第10話 襲われたアレクサンドラ




 王の間───



 アレクサンドラは突然やってきた男に襲われていた。


 男はアレクサンドラの護衛兵を全て切り伏せ、屍となった護衛兵達の真ん中に立っている。


 「ディーク、きさまぁぁ!」


 アレクサンドラは叫ぶと、目の前にいる襲撃者ディークを睨み付けた。


 「……」


 アレクサンドラの叫びに無言で近づくディークは虚ろな目で魂の抜けた表情をしていた。

 その姿に覇気は無く、まるで死人のようだった。


 (どうゆう事だ?ディークに一切の感情を感じぬ)


 護衛達の血が滴り落ちる剣を握り、ジリジリと近づいてくるディークにアレクサンドラは全身の毛穴が逆立つのが分かった。


 「ディーク、それ以上近づくと切るぞ!」


 アレクサンドラはディークに向け殺気を放つと剣を抜いた。


 それでも止まらないディークにアレクサンドラは身体強化を使い、一直線に剣を振り下ろした。


 ディークまで距離のあったアレクサンドラの剣は空を切り地面にめり込むが、剣から放たれた斬撃が飛んでいきディークに当たった瞬間パンッと音をたてて弾ける。


 それを見たアレクサンドラは驚愕の表情を見せた。


 英雄ドレイクの血を受け継ぐアレクサンドラは強く、幾多の魔物達を両断してきた自分の斬撃をディークがどうやって防いだのかわからなかった。


 アレクサンドラは動揺し、額から出た冷や汗がツツっと頬まで垂れ落ちた。


 何事も無かったように無表情で近づいてくるディークに、アレクサンドラは剣を振り、一つ二つと斬撃を放つがディークに当たると全て弾けてしまう。


 ディークの異様な雰囲気にアレクサンドラは少しずつ後退し、壁際まで追い詰められてしまった。


 アレクサンドラは「ふぅー」と息を吐くと剣をグッと握りしめてディークに向かって飛び掛かり剣を振った。


 強さよりも速さを重視したアレクサンドラの剣はあらゆる方向からディークを襲った。


 しかし、ディークはその全てを難なく捌く。


 「強いのぉ」


 剣を振りながら呟くアレクサンドラは自分が認めた男ディークの強さに舌を巻いた。


 ディークに押されつつ、防御に徹したアレクサンドラの体には少しずつ切り傷が付いていく。


 (このままではジリビンじゃわい)


 アレクサンドラがそう思った刹那、


 「父上ーーーー!!」


 レイクの叫びにアレクサンドラは視線をレイクに向けてしまう。


 だがそれは悪手だった。


 アレクサンドラが手を止め、視線がレイクに向いた僅な隙にディークがアレクサンドラの心臓目掛けて剣を突き刺した。


 剣は胸を貫き、心臓を貫き、そして背中まで貫く。


 「ガハッ!」


 アレクサンドラは血を吐き、ディーク目掛けて倒れ込むとそのまま腕に力を込め、抱き締める形でディークの動きを止めた。


 「い、今だレイク!ワシごとこやつを切れい!」


 「ち、父上、で、でも」


 「何をしている!早くせんか!長くはもたん!」


 必死の形相でアレクサンドラが叫ぶ。


 逃れようともがくディークに対して、アレクサンドラは残るの力を振り絞りディークを締め上げる。


 アレクサンドラのその姿にレイクは涙を浮かべる。

 リーニャを目の前で失い、父アレクサンドラまでも自分の目の前で命を散らそうとしている。

 まだリーニャを失った悲しみを乗り越えていないレイクの胸は張り裂けそうだった。


 「れ、レイク、早く、早くせんか!」


 レイクはアレクサンドラの叫びに刀を握りしめ、雄叫びを上げた。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 スキル『縮地』を発動させた勢いを利用してディークの背中から心臓の位置目掛けて刀を突き刺した。

 レイクの刀はディークの心臓を貫き、アレクサンドラまで届くとアレクサンドラは笑みを浮かべた。


 「レ…イク、よく…やった……」


 アレクサンドラは消え入る声で言葉を発すると、ディークを抱えたまま膝から崩れ落ちた。


 「ち、父上ーーー!!」


 レイクは叫び、アレクサンドラの元へと駆け寄る。


 「父上、しっかりして下さい。今、回復魔法を使える者を呼んできます」


 そう言って立ち上がるレイクの手を掴んだアレクサンドラは首を横に振った。


 「よい…レイク……」


 「父上……」


 心臓を貫かれ、息があるだけでも不思議な常態のアレクサンドラは回復魔法をかけても最早助からない。


 それはレイクも分かっていた。


 それでもレイクはアレクサンドラに生きていてほしかった。


 (レイク…いい男…に育ったものだ……)


 意識も混濁し、視界も無くなったアレクサンドラは心の中で呟いた。


 「レイ…ク、あとは…頼む……」


 アレクサンドラの最後の言葉に堪えきれない感情が溢れ、それはレイクを支配する。


 そしてアレクサンドラを抱きしめたままレイクは大声で泣き叫んだ。


 王の間にはしばらくレイクの泣き叫ぶ声が響き渡っていた。

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