第2話「土星の大鎌」

「君の復讐相手はこの学園の教師だ」


ヘルムートの言葉にミトスは大きく反応を見せた。ギュッと拳を握りしめる。


「が、焦りは禁物だ」

「分かっています…!」


グッと堪える。


「名門校の教師が簡単に討てる相手のはずが無いだろう。名門校に相応しい

実力のある魔導士が揃っているのだから」


ヘルムートは口元を覆う黒い布を外すために手を掛ける。それを見ていた

ファレルが目を丸くする。布の下の素顔。焼き爛れた跡が残っており

アビゲイルとミトスは息を呑む。だがすぐにヘルムートはその傷を隠す。


「…驚かせてしまったな。ここの学園長エレクトラが君の母殺害を提案した

人物だ。俺もそこにいて反論した。結果は分かっている通りだがな」


ヘルムートは脚を組んだ。彼はアビゲイルに目を向けた。


「君は関わらない方が良い。この学園で平穏無事に生活したいのならな」

「もう無理ですよ。関わってるから」

「そうだったな…」


苦笑いを浮かべた。


「こういう話をするだけでは無かったのではないですか。他にも話すことが

あったのでは?」


ミトスの言葉にヘルムートは微笑を浮かべる。図星だったからだ。情報提供だけが

目的では無かった。


「俺とファレルも君の復讐に協力しよう」

「協力?貴方たちは生徒会の人間だ。教師に歯向かうなんて―」

「戦力を寄こせと言うのなら喜んで差し上げよう。教師陣を探れと言うのなら

全てを賭けて探ってこよう。動きにくい立場だが使い勝手の良い立場でね」

「生徒会、生徒のトップだからこそ先生たちの内情も普通の生徒よりは

知っている…って事?」


アビゲイルの推測にヘルムートは頷いた。


「そう言ってくれるなら助かります。会長と副会長の力が借りられるなら

百人力だ」

「そんな大きな期待を持たれるとはな…。少し荷が重い」


同盟という握手。

教師陣への復讐の準備は進められていた。アビゲイルはある人物と

出会った。


「会いたかったぞ。アビゲイル」

「私?」

「アビゲイルはお前しかいないだろう」


こんな堂々としている生徒はいただろうか…。

気付いてなかっただけ?

彼は少し前に出た。

アデル・アージェントと名乗った彼は自身が前世から記憶を持った魔王であると

宣言し、アビゲイルもまた魔王と深いかかわりを持つ聖女の転生者であると

暴露した。


「今は信じられずとも構わない。お前の所有物は人の姿を手に入れて今も

お前を探しているようだな」


聖女の名前からアビゲイルという名前を付けた。義母と義父はそう言っていた。

聖女アビゲイルは自ら魔王城へ赴き魔王と交渉した。自身も戦う術を持ち

幾つかの武器を持っていた。


「そこに隠れているソイツがお前のかつての武器だ」


看破された人物は物陰から姿を現した。黒に近いが紫色を帯びた髪、アメジストの

ような透けた色の目を持っている容姿端麗な青年だ。


「隠し事はさせねえつもりか?空気を読んで潜んでたってのによぉ…」


わざとらしく肩をすくめる。彼が武器?普通の人間では無いか。そんな疑問は

顔に出ていたようで彼は笑っていた。


「聖女ってだけで大層な人間に見えるが別に変わんねえよ。空想に耽って、

泣いて笑って…怒ることは少なかったな」


全てを知っていると言いたげに彼は語った。2年生のエリオ・フォスターは

アビゲイルとアデルの間に立って目を伏せる。紫色の光に包まれ彼の姿が

大きく変化する。


「…鎌!?」


死神が扱うような大鎌。それが喋り出した。


「認めてくれたかな?持ってみなよ。大きい割には軽いからさ」


大きさの割には軽い。その通りだった。腕力に自信はないアビゲイルでも

自由自在に操れる。アデルが地面に置かれたその鎌を手に取るも握って

力を入れても動かない。


「ふむ、俺でも動かせん」


鎌は人の姿に変化する。


「当たり前だろう?俺は聖女の武器。10の天体具が一つ、再生の鎌…もしくは

サターンの名で呼んでくれても構わない」


再生の隣には死が存在する。死と再生という二つの側面を併せ持っている

武器だという。だが人としての彼はエリオ・フォスターという生徒だ。


「その名前は武器の姿の時だけ。その姿の時はエリオ・フォスター、だよね?」


彼は沈黙した後に背を向ける。去り際に彼と同じような人物について教えた。


「お前の事は他の奴らに俺が責任もって教えといてやるよ」


ヒラヒラと手を振って何処かに行ってしまった。その後、アデルとも別れて

家路を辿った。夜はすぐに明ける。翌日に再びアビゲイルは学校に足を

運ぶ。

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ワースト1位は才能である。 花道優曇華 @snow1comer

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