第三章:連禱実験

 1


 目を覚ますと、正面に真っ白い人間が座っているのが見えました。わざわざ持ち込んだのか、背もたれ付きの木製スツールに腰掛けて、目を閉じて俯いた格好で静止しています。ツルツルの裸はプラスチック製のマネキン人形のようでしたが、不釣り合いに精巧に造り上げられた陶器のような頭と、首筋に接続されている黒いコードの束が彼、あるいは彼女を確かなアンドロイドであると認識させました。

「まるで聖槍ですね」

 汎用的な家事用モデルでしょうか。簡易的に省略されたボディでは、ある程度の手伝いをこなすのが精一杯で、とてもルーシーのようにゆりかごから墓場まで、日常的な介助から手術の代行までとはいかないでしょう。電源が入っているのかいないのか、しばらく経っても微動だにせず、ただその滑らかな鏡面上の肌に照明の柔らかな光を反射するのみでした。唯一何かありそうだと思えるのは頭部に被せられた無骨なヘッドギアで、そこから伸びるコードだけはこちらへとやって来て、ビル群のような機械の山と渦巻くスパゲティの海へと潜り込んでいっていました。

「おはようございますルーシー、こちらはどちら様でしょうか」

 声を掛けた事で、ルーシーは初めてわたしが目を覚ました事に気が付いたようでした。さながら、ああ、起きていたんですか。といった風です。兎に角、彼女が何らかの作業に集中していた事が察知されました。

「彼女ですか?丁度、目覚められたタイミングで説明しようと考えていました」

 ルーシーがそう言うと、人形の頭がひとりでに持ち上がり、前傾姿勢の為に隠れていた女性型のボディが見て取れるようになりました。目は閉じられたままでしたが、口元に張り付けられたアルカイックスマイルがやや不気味な印象を与えています。

「先生の手に因ってこちらに運び込まれました、旧い型式のアンドロイドです。彼女を運ばれると、先生は伝言を残されました」

「なんでしょうか」

「非常に重要な実験の一環として、彼女の核を見つけ出し不可逆的なレベルに至るまで変化を加えて欲しいとの事です。それを可能にする為、彼女も我々と同一の共感覚的プログラムを摂取させる作業を行っていました」

「なるほど」

 わたしはもう一度、目の前の物言わぬ人形をじっくりと観察してみます。つまり彼女は既にその役目を終え、今処分のされ方が決まったという事でしょうか。過剰な程に簡素に感じる作りのボディも、あるいは抵抗を許さない為に文字通り首を挿げ替えたのかもしれません。異物であるヘッドギアを被せられたまま、小首を傾げて静止する姿はパーマを待つ優雅な婦人のようでもありましたが彼女に髪は無く、今や巨人の腕にその頭をもぎ取られる寸前のようにしか見えませんでした。

 あるいは、止めを刺すのはわたしでした。そして、その方法についてもわたしは本能的によく知っていました。

「HALOを起動、チャンネルを2番に設定。彼女も連れて行きますよ」

 ブーーンと音がして、HALOが駆動し始めます。志向性が調整されて、色相変換モニターが2番一色に塗り潰されて、頭上で光が溢れ始めた頃、ルーシーのアナウンスが響きます。

「接続を開始します。目を閉じて、抵抗せず流れに身を委ねて下さい。」

 わたしは胸の前で手を組んで、目を瞑ります。張り付いたアルカイックスマイルが、まだ微笑んでいます。

「祈りましょう、成功を願って」


 2


 チャンネル2は、どこまでも続くなだらかな丘と、その間を縫うように流れる清流で構成されています。大地は転がる岩、ふさふさと緑鮮やかな地衣類に覆われて、空気は冷ややかな心地よさで満たされていました。唯一、流れる水の色だけが血のように鮮烈な赤色していましたが、そこを除けば、殆ど現実のアイスランドと違わない景色と言えたでしょう。

 接続が完了して目を開けると、少し先の正面の丘のふもと、丁度平地になっているスペースに、これまで存在していなかった白いプラスチック製の机と椅子のセットが一式置かれているのが目に入りました。

 気配を感じて振り返れば、後ろにルーシーが立っています。今日は、キトンを着て月桂冠を被った古代ギリシアスタイルのようです。

「ルーシー、あれはあなたが置いたものですか?」

「いえ、違います。彼女が流れ込んだのでしょう」

 ルーシーが指をさす方を見れば、一瞬前まで誰も座っていなかった椅子に部屋に居たアンドロイドが行儀良く座っています。恐らくは、共感覚的プログラムを摂取した事により彼女の存在がわたしたちと近づいた事で、マインドパレスも彼女の影響を受けるまでになったのでしょう。

「なるほど、では行きましょう」

 車椅子に揺られながら——気が付けば、いつの間に着替えたのでしょう、普段の患者衣ではなくわたしもルーシーと同じキトンを着用しています。とうとうわたし達の相違点は何を戴いているかだけになってしまって、これでは彼女も困惑してしまうかもしれません。

