第8話 第二騎士団団長サリエル




 レイクとプリシアがいなくなった王の間に残るアレクサンドラはこれから始まる勲章授与式の事を考え憂鬱な気持ちになっていた。


 「ドミニクよ、次は勲章授与であったな?」


 「さようでございます、陛下。第二騎士団隊長サリエルの勲章授与式でございます」


 「サリエル……、あれは強く、武功を上げる我が国の優秀な人材なのだが、どうも苦手なのだよ……」


 アレクサンドラはサリエルの力を認めてはいるが、苦手としていた。いや、むしろ嫌悪感を抱いていた。


 「あら奇遇ですね殿下、私も彼は苦手ですの」


 アレクサンドラの話に合わせるテレシアも同じ理由でサリエルの事が苦手としていた。


 「なあドミニク、授与式はお前に任せるからワシは帰ってもよいか?」


 アレクサンドラはサリエルへの嫌悪感を表情に出すとドミニクを見てそう言った。


 「で、殿下なりません。サリエルはブリジスト帝国三千の軍勢の侵略を我が国とブリジスト帝国の国境を守るカテーリア砦で軍勢千の第二騎士団だけで退けたのですよ?そのような素晴らしい武功をあげたサリエルに殿下からではなく、私からの勲章授与では他の者達に示しがつきません。ここは個人的な感情は抑えて、殿下からの勲章授与が賢明でございます」


 「そうですよ、ドミニクの言うとおりです。こればかりは殿下からの勲章授与が筋ですわ。ここは少しご自分の感情を抑えて下さいませ。」


 テレシアとドミニクの言葉にアレクサンドラは「そうか」と言うとまたタメ息を吐いた。


 すると、


 「第二騎士団団長、サリエル様の入場です」


 と兵の声が聞こえると扉が開き、サリエルが赤い絨毯を進みアレクサンドラの前まで来ると頭を下げた。

 アレクサンドラは頭を下げるサリエルを見て大きく息を吐くと表情を引き締める。


 「第二騎士団団長サリエル面をあげよ」


 黒髪を後ろで束ね、赤い瞳のサリエルはアレクサンドラの言葉で頭を上げるとアレクサンドラに視線を向けた。


 「ブリジスト帝国三千の軍勢を第二騎士団だけで退けたこの度の働き見事であった。よって第二騎士団には金貨三千と第二騎士団団長サリエル個人には勲章と金貨千を与える」


 「ありがたき幸せ」


 胸に手を当てたサリエルはドミニクから金貨の入った袋二つと勲章を受け取り、勲章は胸に付けた。

 サリエルの胸には今までに貰った勲章と、今回貰った勲章合わせて五つの勲章が付いていた。

 そして、サリエルはアレクサンドラへ向けて口を開く。


 「アレクサンドラ殿下よろしいですか?」


 さっさと終わりにしたかったアレクサンドラは少し表情を変えたが「うむ」とサリエルへと返した。


 「ありがとうございます。それでは殿下、約束は覚えておられますか?」


 突然のサリエルの質問にアレクサンドラは首を傾げた。


 「今回貰った勲章で私の胸には勲章が五つ……殿下思い出していただけましたか?」


 サリエルは首を傾げるアレクサンドラに向け胸を張り、胸に付いた勲章を見せる。


 すると、テレシアが思い出したかのように手に持った扇を広げて口元を隠すと、アレクサンドラに小声で話した。


 「殿下、まず勲章を五つ頂いた者には段位を与える」


 「うむ、それはわかっている」


 この国は例え平民であっても国に貢献をして王から勲章を五つ貰えれば段位を与える事になっている。

 それはアレクサンドラもわかっていた。


 「次に、プリシアの事です」


 テレシアの言葉にアレクサンドラはハッとした。

 これがアレクサンドラとテレシアがサリエルに対して嫌悪感を抱く理由である。


 サリエルに初めて勲章を授与した時、『勲章を五つ頂いた暁にプリシア様と結婚させてほしい』と言われたアレクサンドラは、大切な娘と突然結婚させてほしいと言ったサリエルに嫌悪感を抱き、それが今も続いていた。


 「テレシアよ、どうしたものか?」


 サリエルへの返答に困るアレクサンドラは小声でテレシアに返すとテレシアは「全く…」と呟く。


 「サリエル、貴方は勲章を五つ殿下から賜りました。段位は授けます。しかし、プリシアの事は本人に聞いてみないとわかりませんので少し待って頂けますか?」


 テレシアはアレクサンドラに変わり言葉を選びながらサリエルに語り掛けると、サリエルから殺気が漏れ出し、アレクサンドラが吠えた。


 「サリエル貴様誰に殺気を向けておる!」


 アレクサンドラの叫びにサリエルは殺気をおさめると「失礼しました」と頭を下げた。


 「ふんっ、気分が悪い、テレシアよ行くぞ!」


 怒りを露にアレクサンドラはテレシアの手を取って王の間から出て行った。


 アレクサンドラとテレシアがいなくなった豪華な椅子を見ながらサリエルは再び殺気を放ったのであった。



◇◇◇


 サリエルへの勲章授与式が終わり、ドミニクは王城内にある自室に帰ってきていた。


 机に腰かけたドミニクはアレクサンドラへのサリエルの態度にヒヤヒヤしていた。

 しかし、怒って出て行ったアレクサンドラがサリエルに対して何もせずに出て行った事には安堵していた。


 「全くあやつは……」


 ドミニクが呟くとドアをノックする音が聞こえドミニクが返事をする前にドアが開き、サリエルが入ってくる。


 「サリエル、私が返事をしてから入ってきなさい」


 「ノックはしましたよ」


 「私は宰相で体面があるといつも言って──」

 

 話の途中でサリエルは「はいはい」とやる気の無い返事をしてドミニクの話を切り、サリエルが話を振った。

 

 「そんな事よりドミニク、あの計画は今夜だよね?」


 「そうだ、今夜決行する」


 「その言葉を聞いて安心したよドミニク。さすがにあの #愚王__・・__#の事は我慢できないからね」


 サリエルの瞳は真っ直ぐにドミニクを捕らえている。


 「サリエル、本当にお主はプリシア王女以外は興味が無いのだな?」


 「ええ、その為だけに貴方に手を貸すのだから」


 ドミニクは長い間アレクサンドラに仕えて宰相にまで登り詰めアレクサンドラからの信頼は厚い。

 それもこれも全てはドレイク王国の王になる為だった。

 宰相の権力を使い、長い年月をかけて根回しをしてやっと計画を実行できる算段がたち、今夜決行する事にしたのだ。


 ひょんな事で計画を知ったサリエルがドミニクに声を掛け手を結んだのが一年前。


 計画が完遂した後は報酬としてプリシアが欲しいと言ったサリエルにドミニクは最終確認として聞いたのだった。


 「それではサリエルよ、私は今夜の為に忙しい、そろそろお主も準備せよ」


 「了解、今夜が楽しみだ」


 サリエルそう言葉を残し部屋を出て行った。


 「本当によくわからんヤツだ」


 呟くとドミニクもサリエルの後を追うように部屋から出て行ったのだった。

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