第3話 試練



 スキル──それは個人特有の能力


 この世界では十三になると、スキル獲得の為の試練を受ける事が出来る。


 試練は長い人生で一人一度しか受ける事ができず、十三になる者達は同じ日にまとめて受ける。


 そしてこの日を逃すと二度と受ける事は出来ない。


 理由は三つ、

 

 試練は年一回の神月と呼ばれる淡紫色の月が浮かぶ日に行う。

 例え違う日に試練を受けたとしてもスキルを発生させる事は無い。

 十四になるとスキルを発生しなくなる。


 その為、試練を受ける権利を失う事で二度と受けられなくなるのだ。


 試練を受けなければスキルは発生しない。そして、獲得出来るスキルは時の運となる。


 いいスキルを獲得できれば将来への道が広がるとあって、ほぼ全員が十三になると試練を受ける。


 スキルは上級から中級、下級とランクがあり、下がっていくと凡庸性も出てきてしまう。


 上級と中級は強力なスキルが多く、就職や将来への希望が持てるが、下級になると『1回黙る』や『素早い手』とよくわからないスキルも出てくるので試練を受ける者達は期待と不安に胸を膨らませていく。


 試練は風の吹き荒れる真っ暗な洞窟をひたすら進み、最奥にある水晶を触り、戻ってくるだけのシンプルなものだ。


 戻ってくると勝手に発生したスキルの使い方が頭に浮かんでくるので、自分がどんなスキルを発生させたかすぐに分かるようになっている。



 そんな試練を受ける為、レイクは列に並び順番を待っていた。


 「レイク様、緊張されてますよ」


 「それはそうだよリーニャ、何のスキルが発生するかわからないからね」


 「レイク様は『縮地』がほしいのですよね?」


 「むしろ、『縮地』以外はいらないかな?」


 中級スキル『縮地』は半径十メールを高速で移動出来る。


 剣の道を志す者に必須のスキルで、このスキルがあるのと無いので雲泥の差が出てきてしまう。


 氏家の記憶にある剣術を再現したいレイクとしてはどうしても欲しいスキルなのだ。


 「『縮地』、発生するといいですね」


 リーニャが笑顔を見せるといよいよレイクに順番が回ってきた。


 洞窟の入り口に立つ兵に名前を言ってレイクは中へ入って行った。


 「思ったよりキツイぞ」


 風速二十五メートル程の向かい風を進むレイクは、試練について聞いていた話よりも強い風に思わず声が出てしまう。


 それでも失敗した者これまでいない程度の試練なのでレイクは順調に奥へ足を進めて行く。


 「やっと着いた」


 レイクは呟き、水晶に触れると回れ右して出口を目指し再び進む。


 帰りは風に煽られてどんどん進んで行き、あっという間に外に出たレイクにリーニャが近づいてくる。


 「レイク様、どうですか?お目当ての『縮地』ですか?」


 「……」


 下を向き、体を震わすレイクにリーニャは全てを察して悲しそうな表情になった。


 しかし、二人の間にできた少しの沈黙の後、レイクが突然叫ぶ。


 「やった!やったぞ!縮地だーー!!」


 その瞬間リーニャは、ぱぁと満面の笑みを浮かべレイクの手を握った。


 「おめでとうございます、レイク様ー!」


 「ありがとう、リーニャ!」


 二人は手を握り合い喜びを分かち合った。

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