第2話 朽ちて死んだ

ぼうっとした頭の中、目を覚ます。

上空から差す鋭い光が僕の目を鈍く眩ます。

薄青い空に、太陽に陽で透き通った白い雲。普段となんら変わらない。むしろ、普段以上に清々しく気持ちの良い空。

思わず吸い込まれそうになりながらも、あくまで人間として自分の意志で、僕は立ち上がる。そして気づいた。

「ここ………………は外?」

そう、ここは外。屋外。ポカポカと気持ちの良い陽光に照らされ、猫の排泄物の落ちている僕の寝床はコンクリート製だった。あら、僕の家天井取り外し可能だったか?

そんなわけない。

目前には不規則に割れた木片やコンクリート片が散乱しており、薄暗い彩色の平野が広がっていた。周囲に人の気配を感じない。

「ん?」

そこで僕は、ふと得体の知れぬ違和感のなか、特に強い違和感を放つ“それ”を視界に入れるため、足元に視線を動かす。およそ10メートルといったところか、するとそこには、コンクリートの瓦礫がれきの奥でまぶたをとじ横たわる見慣れた顔があることに気づく。

「はぁ…………おいっ、姫嗣ひのり

僕は横たわり眠りこけている“それ”を眠りから呼び覚ますよう試みる。が、名前を呼び、顔をつねってもビクとも動じないため、横に腰かけ一休憩。

それらを繰り返すこと約30分。ようやっと現実に意識の帰還した“それ”は僕の顔を認識したのか皆にも馴染み深いであろう一言で1日の始まりを宣言する。

「………おはよう。」

「うん、おはよう。いま15時15分。」

淡々とした声で、僕は答える。

はて、何故そのような時間に外で日向ぼっこをしているのだろうか。遅すぎるモーニングコール。でも、言う人が居るって恵まれてるよ本当。言ってくれる相手のいない人に申し訳ないけども。そんな人達にもあとで一言、僕がささやいてあげようかな。まだ眠っていることに気づいていないかも。

くだらない思考を巡らせていると、頭の覚醒を済ました“それ”は背後で

木偶の坊でくのぼうになったいた。

「……どうしよう。」

誰が言ったのだろうか。漠然とした不安に苛まれながら発さられたその台詞は、僕等の胸を静かな絶望で充満させる。恐らく、僕のものではないその台詞は、けれども、僕の抱く感情の全てであり、今の空虚な景色を表しているようで…。そんな僕の偶感も、打てば響くような喩えも、ましてや納得しうるだけの明答が浮かぶでもなく振り返る。

そこに彼女はいた。

可憐で、それでいてどこか虚ろな存在感を放つ“それ”は、僕に欠けた何かがあるような気がして、視線が釘付けになる。

姫嗣ひのり。これは彼女の存在を示す、彼女に与えられた名前。

そんな幻想に咲く一輪の花は僕に唯一にして無二の事実を突きつける。


「みんな、死んだよ。みんな、朽ちて死んだ。」


空はどんな色をしているだろうか。目眩がする。視界がぼやける。

終の見えぬ世界ほど不安定で安定したものはあるだろうか。

世界の行く先と歩き続ける僕。

この世界に咲く空木の花からは、柔く甘い香りがする。今は何月だろうか。みんなどこにいるのだろうか。明日、僕達は何をするのだろう。

また会いたい。

また明日。

今度。

そんな世界はここにはない。

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終焉とは 女旗魚 @mekajiki-okina

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