Ⅱ
「どうしたの、天方君」
「ここで霊媒師を宣言する。対抗はいるか?」
そう言って俺は周囲を見回す。
が、名乗り出る者はいなかった。
まあ、俺の対抗に名乗り出れば御剣に占われて人狼が露見するかもしれない以上、難しいだろう。狂人が名乗り出れば面倒くさいと思ったが、幸いそうはならなかった。
「では霊媒師は天方君でほぼ確定ね。それで霊媒結果は?」
「不破が村人、草薙が人狼だ」
「そうね」
正直、この結果であれば誰でも言える。極端な話、俺が死にたくないから適当なことを言ってる村人で、本物は不破や籠宮である可能性すらある。
そのため御剣の反応も薄いものだった。
「とはいえ、一応対抗がいないのであれば藤川君、甘利さんが現時点で一番グレーの確率が高いわ」
「そ、そんな、酷いです! 第一神楽さんの遺言だとこの中で一番怪しいのは天方さんか籠宮さんじゃないですか!」
別に神楽も遺言のつもりで言った訳ではないだろうが、期せずして草薙・俺・籠宮・桜宮が怪しいと言った言葉は遺言になってしまっている。
もはや神楽の真意を確認することは出来ない。
そして草薙が吊られ、桜宮に村人判定が出た以上、残るは俺と籠宮になる。
「天方君と籠宮さんに関してはよく分からない、と言っていただけだけど。それに、仮にあの時点までは人狼側の襲撃は草薙君が行っていた可能性があるわ」
なるほど、確かに神楽はあの時点で「犯罪をした経験がなさそう」と言っていただけだ。
草薙の死後の襲撃はもう一人の人狼が行っている以上、その時まではもう一人の人狼も本当に犯罪の経験がなかったという可能性はある。そもそもこのゲームでの「襲撃」を神楽が犯罪の経験として読み取ることが出来るのかもよく分からないが。
第一、やはり神楽が俺のことがよく分からない、というのはやはり意味不明だ。
それらのことを総合して考えるともはや神楽の遺言はあてにならないのかもしれない。
「確かにそうだ」
その方が俺にとってもその方が都合がいいということもあって俺は御剣の意見に同意する。
それでも甘利は必死に抵抗する。
「そ、それならとりあえずここにいない籠宮さんを吊りましょう!」
「それなんだけど、もし彼女が人狼だったとして、会議に参加していないなら真っ先に吊る意味ってあるかしら」
「そ、それは……」
よっぽど正体を隠すのが下手でない限りは会議に出た方が戦況は有利になるだろう。仮に籠宮が人狼だとすれば、投票という行動を行わない以上他の人物が人狼である場合よりも脅威度は低い。
籠宮が部屋に引きこもっているのが有利不利の判断によるものなのか、別の理由があるのかは分からないが、確かに真っ先に投票する必要はない。
「……と言う訳で私としては藤川君と甘利さんのどちらかを吊りたいところだけど」
「「えぇ!?」」
御剣の言葉に二人は悲鳴をあげる。
二人にとってそれは受け入れがたい結論だろう。
しかし俺、三坂、桜宮の三人は明確に反論することはなかった。投票を推進している三坂は投票に反対している二人よりもどうしても白く見えてしまうのだ。
「そ、そんな! これはゲームと違って実際に人が死ぬって言うのにそんなゲームみたいな理由で人を殺すなんて!」
藤川は叫ぶが俺たちは誰も彼と目を合わせない。
藤川の言うことはもっともだったが、「だから殺し合いなんてやめよう」と言っていた神楽が人狼に襲撃されて死んでしまった以上その案に戻ることは不可能だろう。
御剣や桜宮も頭は良さそうだが、御剣は皆をまとめあげるタイプには見えないし、桜宮は一度嘘をついた以上、何か言っても皆がついてくるとは思えない。
こうして俺たちの間の空気は、藤川と甘利のどちらを吊ればいいのか、という方向に向かっていく。
そんな時だった。
「そ、それなら良太を吊って!」
突然叫んだのは甘利だった。
彼女の叫びは聞く者をぎょっとさせるような響きがあり、目は血走っている。
