第7話 王の間を出た二人




 王の間を出た二人の元に外で待機していたメイドのリーニャとリンが近づいてくる。


 「レイク様、おかえりなさいませ」


 「プリシア様、おかえりなさいませ」


 リーニャとリンは仕える主にそれぞれに声を掛ける。


 「リーニャ、ただいま」


 「リン、ただいま」


 レイクとプリシアも仕えるメイド達にそれぞれ返した。


 リーニャは敬愛するレイクの腰に下げる刀に直ぐに気が付いた。


 「レイク様、腰に下げられた物はもしかして」


 嬉しそうに笑みを浮かべたレイクは首を縦に振った。


 レイクが昔『こんな剣が欲しい』と自分で描いた絵を見せ、一緒に探し刀を回っていたリーニャは「良かったですね」と言ってレイク同様嬉しそうに微笑み返した。


 そんな二人を見ていたプリシアはレイクに話しかける。


 「お兄様、その剣は・・ですよね?」


 「えっ?プリシアは・・を知ってるのかい?」


 レイクは王都内の武器屋を巡ったり、著書を調べたりしてこの世界に刀が無い事を知っていたためプリシアが刀を知ってる事に驚きの表情を浮かべる。


 「えぇ、まぁ……」


 と答えたプリシアはレイクに深くつっこまれたらどうしょうと焦り握った手が汗ばんでいた。


 「そっか……」


 何かを考える素振りをするレイクを見てプリシアは冷や汗が涌き出てくる。


 (これはまずいわ、お兄様は私に何を質問するか考えてる、どうしょう……)


 プリシアは大好きなレイクの癖を知り尽くしている。


 こうやって思考を巡らせた後はプリシアでもレイクの追求を逃れる事はできない。

 焦るプリシアをやれやれとした表情で見ていたリンが助け船を出した。


 「レイク様は剣を頂いたみたいですが、プリシア様は何を頂いたんですか?」


 リンの声が聞こえた瞬間にプリシアは振り返り、手に持つ木箱の中身を見せる為にリンに近づく。


 「私はこれよ」


 「良かったですねプリシア様」


 プリシアが手に持っている木箱の中身を確認するとリンはそう言って笑顔を見せた。


 「リンありがとうね」


 「いえいえお気になさらず」


 二人はレイクに聞こえないようにヒソヒソと言葉を交わすと、さっさとここから逃げ出したいプリシアはこのタイミングでレイクを見つめた。


 そして、「それでは私はこれで」と言って優雅にお辞儀をすると自分の部屋へと向かった。


 「えっ、ち、ちょっと待って!」


 と後からレイクの声が聞こえたがプリシアは聞こえない振りをした。



◇◇◇


 プリシアは部屋の前までくると、もう一度リンにお礼を言って一人部屋に入ると机の椅子を引き、座り息を吐いた。


 「ふぅ、本当にリンには感謝だわ」


 呟いたプリシアはまだ自分の前世の記憶の事を誰かに話す気はなかった。

 でも、レイクが受け取った刀を見た瞬間に胸が高鳴り、我慢できずレイクに話かけてしまったのである。


 それには理由があった。


 一度レイクの剣の稽古を見た時、レイクの使う剣術は記憶の中にある氏家の剣術と瓜二つだった。

 そして今回、刀を渡されたのを見てレイクには秘密があると確信した事で自分を抑えきれなくなったのだ。


 「記憶の事については今度お兄様とじっくり話し合わないといけないですね……まずは折角頂いたのだから」


 そう言ってプリシアはテレシアから貰った黒龍の皮を机の上に置くと術式を黒龍の皮に刻み始めた。


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