夜Ⅰ
※特に夜ではないですが、目次ネタバレ防止のため便宜上夜というタイトルにしてます。
やはり桜宮は狂人で、籠宮が人狼であることを知っていたから御剣への投票をごり押ししたのか、と思ったが今はそんなことはどうでもいい。
籠宮は真実らしきことを言ってピエロ男はそれをかき消すように言った。
また、ピエロ男はこの島に侵入するにあたって内通者がいるようなことを言っていた。
そしてピエロ男は仮想現実を使いこなしている。特に俺たちの意識を操って強制的によるにする、などという芸当は仮想現実の扱いに相当熟練していないと出来ないだろう。
また、ピエロ男はちょくちょく自分の裁量でルールを捻じ曲げていた。それはデスゲームの公平さよりも観察的なことを優先したせいだろう。
他にも、籠宮はちらっと、「これまでデスゲームまがいのこともさせられた」と口走っていた。
これらのことから考えると一つの真実が浮かび上がってくる。
「おい、お前はもしかしてテロリストとか言っておきながらこの学園の内部の人物なんじゃないのか? そして実験の一環でデスゲームを開催した」
「……ほう?」
彼が否定も肯定もしないので俺は続ける。
「目的はそうだな……本当に実験のつもりだったんじゃないか? 俺たちのような特徴的な生徒を集めてデスゲームをしたらどんな風になるか」
「そんな……」
「てことは私たちは実は死ななくてすむということ!?」
絶句する三坂と希望を見出す桜宮。その反応は対照的だった。
確かにこっちで死ぬと現実でも死ぬというのはピエロ男が勝手に言っていただけで、確証があった訳ではない。
これがただの実験であれば別に本当に命を奪う理由はない。
それに対して三坂は実験でこのようなことをされたということに対する嫌悪が、桜宮は死なずに済む可能性が出たことに対する希望が表に出たということだろう。
「ふむ……いい勘をしていると言いたいところですが、70点といったところでしょうか」
「何だと!?」
こいつの煽り口調には慣れているつもりだったが、さすがにこの状況でそういう言い方をされると苛立ってしまう。
「特徴的な生徒を集めてとりあえずデスゲームをさせよう、そんな軽いノリでこんなことをするほど我々は馬鹿ではありません。今回のゲームにはもっと様々なテーマがありました。例えば先天的な天才と、幼いころ英才教育を受けた人物はどちらの方が優秀になるのか、とか。サイコパスを矯正した場合本性はどの程度残っているのか、とか。それらのことは霊媒師のあなたなら推察できると思ったのに、残念です」
「そんな細かいことはどうでもいい! いくら最先端の教育施設だからってこんな実験が許されてたまるか!」
このデスゲームもどきが何の実験だったのか、なんてことは俺にはどうでもいい。正直、教育の効能とかサイコパスの矯正とかそんなことは俺には興味はない。
ただ偉い人の都合でこんな恐ろしいことをさせるのはご免だった。
「ほう。ではなぜ許されないのでしょうか。我々は今のところあなた方の肉体に一切の危害を加えていませんし、今後も加えるつもりはありませんが」
それを聞いて桜宮がほっとする。
狂人の彼女はゲームに負けたことが決定した瞬間、死を覚悟したのだろう。
「だが、俺たちを騙すようなことをしてデスゲームをさせるなんて」
「ですから、それの何がいけないのですか? あなた方はすでに仮想現実をたくさん見てきました。そしてあなたが知らなかっただけで、籠宮夢は似たようなゲームをすでに何度かやってきました。もっとも、ここまで本格的なものではありませんでしたが」
「知らないところで行われていたから問題ない、というのはおかしいだろう!」
例えば俺たちがこうして生きている間に他国で虐殺が起こっていて、俺たちがそれに気づかずに平和に暮らしていたからそれを良しとしているかと言われればそんなことはないはずだ。
別に今まで知らずに追認する形だったからといって、知った後で反論してはいけないということになっては、隠蔽した者勝ちになってしまう。
「そうですか。それはつまり、仮想現実で非人道的なことをさせるのが問題ということですか?」
「そうだ。例えば仮想現実に俺たちを連れていって、拷問するのはお前もだめだと思うはずだ」
「ですが、首輪による痛みは最小限のものに留めていました」
「俺たちを騙して人を殺すことを疑似体験させるのはだめだろう」
「なぜでしょう?」
なぜ俺はこいつと論戦しているのだ、と思ったが今の俺はどうしてもこいつに、こいつがしていることは間違いであると論理的に認めさせたいという気持ちがあった。
「精神的苦痛を受けるからだ」
「ですが学校というものは精神的苦痛を時に与えることがあります。例えば、受けたくない授業でも受けることを余儀なくされますよね。もしくは世の中には人を撃ち殺すゲームを平然とする人がたくさんいます。そういったものと、今回の事件の間のどこに境界があるのでしょうか?」
「え……」
別にピエロ男の言葉に納得した訳ではないが、そう言われて俺は言葉に詰まってしまう。
確かに人を殺すのは良くないことだ。
しかし人を殺すゲームは平然と行われている。
しかし人を殺すことを疑似体験させるのは良くない、というのは本当に良くないことなのだろうか?
仮に現実で死なないと分かっていれば仮想現実で人を殺すのは許容されることなのだろうか?
だめだ、良くないとは思っているはずなのに言葉が出てこない。
というか、そもそもそれは本当に「すごく」良くないのだろうか?
もちろん良い訳はないが、実はそこまで悪いことではないのではないか。
このピエロ男が俺たちにやったことは、やりたくないゲームを無理矢理やらせた程度の悪でしかないのではないのだろうか?
こいつの間違いを正そうと思っていたはずなのに、話しているうちに自分でもだんだん分からなくなっていく。
「境界はあるに決まっているだろ! 常識的に考えて倫理的にやっていいことと悪いことがあるはずだ!」
俺が言葉に詰まっていると、三坂が怒鳴る。
そう言えば彼は結構そういうのを大事にする人物だった。
「そ、そうです、どれだけ理屈をつけてもこんなことは……おぞましいです」
桜宮も同意する。
「ありがとうございます、貴重な普通の意見ですね」
その瞬間、二人の姿がここから消えた。
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