「良太、皆には分からないと思うけど、付き合っている私には分かる! 絶対何か悩んでいるような顔をしている! これはきっと彼が人狼だからそうしているようにしか見えない!」
「な……」
これまでずっとラブラブだった甘利に突如裏切られた藤川は絶句した。
恐らく、この仮想現実に来た時点では二人は仲のいい恋人だったのだろう。だが、こうして成り行きで二人のうちどちらかが処刑されるとなって、甘利は藤川よりも自分の命の方が惜しくなったに違いない。
彼女は必死の形相で俺たちに主張した。
そして。
「藤川君がやったに決まっている! 私は彼に投票しまあす!」
甘利は高らかに宣言すると、手元のボタンを押す。
それを見て俺たちは顔を見合わせる。
甘利はああ言っているが、一応甘利が人狼であって藤川に投票先を押し付けようとしていると言う可能性もある。
というか、こうなってしまった以上人狼だろうが村人だろうが、良心さえなければ相手が怪しいと主張するしかない。
「そ、そんなことはない! 俺は人狼じゃない! きっと人狼は他の誰かだ!」
一方の藤川にはまだ良心が残っているのだろう、はっきりと甘利が人狼だとは言わなかった。
「おい、あれ」
そんな時だった。
不意に俺は会議室のドアが半開きになっているのに気づく。
この空間にいるのは俺たちを除けば、一人しかいない。
「こんな時に何を言って……」
俺の言葉に皆が振り向く。
するとドアがよろよろと開き、奥に立っていた人影が目に入ってくる。
そこに立っていたのは長いステッキのようなもので体を支えている一人の女子だった。一応うちの制服を着ているが、同じ高校生とは思えないぐらい背が低く、加えて全身は軽くぶつかるだけで折れてしまいそうなほど細く、肌は透き通るように白い。
また、とても顔色が悪く、全体的にかなり体調が悪そうだった。
「……もしかして、あなたが籠宮さん?」
俺たちを代表して御剣が尋ねる。
すると少女は気だるそうにこくりと頷いた。
「今までどうして姿を見せなかったの!?」
「体調が。……でも、さすがにそろそろ会議を見ておかなきゃと思って」
「そ、それはどういう」
御剣が何かを尋ねようとした時だった。
「投票時間はあと十秒です!」
ピエロ男の声が響く。
それを聞いて俺たちは慌ててボタンに意識を戻す。このままでは甘利が藤川に入れた一票、そして人狼が例えば御剣とかに入れれば藤川と御剣の両吊りになってしまう。
仕方なく俺は慌てて藤川のボタンを押す。
が、そこで気づいた。……その場合の人狼って誰だ?
部屋のドアを開けた籠宮はしばしの間俺たちの様子を見つめていただけで投票している様子はない。
「では結果が出ました! 藤川良太、五票! 他は全員ゼロ票! よって処刑されるのは藤川良太です!」
「うわああああああああ!」
ピエロ男の宣告とともに藤川は首元を抑えて苦しみ始める。
が、すぐにがっくりとその場に崩れ落ちて動かなくなった。
投票数から考えるに、藤川はきっと誰にも投票出来なかったのだろう。
ちなみに、気が付くと半開きになったドアの向こうには誰もいなくなっていた。彼女も投票はしていない。会議を見て必要な情報は手に入れたということだろうか。
「残念ながらまだゲームは続きます。とはいえいよいよゲームも佳境に入ってきましたね! それではまた明日!」
ピエロと男は楽しそうに言った。
ということは藤川は人狼ではなかったということになる。
この時点で残っているのは、俺、御剣、三坂、甘利、桜宮、籠宮の六人。
もしも狂人が残っているのであれば、四対二であり、今夜の襲撃が成功すると明日の会議がほぼ最後のチャンスとなってしまう。
そんなことを思いつつ、俺は部屋に戻るのだった。
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