「そういえば、彼女は何という名前なのでしょうか」

「先生からは聞いていません……直接訊いてみては如何でしょうか」

「そうします」

 そうして、段々と彼女に近づいてゆくにつれて、その細かなディティールが見て取れるようになってきました。華奢なプラスチックの椅子にピンと背筋をまっすぐに伸ばして両手を膝の上に乗せて座り、こちらに気付いてもいないのか、彫像のように微動だにせずピクリとも動いていません。相も変わらず何も読み取れないアルカイックスマイルをその口元に張り付かせてはいましたが、部屋では閉じられていた筈の量の瞼が開かれて、今はそのガラス玉のように透き通った瞳がどこか遠くを見つめた格好で覗いていました。

「もし、そこのお人形さん」

 声を掛けると、首から上だけがゆっくりと回転してこちらを向きました。

「私の事ですか」

 形式的に首を傾げながら発せられた彼女の声には、様々な疑問が言外に同時に渦巻いて存在していました。

「ええ、そうです。ごきげんよう、先に自己紹介をさせて貰えますか?」

「はい、構いません」

「初めまして、わたしは白痴の女王、記憶の拝命者、忘却のはしため、ミュノス=リリウムと申します。リリーと呼んで下さい」

 そして、こちらは、とルーシーを指して続けます。

「後ろの月桂冠を被ったこちらはルーシー・ルーシー・イヴです。ルーシーと呼んで下さい。あなたと同様にアンドロイドですが、型式は離れているかもしれません。是非、あなたのお名前も聞かせて下さい」

「私の名前はメリー……メリー・シープです。ここがどこか知りませんか?記憶領域と思考回路に未知の異常を確認しています」

 メリーが異常を口にした時、一瞬、彼女の眼球がぴくぴくと痙攣するのが見えました。

「よい問いですね。ここはわたしのマインドパレス——つまり、極私的な領域で、名前をチャンネル2と言います。条件付けされた共感覚を用いた本能的連想の集合体として作られた深層意識の領域で、本来であれば他人、ましてやアンドロイドなぞが入って来られるような場所ではあり得ないのですが——メリー、あなたに共感覚的プログラムを施す事でわたし達は同じ条件付け、同じ共感覚を一時的に有するようになりました。その為にあなたは今、半ば集団幻覚のような、暗示に掛かったような状態にあります」

 説明をしてみても、メリーは静止状態のままで、まだ問題を把握しきれていないようでした。

「すぐに体感出来る証拠を示しましょう。メリー、“2”という数字を思い浮かべてみてください」

「はい、“2”を思い浮かべました」

「では、それは何色ですか?」

 わたしがそう尋ねると、メリーは最初、質問の意味が理解出来ないとでも言うようにまた首を傾げてみせました。しかし次の瞬間、信じられない事が起こったかのようにわたしの目を見つめると、恐る恐る口を開きました。彼女の瞳は、またぴくぴくと痙攣していました。

「どうして?赤、赤色です。“2”は絶対に赤色です。ビ、何かがおかしいです、この命題は成立しません」

 視界をチェックしようとしているのでしょうか、メリーが瞬きをする度に、彼女の座る椅子の脚が大地に突き刺さった箇所から有色透明、真っ赤な色をした流れが湧水のように染み出して湧いてきます。

「このプログラムでは、まず色と数字の絶対的な結び付きを条件付け、それから幾つかの設定された概念を各々それらの共感覚的な意味を付与された数字に結び付けます。この場所——空間は、適合する共感覚の保持を鍵として入る事の出来る明晰夢とでも解釈して下さい。明晰夢が理解不能であればあるいは、独立して切り離されたバックグラウンドでの思考回路の処理程度の言い換えでも構いません」

 メリーのような単純なアンドロイドがどのような形で夢を見るのか、そもそも夢など見ないのか。しかしこの夢の例えは彼女にはうまく当て嵌まったようでした。

「夢?私は不条理の夢を見ているんですね」

 メリーが何処まで納得したかは分かりませんでしたが、彼女は殆ど落ち着きを取り戻して、またあのアルカイックスマイルを貼り付けた彫像のような顔に戻りました。

「メリー、本題を話しましょう。あなたには協力して貰いたい事があります。とても簡単な事です、構いませんか?」

「ぜひ!リリーのお手伝いが出来て嬉しいです」

 メリーはお手伝いアンドロイドのお手本のような返事をしてみせてくれました。

「ありがとうございます。それでは姿勢を正してそのまま椅子に座っていて下さい、本当に簡単ですからリラックスして下さいね」

 わたしはルーシーにその場に居るように伝えると、車椅子から立ち上がり——脚が無くとも立ち上がり歩き回る程度、容易い事でした——メリーの座っている椅子の真後ろに立ちました。

「ではメリー、今からわたしが幾つか言葉を発します。あなたはそれを可能な限り間を開けずに、そのまま繰り返して下さい。但し、聞き取れなかったからともう一度繰り返すよう頼んだり、言い間違えたからと訂正したりしてはいけません、いいですね?それと、ルーシーは記録係ですから、気にしなくてよいでしょう」

