第2話 転機 その1

 その子の名前は和泉という子だった。和泉は和泉と呼ばれることを嫌っていた。最初は僕もあだ名で呼んでくれと言われ呼んでいたが、そのうち名前で呼びたくなり和泉と呼び始めた。最初は恥ずかしいからやめてくれ、といっていたがそのうち馴れてきたのかその呼び方が僕らの中では普通になっていた。ある程度仲も深まった頃、彼女に好きな人がいることを知った。少し悲しくなったが、彼女ほどのきれいな人間と僕みたいな黒い人間ではあまりに釣り合いがとれてなさ過ぎてすぐにあきらめることができた。彼女が好きになったのは同じ部活の理央が好きだったらしい。理央は抜けていることはあるが真面目な性格で、彼も誰に対しても同じ対応が得意な子だった。僕は早々に彼女のことを諦めて別の子と付き合おうと考えていた。先輩という年上の存在と初めて深く関わった僕は経験の多さと雰囲気のかっこよさから先輩のことを好きになっていたが、年上で来年からいなくなるから、と先輩に軽くあしらわれしまいこれも諦めた。そして同級生で一番僕に性格が似ている子がいた。彼女は華という。華は和泉と違い、嫌いな人は関わりたくないし自分の都合で生きていて自分自身のことをいい性格だとは思っていないとはっきり言っていた。もちろん華とは話がよくあった。性格が似ているからだからだろうか。話すことは無限と出てきて、いつしか僕は華が好きになっていた。

 入学から2ヶ月が過ぎた6月あたりに、華に好きな人はいるか聞いてみた。「いないよ」とそう言われ、素直に今好きであることを軽く伝えた。が、彼女は彼氏を作るつもりはないときっぱりと言っていた。でもそんな彼女を本気で落として付き合いたいと思った。体も華奢で身長も小柄な彼女は本当に愛おしくかわいいと思えた。

 そんな時に全く関係のない夢を見た。それは自分の部屋で知らない女とセックスをしている夢だった。当時の僕はセックスなんてしたことがなかったし、第一あんなに体がきれいな色白の女性にあったことさえなかった。ただ、今でも鮮明に覚えている。電気を消しているのか、それとも夜なのかはわからないが暗い部屋の中布団の上にその女はまたがり、せっせと動いていた。声は一言も聞こえなかったが、ただ肉体と風景は鮮明に覚えている。そんな夢の中、目が覚めた。もちろんそんなことが現実で起きているわけがなくただの妄想か性欲がたまっているのだなと思ったが、ただこう思った。予知夢なのではないのかと。いかにも童貞らしい思考とばかばかしい解釈だが、ただそう思った。

 その日から彼女は誰だったのかをずっと探していた。華は華奢ではあるが、胸があまりにも違いすぎるのであり得ないと思った。そう思うと華への恋愛感情が薄れているような気がして、自分自身のその思いに反して華との関係を保っていた。

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