042:愛してます
月日が経つのはあっという間だ。
ひと月もすれば俺の怪我は完全に癒えてしまい、何の異常もなく暮らせている。
警察に捕まった門倉は、今のところ容疑を認めているらしい。
監禁、暴行、殺人未遂。
順調に裁判が始まったとしても、本人が容疑を認め証拠もある程度揃っている以上は、そこまで軽い罪では済まされないだろう。
多分もう、二度と会うことはない。
「ハル君、気持ちいいですか?」
「ああ、気持ちいいよ」
冬季に問いかけられ、俺は思考を打ち切った。
俺は今、冬季の膝に頭を載せている。
そして片方の耳を上に向け、彼女の持つ耳かきによって耳掃除をされていた。
「ふふっ、そう言っていただけると嬉しいです。こことかかなり気持ちいいんじゃないですか?」
「あ……そこいい」
「だと思いました。ハル君のことは何だって分かってしまうんですから」
あの病室での告白以来、俺と冬季は恋人兼婚約者としてさらに親密な関係になった。
これだけの時間があればさすがに彼女からのアプローチで心を乱されなくなった――――わけもなく。
いまだに照れ続ける毎日ではあるものの、そこには確かな幸せがあった。
「実はですね……ハル君」
「うん?」
「八雲さんのためにハル君が命がけで立ち回ったと聞いて、不謹慎にもすごく嫉妬してしまったんです」
横目で冬季の顔を覗き込めば、そこには申し訳なさげな苦笑いがあった。
彼女が嫉妬深いことは知っている。
今更そのことに対して思うことは何もないけれど、冬季の方はまだ気にしている部分があるらしい。
「八雲さんは可愛らしいですし、放っておけない部分がありますから……ふとした拍子にハル君を取られてしまうんじゃないかって不安になってしまって……」
「大丈夫だ。そんなことにはならない」
「ふふっ、ありがとうございます。やっぱり言葉にしてもらえると安心しますね」
彼女の手が、優しく俺の髪を梳く。
何度もその手が往復するたび、あまりの心地よさに眠気が襲ってきた。
「八雲さんが良い子だってことは分かっているんです。西野君も……やっぱりハル君の人柄がいいから、良い人が集まってくるんでしょうね」
「そういうものかな……?」
「そういうものだって思っていた方が、素敵だと思いません?」
確かに、そうかもしれない。
「……あら? もしかして眠くなってしまいましたか?」
「ああ……いや、別に……」
「ふふっ、我慢しなくていいんですよ? 睡眠は人類に平等に与えられるべき今日一日を生きた報酬なんですから」
ゆっくりと冬季に体を起こされる。
そのまま持ち上げられるようにして立ち上がった俺は、彼女と共にベッドのある部屋へと向かった。
「よいしょっと……」
朦朧とする意識の中、そんな冬季の声と共に俺はベッドへと寝かせられた。
そして彼女も俺の隣で横になった気配がする。
顔を隣に向ければ、そこには微笑みを浮かべる冬季の綺麗な顔があった。
それだけで、俺の心に安心感と幸せが満ちていく。
重い瞼をなんとか支えつつ、俺は彼女の頬に手を伸ばした。
シミ一つない暖かな頬。
冬季は自分の頬を触る俺の手を上から包み込むと、心地よさそうに目を細めた。
「今日もよく頑張りました。お風呂にも入って歯も磨きましたし、もうゆっくり寝てくださいね。おやすみなさい、ハル君」
「……おや……すみ」
俺の意識は、そうして心地のいい闇の中へと落ちて行った――――。
「ハル君、愛してます」
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読者の皆様へ、あとがき的な何か
本作にここまでついてきていただき、皆様本当にありがとうございました。そしてこちらの都合で大きく更新頻度が下がってしまったこと、重ねて謝罪させていただきます。
事情といたしましては、この度、本作が「今日も生きててえらい! ~甘々完璧美少女と過ごす3LDK同棲生活~」と少しタイトルを変えて、【電撃文庫】様にて書籍化していただける運びとなったことがあげられます。
こうして世の書店に並ぶことが決まったのは、一重に皆様が読んでくださったおかげです。本当に感謝しております。
つきましては、諸々の事情により一旦本編を〆させていただき、今後は番外編、後日談などをあげていければと画策しております。
本当にここまで付き添っていただき、ありがとうございました。
これからも本作に注目していただけると嬉しいです。
皆様の応援が、続刊への鍵となります。
ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします。
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