ワースト1位は才能である。

花道優曇華

第1話「式典の乱入者」

リベリア魔法学園の入学式が開かれた。

豪華な式典にアビゲイル・フローリアは驚いていた。


「えっと、そんなに驚くことなのか?知っている物だと俺はてっきり…」


顔見知りの少年、ミトス・ヨークは困惑していた。アビゲイルが

フローリア家の養子であるという事情を知っている。二人は互いの

深い事情を知っているのだ。


「あんまり贅沢とは関係なかったし。ビックリしたの」


少し不貞腐れた顔を見せたアビゲイルにミトスは堪えるように笑う。

だがその脳裏には別の声を聴いていた。

忌々しい、彼が復讐を目的に生きるようになるキッカケ。


『これがアタシの最後の願いだ』


命の最後に母セレノアは予言めいた言葉を遺す。


『フローリアの養子を守り、共に戦う』


その言葉は確かに予言であった。


『アタシの子どもだろ。最後ぐらいアタシの願いを聞いてくれよ』


死ぬ間際でも子どもの前では笑顔で。

体を揺らされて元の景色に目を細めた。


「大丈夫?休んだ方が良いんじゃない?」

「…いや、大丈夫だ」


その言葉は彼女には秘密にしている。学園長が教壇に立ち

挨拶をする。祝辞の言葉だ。女性の名前をエレクトラという。

彼女は有名で、そして強い魔女だ。


「入学おめでとう。この学園で友と出会い、そして競い合い、高め合って

欲しい。順位など入学した今では関係ない。ここにいる全員が現在は

同じ場所にいるのだから」


それなりに短い。だが学園長であり有能な魔女の威厳漂う言葉だった。

この学園は名門校だからこそなのか、四年制だ。ただ学校生活を楽しむことは

出来ないだろうという話がある。リベリア魔法学園では毎年、必ず何かしら

事件が起こる。

ミトスとアビゲイルが入学したこの年も昨年までとは違う波乱が

混ざっていた。ズシンズシンと重々しい足音を立てて式典に乱入してきた

巨大なゴーレムは教師陣も予測していない存在であった。

生徒たちも戸惑うばかりで無駄に魔法を連発している。そんな混乱状態の中で

アビゲイルが必至に叫ぶ。


「このゴーレムに攻撃しちゃ、駄目だ!!」


が、彼女は歴代でもワースト1位の落第生。彼女の言葉を真に受けている

生徒がいるはずもない。ミトスはジッとそれを見ていた。彼も薄々違和感を

持っていた。ゴーレムという種族は人工的に作ることが出来る。これだけ

暴れて教師たちは手を出していない。当たり前なのだろうが、それこそ

可笑しいと思った。


「―その通りだ、アビゲイル・フローリア」


指を鳴らす音。その音を聞きゴーレムは機能を停止した。巨体の影から姿を見せた

青年は他の生徒たちとは少し違うローブを纏っていた。彼の黒いローブには白い

ハートを模した紋章が刺繍されている。それは生徒会の生徒である証拠。それも

白の刺繍があるローブは生徒会長である証だ。周りの生徒たちも驚き名前を

呟く。


「このゴーレムの出現。冷静に対処してもらわねば、な」


敵対者ではない存在に攻撃を加える。これから魔法を守るために使うように

なるだろう。その際に一般人と敵の見分けがつかない状況もあり得る。

それを想定したテストのようなものだ。生徒会長ヘルムート・シェーラは

手を差し出す。


「リベリア魔法学園生徒会長ヘルムート・シェーラ。お前のような魔導士が

落第生とは思えない。お前の名前も全て覚えておこう」


その手をアビゲイルは両手で握った。硬い笑顔で彼女は頷いた。彼女の

表情を見せてヘルムートは少し顔を綻ばせた。


「何を緊張している。楽にしろ」

「い、いや…でも…」

「まぁ良いか。ゆっくり長所と短所と向き合っていけば良い」


彼からのお墨付きとなったのだろうか。入学式で早々に目立つことになった

アビゲイルは周りからの視線を浴びながらそそくさと席に着いた。

式典終了後、教室に戻ってから少し時間が出来る。


「やっぱり凄いよ。アビゲイルは」

「ミトスだって気付いてたくせに…」

「それでもだよ。俺は多分、同じ立場だったとしても叫ぶことは出来なかったと

思うから」


照れ臭そうに頬を掻く。チャイムと共に生徒たちは席に着き、やってくるであろう

教師を待つ。微かな足音を立てて近寄ってくる人物は扉を開いた。

若い女性、穏やかな表情の女性は軽く頭を下げてから自己紹介を始める。


「初めまして、ディアナ・ユーリーと言います。これから大変なこともあるでしょうけどここにいる全員で頑張りましょうね」


アビゲイルは横目でミトスのほうを見た。彼の母を殺した人物は全員この学園に

いるという確証があるという。だがディアナは誰かを殺すようには見えない。

それでも信じていないように感じる。


「ディアナ先生は違うと思うよ」

「ッ!?」

「ディアナ先生は攻撃魔法は不得意でサポート要員の魔導士だって

教えてもらったの」

「教えてもらった?」


この学園に詳しい誰かに聞いたのだろうか。でも教室から式典以外で外に

出てはいなかった。握手をしたとき、ある人物と距離が近くなったタイミングが

あった。ハッとしてアビゲイルのほうを見ると彼女は小さく頷いた。

あのタイミング―。


「少なくともディアナ先生は殺しに一切関わっていない。君の友だちに

そう伝えておくと良い」

「あ、どうして―」


疑問に答える前にヘルムートはアビゲイルの元を離れていた。

初日は基本、学園について話を聞くだけだ。そして早く授業が終了する。

放課後に生徒会長直々にアビゲイルとミトスは呼び出された。

暗い緑色の壁に囲まれた生徒会室。


「そう緊張するな。そのソファに座ってくれて構わない」


ヘルムートも席を立ち、アビゲイル達と向かい合うようにソファに座った。


「ミトス・ヨーク、君の事情は知っている。これでも情報通だからな」

「その情報は一体どうやって手に入れたんですか」

「企業秘密だ。何処から洩れるか、分からないからな」


ヘルムート、アビゲイル、ミトスの他にも一人だけ扉の前で立っている生徒が

存在する。彼はアビゲイル達の視線に気づき愛想笑いを浮かべて手を振った。


「僕の事は気にしなくてもいいよ~」

「あんなにヘラヘラしているがあれでも副会長だ。信頼してくれて構わない」

「うん、何でだろう。良いことを言われたはずなのにちょっと傷ついたな…」


副会長ファレル・ラスマン。彼を無視してヘルムートはミトスの復讐にも

関わる情報を伝える。


「確かに君の復讐相手はこの学園の教師だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る