第11話 第一騎士団団長ディーク




 時はレイクと朝稽古を終えた後まで遡る。


 ディークは稽古を終え、騎士団会館建物内にある自室の机に置かれた書類を片付けていると突然ドアが開き、部下の一人が飛び込んできた。


 必死の形相を見せる部下に何事かと思ったが、ディークは肩で息をする部下に話し掛けた。


 「どうした?何か問題でもあったのか?」


 ディークの声に部下は一度息を整え、気持ちを落ち着かせると口を開いた。


 「団長大変です!お嬢様が拐われたと屋敷から来た者から報告がありました!」


 「なに!!」


 ディークは声を荒げると立ち上がり急いで騎士団専用の馬屋に向かい、愛馬に乗って屋敷に向かった。


 屋敷に着くと待ち構えていた執事のセバがディークに駆け寄って来る。


 「セバ、報告は受けた、レミリは何処にいる」


 「奥様はダイニングでメイド達に介抱されております」


 頭を下げるセバに「分かった」と返事をすると、ディークはダイニングに向かった。


 ダイニングでは大きなソファーでメイド達に介抱されているレミリが横たわっていた。


 「レミリ!」


 ディークの声にレミリは体を起こすと、覚束無い足取りでディークに近付き倒れ込むように抱きついた。


 「あなた、マリーが、マリーがううっ……」


 と自分の胸で泣いているレミリの頭を優しく撫でると「分かってる」と呟いた。


 「ディーク様これを」


 控えていたセバがディークに封の切られた手紙を差し出すと、ディークはレミリを一旦離れさせ手紙を受け取り読み始めた。


 『娘を預かっている。返して欲しくば森の奥にある廃屋までディーク一人で来たれし。来ない場合と一人では無い場合は娘の命は無いと思え』


 「クソ!」


 ディークは手紙を読み終ると握り潰し床に向け投げつける。


 「あなた……」


 「レミリ、大丈夫だ!マリーは必ず無事助け出す!」


 心配するレミリに宣言するとディークは自室に向かい手紙を書き始めた。書き終えるとセバを呼び付けた。


 「セバ、至急これを騎士団会館にいるナドリへ届けてくれ!」


 「分かりました。必ず!」


 セバは手紙を受け取り頭を下げると、スキルを発動させあっという間にディークの目の前から消えた。


 「セバが手紙を届けるまで十分ほど…急がなければ……」


 ディークは呟くと急いで仕度を整え森へ向かった。


 「旦那、大変な事になりましたね」


 「ナドリ来たか」


 ディークはナドリの到着に合わせ馬足を進めていた。

 廃屋まで後一キロほどの距離までに迫った所でナドリがやって来た。


 「それで旦那、作戦は?」


 ディークに問を投げるナドリは第一騎士団副団長で、隠密に長けた人物。そしてディークからの信頼も厚い。


 「俺が一人で廃屋の中に入る。お前は『闇影』を使って様子を伺いつつ、俺の合図でマリーを助け出してくれ」


 『闇影』は匂い、気配、息遣い、足音など自分の存在を完全に消すことが出来る上級スキルで、使い手は少ない。

 ナドリは闇影が使える為、万が一の保険でディークが呼び寄せたのだ。


 「了解!旦那、死なないで下さいよ。まだ酒を奢ってもらってないですからね」


 「ふっ、お前らしいな、分かってるさ、お前も死ぬなよ」


 「分かっますよ。では旦那ご武運を」


 と言い残しナドリは消えた。


 ディークは直ぐに廃屋へと向かい中に入った。

 廃屋の中は建物同様ボロボロで、腐蝕した柱や壁が不気味な雰囲気をかもし出していた。


 「ディークだ!」


 廃屋内にディークの声が響き渡ると一人の男が姿を現した。


 「待っていたぞディーク」


 ディークはやって来た人物に驚きの表情を浮かべる。


 「ドミニク公が何故ここに?」


 「何故?それはワシがお主の娘を拐うよう命じたからじゃよ」


 そう言って笑みを見せるドミニク


