三つ編みが、はらりと揺れる。

 少女は革製のドレスアーマーを纏い、その上から軽金属の鎧を身に付けていた。整った顔つきはまだまだ15,6歳の少女といった容貌だが、背には白銀色の大柄な剣を背負っている。


「モウモウにイヴイヴ。この星の名前は独特だね……」

「そういう文化のようですね」

 ぼそぼそと話すヴェントとノルンに、イヴイヴが怪訝な表情を向ける。


「あ、僕はヴェント、こっちがノルン」

「ベンベン様とルンルン様ですね!」

 イヴイヴは笑顔で述べ、ヴェントは表情を曇らせた。

「え、いや……、ベンベンじゃなくて、ヴェント……」

「はい、ベンベン様ですね!」

「……」

 あまりに清々しい笑顔を向けてくるイヴイヴに、ヴェントは訂正を諦めた。



「それにしてもルンルン様はすごいです。牛の四天王をアッサリと……。ボクらは全滅寸前だったのに……」

 イヴイヴは、未だに意識を失っている仲間の一人を介抱しつつ述べる。

 話しながらも、彼女の手からは柔らかな緑の光が溢れ、仲間の体に吸い込まれていく。

「これ、魔法なのかな、すごいね……」

「"念動粒子"による回復思念の送信ですね。身体の回復能力を促しています」


 彼女らは4人でモウモウ討伐にやってきたのだが、2人がモウモウに殺害され、1人は重傷で意識を失っていた。イヴイヴも、今まさに絶体絶命という状況に、ヴェントとノルンが現れたのだ。


「うぅぅ」

「リスリス! 気が付いた!!」

「あ、イヴイヴ……、みんな……、は?」

 仲間である黒髪の少女、リスリスの言葉に、イヴイヴは静かに首を振る。

「そう、ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば……」

 そう言うとリスリスは、倒れたまま顔を背ける。

「私だって……、もっと力があれば……。だからリスリス、一人で背負っちゃ、だめだよ……」

 しんみりする二人。沈痛な空気だが、どうしたものかとヴェントは悩む。ヴェント達には"価値あるもの探し"という目的があり、カーリグが追ってくるかもしれない状況では、あまりのんびりともしていられない。とはいえ、この状況で「では失礼」と言って去るのは、非常にしづらい雰囲気である。であるが、そんなことを頓着しない者が一人いた。


「では、私たちは行きます」

 ノルンは空気を読まず、立ち去ろうとして──

「ま、待ってください!」

 イヴイヴに止められた。


 イヴイヴは地面に正座し、両手をついて頭を下げる。

「どうか、ボク達の仲間になっていただけないでしょうか!!」

 なんと土下座である。この星に土下座の文化があったとは! と妙なところで関心するヴェント。

「私からも、お願いします」

 目覚めたばかりで状況も分かっていないであろうリスリスまで、土下座に参加する。


「あの、僕は戦えないので」

 断る口実として、ヴェントは自分が非戦闘員であることを述べたが、

「でしたら、ルンルン様だけでも……」

「私はマスターと決して離れることはできません」

 間違ってはいないが、微妙に誤解を招きそうな表現をするノルン。

「お、お二人はもしや恋人同士……?」

「いや! そんな風な関係じゃないからね!?」

 ドロイドというモノを、どのように説明すべきか迷ったヴェントは、とりあえず"恋人"という部分の否定を行ったのだが、

「そうです、私の"全て"はマスターのモノです。"恋人"などという関係ではございません」

「ノルンさん!? ややこしくなるような言い方やめて!!」

 イヴイヴは、二人の関係を"恋人以上のディープな関係"と理解した。

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