四日目
Ⅰ
「おはよう」
「おはよう」
翌朝、俺が起きてくると、ちょうど御剣も部屋から出てきたところだった。俺は彼女が起きてきたことにほっとする。
死んだ神楽が狩人だった以上、人狼が占い師である御剣を襲撃した場合御剣は確実に死んでいた。だから実は俺は御剣と生きて再会できるかは心配だった。
とはいえ、人狼側も狩人が生きているなら占い師を護衛すると判断したのだろう。
「お互い無事でよかったな」
「そうね。他の皆も無事だといいのだけど」
俺たちがそんな会話をしていると、
「お、おはようございます」
「お、おはよう」
そう言って他の部屋のドアが開いて桜宮と三坂が出てくる。二人とも朝の挨拶には似つかわしくない、弱々しい声だ。
とはいえこれで合わせて四人。最初は九人いたのに四人になったと思うと随分減ってしまったものだ。
「とりあえず会議室に行って他の人を待つか」
何気なくそう言って俺は会議室に向かう。
が、そこで会議室にある名札を見て残っている人物が甘利と籠宮しかいないことに気づく。もしかして甘利は恋人を売り渡したことへの自責の念で苦しんでいるのだろうか。そうだといいのだが。
他の人もすっかり減ってしまった人数に動揺したのか、会話らしい会話はない。
そんなことを考えていると、よろよろとした足音とともに杖をつく音が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはぐったりした表情の籠宮夢がいた。
「籠宮さん、今日はきちんと会議に参加するの?」
「ええ……本当はずっと寝ていたかったけど、残り五人なら仕方ない」
そう言って籠宮はよろよろと自分の席につく。
その様子を見るに彼女は病弱なのだろう。
「おはようございます、皆さん!」
そんな中、突然モニターが点灯し、俺たちのテンションにはそぐわないピエロ男の弾んだ声が聞こえてくる。
「皆さん、今日の朝は甘利いちごさんが襲撃により死亡しました!」
「な!?」
俺と三坂は顔を見合わせて驚く。
が、狩人が死んでいて甘利以外の人間は全員この場にいる以上、甘利は襲われているのは考えれば分かることだ。きっとまだ起きたばかりで寝ぼけていたか、脳が無意識に考えたくない可能性を排除していたに違いない。
「と言う訳で皆さん、もしかしたらこれが最後の会議になるかもしれません。張り切っていきましょう!」
もしかしたらこの会議で人狼が見つかって吊ることが出来たら。
もしくは人狼以外の人を吊ってしまい、さらに今夜襲撃があれば。
もう会議は行われないかもしれない。別に会議自体に思い入れはないが、このままこのデスゲームが終わってしまうことに俺は薄気味悪さを感じていた。
村人陣営が勝ったとして、俺たちはこの後元の日常に戻されるのだろうか。
こんなことをして今更普通の人のように学園生活を送ることが出来るはずがない。
「……ところで籠宮さんはなぜずっと部屋で寝ていたの?」
御剣が籠宮に尋ねる。
そうだ、今は終わった後のことより今のことだ。
いかんせん、籠宮の正体は分からなさすぎる。
御剣の問いに、籠宮は弱々しい声ではあるが、語り始める。
「私の名前は籠宮夢。所属的には未来教育学園の三年生、らしい。学園に行ったことなんか一度もないけど。私は生まれたこの島で育った人間。そこの天方達也のように」
そう言って彼女はちらっと俺を見る。
「この島では闇雲に仮想現実を生徒に使っている訳ではない。それぞれ明確に教育のテーマがある。例えば不破望や神楽瑠璃の場合、サイコパスを後からの教育により矯正することが出来るのか、だった」
それを聞いて俺、三坂、桜宮、御剣の四人は顔を見合わせる。
俺はすでに霊媒能力によりそんなことだろうと思っていたし、中には薄々気づいている人もいたようだが、改めて自分が何らかの実験体になっていたと思うと真顔になってしまう。
