Ⅱ
「そ、そんな! じゃあ一体誰が真の占い師だって……あ」
そこで御剣はその可能性に気づいたようだ。
「そう、私が真の占い師だから」
そう言って籠宮は手元のボタンを押す。恐らく御剣に投票したのだろう。
「う、嘘!?」
御剣は叫んだが、言われてみれば籠宮が本物という可能性はある。
俺たちは他に占い師がいれば名乗り出る、名乗り出てない以上残っている候補は彼女だけ、と思っていたがまさに今対抗が名乗り出てしまったという訳だ。
「そ、それならもっと早く名乗り出るはず!」
「それについては申し訳ないわ。体が言うことを聞かなくて」
「そ、そうは言っても部屋から出るぐらいは出来るはず!」
「へえ? あなたはこのまともに歩けもしない体で、よく知りもしないところへ連れてこられていきなり歩き回れと? さすが人狼の方は言うことが違う」
そう言って籠宮は薄く笑う。
「そ、それは……」
御剣は反論しようとしたが、言葉に詰まる。
これに関しては正直人それぞれで、お互いに一理あるとしか思えない。未知の場所だから調べた方がいいという考えもあれば、大人しくしていた方がいいという考えもあるだろう。
確かに籠宮が本物の占い師であれば名乗り出ないことに合理性はない。
しかしゲームの有利不利とは無関係に名乗り出られない事情があったのなら話は別だ。
「で、でも私は人狼の草薙君を吊ったわ。ねえ?」
そう言って御剣は同意を求めるように俺を見る。
何とか平静を装っているが、彼女にしては珍しく動揺を隠しきれていない。
確かに御剣とは最初に会って以来ずっと親近感を感じてきた。しかしここは正確な情報を提供すべきだろう。
「ああ、確かに草薙は人狼だったし、御剣は草薙を人狼だと言った。もっとも、最初に草薙を人狼指名したのは神楽だったが」
「そんな! それなら神楽さんに文句を言えばよかっ……」
「いえ、御剣さん。神楽さんは対抗である私を偽者だと断定しました。つまり神楽さんの証言が正しいということにすれば、あなたは完全に占い師になりきることが出来るんです」
そう言ったのは一時期御剣の対抗占い師をしていた桜宮だった。
「確かに仲間を吊るのは辛いですが、その夜唯一あなたの正体を見抜いて来る可能性がある神楽さんを始末したあなたは完全に邪魔者がいなくなりました。これであなたが唯一の占い師です……私もついさっきまでそう信じ込まされていました。しかもその後に私を村人判定するなんて、芸が細かいですね。でもあなたが人狼であれば、私が村人なのは分かること。それで信憑性を上げようとしたのでしょう」
「そ、そんな……大体、神楽さんは草薙君が犯罪者であることやあなたが嘘をついていることを見抜いていた。でも私には何も言わなかった! それは私が本物だから!」
が、今度は籠宮が反論する。
「いえ、それは違う。確かに神楽さんは他人の感情を読むのが得意だった。とはいえ、その神楽さんは結局襲撃されて死んでいる。ということは人狼は神楽さんを上回るサイコパスということになる。だから人狼は神楽さんには一般人と思わせることに成功したのね」
「俺にも言わせてくれ。霊媒の力で分かったんだが、実は狩人は神楽本人だったんだ。つまり神楽は狩人に護衛を要求するというはったりをかけることで自分を襲撃対象から外そうとしたんだ。それでも神楽が襲われているということは人狼は神楽のはったりを見抜いたということになる」
「そ、それは確かに……」
御剣の表情が青ざめる。どうやら彼女も自分が人狼であることを完全に否定は出来ない、と思い始めてきたらしい。
ちなみに「霊媒の力で分かった」のくだりは突っ込まれると面倒くさい、と思ったが御剣にそれを気にする余裕はないようだった。
そんな御剣に桜宮はさらに追い撃ちをかける。
「ゆ、許せません! 私たちを騙していたなんて!」
「桜宮さんに言われたくはないわ!」
「私はただ自分の命が惜しかっただけなのに、あなたは皆を騙して、神楽さんまで襲うなんて……」
桜宮が必死の形相で御剣を睨みつける。
が、そこに三坂が割って入る。
