Section0011:惑星PSTA09212で暴れるドロイド
ポストアポカリプスな惑星
周囲を覆っていた空間のゆがみが消失した瞬間、ヴェントは明らかな空気の違いをと感じた。
転移前は植物と生き物の匂いを運んでいた風は、鉄錆の匂いと砂を運んでいた。
目を開いたヴェントの視界に映るのは、赤茶けた大地。どこまでも荒涼とした平野が続いている。
「ずいぶんと、荒れた星だね」
見渡す限りに植物も動物も存在せず、ただ風が赤土や砂を巻き上げている。
「この惑星周辺の文明情報を取得します」
「へぇ、そんなことまでできるのね……」
「マターコンバータは変換する価値情報を参照できます。ですので、この惑星での価値観や価値の分布状況が分かります」
ノルンは対象をコンバータで変換する前に、その変換結果を査定していた。
(マターコンバータってすごいな)
何度目かになるが、記憶を失う前の自分のすごさに感嘆しているヴェントに、ノルンから声がかかった。
「解析完了しました。この星は現在暴走AIにより──」
ノルンの言葉を遮り、大地が震動する。直後、二人が立っている地面が粉砕され、そこから機械の怪物が飛び出してきた。
「ゴキュルガ!! ──!! ──!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
機械の獣が吠えながら何かを叫んでいる。それを見てヴェントも悲鳴を上げた。
機械獣により突き上げられて宙を舞うヴェント。そんなヴェントを、ノルンが空中でキャッチし、横抱きにした状態で安全に地面へと着地した。
「マスター」
「戦闘モード移行して!」
ノルンの言葉を先回りして述べたヴェントに、彼女はニコリと微かな笑みを浮かべた。
「指示確認、戦闘モードへ移行します」
体表のエクサセルが内部へと吸引され、ノルンは白磁のロボットへと変じた。
「ガガガ! ピピィィ!!」
土中より出現した機械獣は、8本の多関節足を持ち、蜘蛛のような形状をしていた。その胴体部分には大型機関銃が据え付けられている。
「──! ガガガガ、ニンゲン、コロス」
異音を上げていた機械獣だったが、その音がエクサセルに搭載された翻訳プログラムにより翻訳され、途中から言語として認識できるようになる。
機械獣は叫びながらノルンに向けて機関銃を連射した。ノルンに殺到する銃弾。しかし、彼女のボディには傷一つ付かない。
「その程度の知性で"AI"を名乗るとは、おこがましいですね」
瞬間、白磁の甲殻に伝う緑の光を強めたノルンは、陽炎のような緑光を残して消える。機械獣は彼女の軌跡を追って旋回しつつ掃射し──、
ようとして、右側の4足が既に粉砕されており、強かにボディ右側を地面にこすりつけた。
まだ、左側の足が残っている。左側4足で改めて体を支えようと負荷を乗せた瞬間、ガラス細工が破損するように、その4足も砕けた。
全ての節足を失い、身動き不能となった機械獣を見下ろすノルン。
「ガピ!?」
機械獣のAIが何らかの出力を得た。その結果から行動に起こすよりも速く、その頭部はノルンにより踏み砕かれ、機械獣は活動を停止した。
「こ、怖い、ノルンさん激おこでらっしゃる」
「大した価値はありませんでした。戦闘モードの使用エネルギーとほぼトントンです」
戦闘モードを解除したノルンが、いつも通りの収支報告を上げた。
「さっきみたいな怪物が、この星にはたくさんいるのかな……?」
あまり戦闘が続くようであれば、エネルギー収支的に"赤字"にもなりうる。そんなヴェントの疑問に、ノルンが答えた。
「この星では、50年ほど前から、人間とAIとの間で戦争が行われているようです。先ほどの"お粗末なAI"も、その1体と予想されます」
ノルンは最後に"三原則をちゃんと組み込まないからです"と付け加えた。
この星がそういう事情であるなら、まだ戦闘が発生する可能性がある。彼らとしては早々に"価値あるもの"を発見し、エネルギーの補給を行いたいところであるが……、
「"価値あるもの"を探すにも、まずは人間がいる場所を探さないといけないなぁ……」
ヴェントはそう言いつつ荒涼とした大地を見渡し、ため息をついた。
「街や人どころか、木の1本も生えてない」
そんなヴェントに、ノルンが朗報を伝える。
「価値分布の分析により、"人間の隠れ家"と予想される場所を特定しています」
そう言いつつある方向を指さすノルン。
「この方向、10km程先に、人間と考えられる"価値情報"が集まる場所があります。高度座標から考えると、恐らく地下に隠れています」
ヴェントはノルンの指す先に広がる荒野を見つつ、"10kmか"と呟いた。
「森よりは、歩きやすいかな……」
結論としては、森も荒野も、歩けば疲れるということであった。
ただ、確かに障害物の多い森に比べれば、何もない荒野は圧倒的に進みやすかったようで、6時間ほどで目的地周辺へとたどり着いた。
なお、ヴェントたち現在の地球人類は、エクサセルによる身体強化が成されている。もし現代日本にお住まいの皆さんが、日中の荒野を10km徒歩移動される場合には、服装に気を付け、しっかり水分を取るようにしていただきたい。
「マスター、目的地周辺です」
「……」
ヴェントは疲労のあまり、ノルンの言葉に答えるだけの気力も無かった。
いくら強化されているとはいえ、かつ、たびたびノルンが大気中から集めた水分を貰っていたとはいえ、生身で荒野を徒歩移動はかなりキツイものがあったようだ。
さらに、ここまでの道程において、ちょいちょい機械獣の襲撃にも遭い、心身共に疲労の限界であった。なお、機械獣を撃退したのはノルンであり、ヴェントは当然戦っていない。
しばし足を止め、休憩したヴェントは、やっと絞り出すように声を出す。
「この辺だとして、地下に、どこから入るのかな……?」
見渡す限り、相変わらずの荒野であり、建物どころか植物すら生えていない。
「マスター、右方向をご覧ください」
ノルンがヴェントの目を見つめたまま、そんなことを言う。不思議に思いつつも、ヴェントは言われた通りに右を見ると、一面赤土だらけの地面から、まるで潜望鏡のような物が飛び出していた。
「?」
"目"と言ってよいものか不明だが、潜望鏡とヴェントの目が合った瞬間、ボフッという音を残して地中へと消えた。
「いた! なんかいた!」
しばしジッとして様子を窺うヴェントとノルン。すると、潜望鏡が出てきた場所とはまた違う場所の地面が跳ね上がり、中から男が現れた。
「──! ──!! ピガピッ どうした! 早くこっちにこい!」
いつも通り彼らの言葉も途中から理解できるようになる。どうやらヴェント達に早く入ってこいと呼んでいるようだ。
ヴェントはヘロヘロの足腰に鞭を打ち、転がるように中へと入り込む。ノルンはいつも通り飄々とした様子のまま、その後へと続いた。二人が入った直後、再び扉は閉じられた。
ヴェント達が地下に転がり込み、扉が閉じると通路は真っ暗になった。
二人を引き入れた男が懐中電灯を点け、通路が見えるようになった時、ヴェントは両手を上げた。
男が懐中電灯と一緒に、拳銃を構えていたからだ。
「と、とりあえずお話を……」
「あぁ、ゆっくり聞かせてもらおう」
拳銃を突きつけるという男の態度に、剣呑な空気を漂わせるノルン。それをヴェントは押しとどめつつ、男に促されるままに、二人は地下隠れ家の奥へと連行された。
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