そしてこのタイミングで籠宮がこのようなことを言いだす意図についても考えてしまう。一体なぜ今まで会議にすら出なかったのに、いきなりこんなことを語り始めたのだろうか。
「私は幼少期に行われた知能テストによると凡人だったらしいけど、簡単に言えば凡人を仮想現実漬けにしたら天才になるのか、というのがテーマだった。そんな訳で私は生まれてから四六時中仮想現実の中で英才教育を受けて育った。仮想現実の中で八か国に留学に行ったし、世界最高峰の大学の講義も受けた。それから、こういうデスゲームまがいのこともたくさんやらされた」
「……」
籠宮の言葉に俺たちは沈黙してしまう。
基本的に仮想現実は長く使うとどんな影響が出るか分からないため一日に使っていい時間が定められていると聞いていたし、少なくとも学園に通っている生徒は皆そうだったはずだ。
だが、ここまでの見聞きしたことを考えるとこの学園が「どんな影響が出るか分からない」という理由で実験を躊躇するとは思えない。
そして、最先端の技術があればそれをフルに活用すればどうなるか。それを試さないとも思えない。
何より彼女の病的な外見、そして命をかけたゲームが行われている中ずっと引きこもっていたという事実が彼女の発言に信憑性を与えていた。
「正直、時間の感覚もよく分からない。なぜなら仮想現実の中では世界を倍速で動かすことも出来る訳だから。ベッドに寝かされてずっとそんな教育、いやもはや教育というよりはそちらの世界で別の人生を送っていたと言っても過言ではない。だから、当然のように肉体は衰弱して支えがないと立つことも出来ない」
「でも、普段なら仮想現実の中で授業を受けるなり留学するなりしている訳でしょ? 何で今回だけ引きこもっていたの?」
御剣が尋ねる。
「それは簡単。今までの仮想現実では、健康的な肉体を与えられていた。それなのに今回に限っては現実とリンクした肉体を与えられたから。本当に悪趣味ね」
「お褒めに預かり光栄です」
籠宮に睨みつけられたピエロ男はおどけたような声で言う。
本当に人を煽ることだけは得意なようだ。
「さて、そういう訳で私は他の人よりも仮想現実に詳しい訳だけど、まず桜宮小春、あなたは単純に見込みがある一般人を最先端の教育で教育する、というケースで連れてこられた」
「は、はい」
いきなり名指しされて桜宮は頷くしかない。
「それから三坂瑞樹、あなたは幼少期から仮想現実で善人に囲まれて育てられれば普通の人よりも善人になるのではないかと期待されて育ったらしい」
「それは……」
言われてみれば、三坂はやたら不破の死に良心の呵責を感じていたらしい。
このゲーム中も、ゲーム的な指摘や自分の命がどうこうという話ではなく良心に基づいての発言が多かったような気がする。
「そして天方達也……は言わない方がいいか」
「おい、どういうことだ!」
俺は思わず大声をあげてしまう。
これまで俺は自分のことを普通の人だと思っていたが、神楽からも意味深なことを言われ、ずっと自分には何かあるのではないかと気になってしまっていた。
そこへ籠宮から追い撃ちをかけるようなことを言われたので気持ち悪くなってしまう。
が、籠宮は抗議する俺を無視して御剣の方を向いて言う。
「そして御剣来栖……あなたも神楽さんや不破君と同じように異常な精神を持っている。ただしあなたはそのことを自覚する前にこの施設に来て、まっとうになるよう教育された。もっとも、このふざけたデスゲームで化けの皮がはがされたようだけど」
「え?」
御剣の表情がはっきりと困惑に染まる。
そんな御剣に籠宮は言い放つ。
「人狼の癖に、そして神楽瑠璃のような頭が切れる人物がいる中、ゲーム中ずっと占い師の振りを完遂するなんて……性格も神経も、そして能力も全うとは思えない」
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