「まあ待て。とはいえ、今のは全て嘘で人狼は籠宮という可能性もある訳だ。二人は誰を占ったんだ?」
「私が今日占ったのは……甘利さん。村人だったわ」
御剣が青い表情で言う。
当然だ、人狼に襲撃されて死んでいる人物なのだから村人に決まっている。
「それでは意味がない。私は天方達也を占って、村人だった」
「どうも」
何か急にこっちに振ってくるな。もっとも、冷静に考えると人狼はほぼ二択だからこの占い結果に意味はないのだが。
ただ、神楽が人狼なら占い対象は適当な人にして白出しすればいい。あえて証明にならない甘利の名前を出したのは本当に甘利を占ったから、という見方も出来る。
もちろんこれも口に出せば籠宮は「そういう演技」と切って捨てるだろうが。
「やっぱり許せない! 大体、こんな馬鹿げたゲームに巻き込まれた割にずっと冷静に推理してて、怪しいと思ったんです! まともに感情があったらあんなこと出来ません! もう私も押します!」
「おい、ちょっと待て!」
「待ちません!」
三坂は止めるが、桜宮は怒りに任せて手元のボタンを押す。
「そ、そんな! ふ、二人は私を信じてくれるよね!? 一緒にここまでやってきたのに!」
御剣は蒼い顔で俺たち二人を見る。
これまで見せたことのない必死の表情だ。普段の御剣なら一緒にやってきたから信じて欲しい、という感情的なことは言わないだろう。それだけ必死ということだが、人狼でも占い師でもここで吊られればほぼ負けである以上必死にならざるを得ない。
確かにここに来てからずっと御剣は落ち着いているように見えたが……どうだろう。分からない。内心恐怖しているのに懸命にそれをこらえていたようにも、サイコパスが一般人の演技をしていたようにも、どっちにも見えてしまう。
対する籠宮も元々血色が悪い顔をしているせいか、表情はよく分からない。
俺と三坂は顔を見合わせた。
正直なところ俺たちに決めてはない。
が、不意に籠宮は俺の方を向いて言う。
「そんなに言うなら、もしも御剣さんに投票してくれるならあなたの秘密を教えてあげる」
「は?」
唐突な提案に俺は困惑する。
この選択を外せば死ぬかもしれないというのに、その提案に意味はあるのか、と思ったが俺の本能は俄然興味を惹かれていた。
「もしも今すぐ御剣来栖に入れてくれればあなたがどういう実験を行われているのか教えてあげる。私を信じられないと言うなら会議終了前までに話してもいいけど」
「そ、それは……」
「天方君、それとこれとは全く別の話よ!」
御剣が籠宮の話を遮る。
こうなってくると本当に訳が分からない。だが、それはそれとして俺がどういう存在なのか気になってしまう。
もし本当に二分の一でしか判断できない二択なら選びたい方を選ぶ。
それでいいのではないか?
そんな考えが浮かんでくる。
いや、考えろ。どっちだ。
そこで俺はこのゲームのルールを思い返す。
<村人陣営>
村人……四人。投票することしか出来ない。
占い師……一人。毎晩誰かを占うことが出来る。その人物が狼か否かが分かる。
霊媒師……一人。毎晩死体を一つ占うことが出来る。その死体が狼か否かが分かる。
狩人……一人。毎晩誰かを護衛することが出来る。その人物が狼に襲撃された場合、守ることが出来る。ただし自身を護衛することは出来ない。連続護衛可。
<人狼陣営>
人狼……二人。毎晩、誰か一人を襲撃して殺すことが出来る。襲撃対象は話し合いで決める。
狂人……一人。人狼が勝利すると勝利。狂人は人狼が誰かを知っているが、人狼は狂人が誰かを知らない。占い師・霊媒師の判定では村人となる。
<会議について>
会議は五分間行われ、その間のみ誰かに投票することが出来る。
同数だった場合は両方の人物が処刑される。
<勝敗>
人狼が全滅すれば村人陣営の勝利。
人狼陣営が村人陣営と同数以上になれば人狼陣営の勝利。
そうか、実はこの場面、三坂の協力があれば必勝法がある。
俺はそのことに気づいた。
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