おとなのおやつ
「甘いもんばっかだとさすがに飽きるな」
冷蔵庫の中は炭酸のペットボトルと酒ばかり、冷凍室は冷凍食品とアイスが占拠していた。仕事帰りのよぼよぼの状態で買い物をすると、どうも頭のわるい偏り方をする。
「そんなこともあろうかと」
じゃーん、と沢村が平たい密閉容器を出してきた。
「冷たいけど甘くないやつ」
「げっ、また茄子かよ」
「いやまじ先輩茄子ナメすぎっすよ」
昨晩の揚げ茄子を浸しておいたという。いつの間に。野菜室はあんまり見ないから気づかなかった。
出汁を吸ってくたくたになった茄子に、細く切った茗荷を添える。ちゃんと盛り付けると、食パンのシールでもらった皿でもちょっと良く見えるから不思議だ。
「で、これ」
「うそだろ」
またもや野菜室から出てきたのは日本酒の一合瓶。まだ日は高く、蝉は命を振り絞って鳴いている。子供が水遊びをしている声まで聞こえているのに。
俺はどこか敗北した気分でおとなしく食卓についた。
じゅわりと滲みだす出汁の遠くに、茄子の青さと油のうまみ。そのまま冷えた日本酒を口に含むと、すっきりと甘い香りが喉を潤した。
「どうすか」
「まいった」
こんなおやつもアリなのか。こういうときは、大人になってよかったなあと心底思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます