第9話 襲われたレイク




 レイクは晩餐会の準備を済ませ、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。


 するとドアの向こうからリーニャの叫び声が聞こえ、ドアノブから手を離し机の上に置いてあった刀を手に取ると息を殺した。


 ドアの向こうはすぐに静かになったがレイクは気配を殺し、ドアの向こうの気配を探る。


 (殺気を持った気配が五つ……消えそうな気配が一つ……これはリーニャかな?良かった生きてる)


 リーニャの気配を感じたレイクは安堵する。

 ドアから少し離れたレイクは刀に手をかけると、鞘から一気に抜き去り氏家の記憶にある居合切りでドアを切り刻んだ。


 (父上から頂いたこの刀の切れ味は凄い…)


 ドアを切り、刀の感触を確かめたレイクはスキル『縮地』を使って高速で部屋から飛び出すと近くにいた男の首を撥ね飛ばし、刀に付いた血を払うと残るヤツラを睨み付けた。


 「リーニャを離せ」


 殺気の乗ったレイクの声に残る黒い鎧を着た男達は一瞬怯むが直ぐにレイクに襲いかかる。


 (全員手練れだ、そして速い!でも、ディークに比べたら………)


 「遅い!!」


 叫ぶレイクに次々と切りかかってくる男達の剣をかわすと、レイクは刀を振るい向かってくる男達を切り刻んでいった。


 「凄い……」


 レイクを攻め立てる男達をレイクがものともせずに切り伏せていくのを見ているリーニャは、消え入りそうな声で呟くと涙を浮かべた。


 幼い頃からレイクを見てきたリーニャは美しく、そして強く、想像以上に成長した今のレイクの姿に涙を堪える事ができなかった。


 (レイク様はやはり、尊い……私がいなくても……大丈夫そうです……ね)


 リーニャは勇ましく闘っているレイクの姿を目に焼き付けると笑みを浮かべ息絶えた。


 リーニャが既に息が無い事に気がついていないレイクは、一人、二人と次々に切っていき、最後の一人となった黒い鎧を着た男と対峙していた。


 (くっ、コイツ強い)


 最後に残った男はかなりの使い手で、刀を手にして他の男達を切り伏せたレイクは八割がた記憶にある氏家の剣技を再現出きるようになっていたが苦戦していた。


 男の剣とレイクの刀がぶつかり火花が散る。


 二人の間で止まった剣と刀を押し合うと力で勝る男がレイクを押し飛ばす。


 押し飛ばされたレイクは着地するとスキル『縮地』を発動させ一瞬で男の側に寄った。そして刀を横一線に振るが男は剣を上手く使いレイクの刀の軌道を上にずらす。


 男に軌道を上にずらされた刀を切り返し、すぐに上段からレイクは刀を振り下ろすも男は間一髪体を捻って避けた。


 レイクは避けられた刀を更に切り返して下から上に刀を振り上げると男の体は斜めに線が入り、そこから血が吹き出し男は仰向けに倒れる。


 『つばめ返し』それがレイクが男を切った技だった。


 レイクは男を切るとすぐにリーニャに駆け寄った。


 「り、リーニャ?」


 うつ伏せに倒れているリーニャは背中が切られていてそこからは大量の血が溢れ、リーニャが倒れている場所は血の海になっていた。


 レイクはリーニャを抱き上げて膝に頭を乗せると息を確認する。


 「嘘だよね?リーニャ?」


 リーニャは息をしていなかった。


 「ねぇリーニャ、もう大丈夫だから起きてよ……」


 レイクは震える声でリーニャに語りかける。


 「お願いだからまた笑顔を見せてくれよ…リーニャ……」


 リーニャを抱き締めて小刻みに震える体でレイクの中でリーニャとの思い出が駆け巡っていく……


 勉強を教えてくれたリーニャ

 剣の練習後にタオルを渡してくれたリーニャ

 誕生日を祝ってくれたリーニャ

 いつも後ろで笑いかけてくれたリーニャ


 そのどれもがレイクにとっては大切な思い出だった。


 そして、レイクは叫んだ。


 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 レイクの声が響きわたると最後に切り伏せた男が「ガハッ」と血を吐いた。


 レイクはその声に立ち上がり、男に近よると顔を蹴りあげた。

 男はゴロゴロと転がり、もう一度血を吐くと息苦しそうに口を開く。


 「はぁはぁ、我々の任務は失敗した……しかし、アレクサンドラはもう…終わりだ……」


 レイクは男の言葉に怒り任せに刀を男の頭に突き刺すと殺気のこもる目で睨む。


 「父上が何だって?」


 その声は生き絶えた男には届かない。


 それでもレイクは男を睨み付け何度も何度も刀を突き刺した。


 「クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!ク…ソ……」


 レイクはどれだけ男を刺し続けても怒りとリーニャを失った悔しさ、そして、自分自身への不甲斐なさが消える事は無かった。


 どれ程の時間男を刺し続けていたかわからないが、レイクは溢れる涙を袖で拭うと立ち上がり、リーニャを抱き上げ、自分のベットに寝かせた。

 殺されたにもかかわらずリーニャの顔は穏やかだった。


 「リーニャ…」


 レイクは動かなくなったリーニャの頭を撫でてそう呟くとアレクサンドラの元へと向かった。

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