 「貴様ーー!」


 ディークは叫ぶと腰に差した剣に手を掛け、素早く抜くとドミニクが突然笑い出す。


 「はははは、落ち着けディーク、お主の娘は我が手にあるのだよ、分かるな?」


 ドミニクの言葉に舌打ちをして抜いた剣を鞘に収めるとディークは悔しさに顔を歪めた。


 「お前の要求は何だ!」


 「要求か、先ずはこれを見よ」


 ドミニクは手に持つ物をディークに見せつけるように上に上げた。


 「何だそれは」


 ドス黒い目玉の形をしたそれは気味の悪い物に見え、何なのか分からないディークは質問した。


 「これは、ワシが秘密裏に開発した魔道具、悪魔の目玉デビルアイじゃ!」


 ドミニクそう言って笑いを挟み、口を開いた。


 「ディークよ分からぬって顔をしているな?説明しよう。これに魔力を流すと近くにいる人の心臓目掛け触手を伸ばし体を乗っ取りる。そして生ける屍となり操り人形と化す」


 「それを何に使うつもりだ!」


 ドミニクの開発した恐ろしい魔道具に背筋が凍る様な感覚を覚えたがディークは声を発した。


 「これをお主に使ってアレクサンドラを伐ってもらう事だ」


 「俺が素直に従うとでも?」


 ディークは冷静に返す。


 「思ってはおらぬよ、だから、おい!」


 ドミニクが合図を出すとマリーを抱えた兵が姿を現した。


 「マリー!」


 駆け寄ろうとしたディークをドミニクが手を上げ制止させた。


 「待てディーク、お主には見えてるはず!娘の胸に悪魔の目玉デビルアイがあるのが!ワシが魔力を流せばどうなるか」


 「くっ!」


 唇を強く噛み、血が垂れるディークは鬼の形相を見せる。


 「ディークこれを付けろ」


 ドミニクは手に持つ#悪魔の目玉デビルアイをディークに向け投げるとディークの足元に転がって行く。


 「貴様!」


 睨むディーク


 「早くせんか!娘がどうなってもいいのか?」


 ディークは足元にある 悪魔の目玉デビルアイを拾い上げると胸に寄せた。


 「これで娘は助けてくれるのだな?」


 「いかにも、では行くぞ!」


 ドミニクはそう言うと魔力を#悪魔の目玉デビルアイに向け送り込んだ。

 すると、悪魔の目玉デビルアイの閉じていた瞼が開き大きな目玉が見開くと、回りから触手が飛び出しディークの心臓目掛けて突き刺さる。


 「ウギギギギギギギギ」


 「痛かろう、しかし直ぐに楽になるから安心せい!」


 ドミニクは痛みに悶えるディークに近いて行く。


 そして激しい痛みに身悶えるディークはこのタイミンクで手を上げ合図を出した。


 その瞬間マリーを抱えた兵の首が飛び、マリーもろとも崩れ落ちた。


 そしてナドリが姿を現しマリーを抱えようとしたその時、 マリーの元から落ちた悪魔の目玉デビルアイからナドリの心臓目掛け触手が伸びた。


 危険を感じたナドリは触手に直ぐさま反応し、左腕で心臓を守るも触手はそのまま左腕に突き刺さる。


 突き刺さる触手が左腕を通して体の中に入り込む感触に、ナドリは自分の左腕ごと触手を切り落とすとマリーに近より転移魔法を発動させた。


 青白い光がナドリとマリーを包むと二人の姿は消えた。


 「逃げられたか、まぁ良い目的は達成された。さぁディーク、命じる、アレクサンドラを伐て!」


 薄れ行く意識の中、命令に頷くディークは城を目指して行った。


 こうしてディークはドミニクに操られアレクサンドラを襲ったのだった。



 王の間に戻る──


 レイクに貫かれたディークの胸にある 悪魔の目玉デビルアイから黒い煙が上がり少しづつ灰になって行く。そのせいかディークの意識は戻っていた。


 泣き叫ぶレイクを見つめるディークは、「レイク様」と呟くと息絶えた。

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