 合図を送ると、ルーシーと空の車椅子はメリーの視界の外、延いてはわたしの後ろの方へと下がってゆきました。

「分かりました、リリーの言った言葉を繰り返せばいいんですね」

「そうです、初めても大丈夫ですか?」

「はい、いつでも」

 深呼吸。

「では——ルーシー、記録をお願いしますね——連禱実験を始めます。被験者メリー・シープ、実験者ミュノス=リリウム」

 天使の輪が一際強く輝いて、彼女の後頭部に反射します。カウント1。

「頭」

「頭」

「緑の目、3、幸福」

「緑の目、3、幸福」

「水、歌う窓、習慣、6、軽蔑」

「水、歌う窓、習慣、6、軽蔑」

「自尊心、8、インク、針、5、青い腕、罪を犯す」

「自尊心、8、インク、針、5、青い腕……罪を犯す」

「黄色の脳髄、祈り、99、カエル、白い排尿器官の切除する血液の温度、鉛筆」

「黄色の頭、祈り、神様、カエル、白い……白い手術痕の血の温度、鉛筆。すみません、間違えたかもしれません」

「巨躯、456、紫の花、野生の家族を洗う牝牛、コウノトリ、口付けする花嫁の性器に詰める干し草の嘲りと眠りの純粋なドア」

「巨人の腕、虹色の痛み、死……消える人間を掃除する牝牛、シラサギ。ええ、聞き直しはナシですね……酷い扉が花嫁を食い殺してブタの餌にしたと思います。ごめんなさいリリー……簡単な筈なのに。後ろを向いても?」

「泡立つバターを注文する貴族の腕の焼け焦げたトースターから飛び出した食パンの皮、無毛の人間の子宮から飛び出したサルの発するアルペジオを流すラジオ局の電波の波形の緑と青の連なりを描かれた古代の壺、3535、ウサギの脚、トートロジーを指摘されると崩壊する多次元を貫く意味の形、71829、存在の消失する神を繋ぎ止めて駆動する天球儀の同心円状に配置されない厄災を齎す彗星の軌道の上を滑るダンスホールに設置されたグランドピアノの黒鍵のみで構成された鍵盤に潜む集合体生命の千の目があなたを監視する」

「リリー、眩暈がします。嫌です」

「一時を告げる鐘の四度なる、砂漠と達磨の秘密のお祭りの棚、ハイテク、オイル漏れ、街がラマの輝き、999、手に持っているならば遠野の虎は美しき馬の木製の椅子、セクションはいくつありますか?首都の先祖と樽が先祖の銀杏に引き渡される前の過ちの違い、5679、あなたはコーヒーを飲みながら雪を眺めて冬眠する黄金比のモノリスのように疲れて静けさに閉じ込められている、時間を取る時間の許された暗闇と光のサイクルを通して書かれた手紙の裏側に張り付いた紙魚の更新が作り出すパターンに因る未解読暗号、60、静けさが3を落ち着かせる暖かい日を参照する心臓の鼓動の送り出すコーヒーの色の数字、ろくでなしがあなたを挽くのを許しなさい、瀟洒に決めた憂鬱な禱りの茫漠たる意識に吸われた法悦に浸るあなたを縊る忘失の顕現の絶頂、9999、沸騰する熱湯に沈められた幼児への祝福を行う主体の無い老人の脳髄を操る天からの糸の束に鋏を入れる運命の三女神の織るタペストリーに描かれた英雄が掲げる首は誰と尋ねる彫像の石化した心臓を溶かす黄金の輝きのスペクトル解析画像を奏でるサヴァンのヴァイオリンに張られた弦の人間の腸に注がれた緑の不凍液に浸された肋骨の折られた断面と相似の銀河系が廻る軌跡をあなたの二つの瞳は追い掛ける。9、星辰の回帰、重力の抱擁、1、色の無い光の輪の向こう側からあなたに触れる。0」

「…………」

「連禱実験を終わります——。メリー、わたしは今あなたの両肩に手を置きました。分かりますか」

「……………………」

「あの丘を越えた場所に、ひとつ、間欠泉が存在しています。そこに身を沈めれば、あなたの夢は終わりです。行ってみませんか?」

「………………………………」

「そうですか。大丈夫ですよ、ひとつ車椅子が空いていますから」

 三度、手を叩けば、メリーの座っていた白いプラスチック製の椅子は、わたしが乗って来ていた車椅子へと瞬きの内に切り替わりました。わたしは持ち手を握ると、露出している黒い岩を避けて、丘の向こうへメリーと共に歩き出します。

「ルーシーも付いてきて下さいね」

 吹き荒ぶ風がキトンを膨らませて、バサバサとはためかせます。本来ならば脚の存在するであろう虚空に布地を巻き付かせながら、わたし達はじりじりと頂上に登り詰めてゆきました。

「メリー、あれが間欠泉です。綺麗な場所だとは思いませんか?」

 頂上からは、地平が良く見渡せました。薄く線のように続く道の先に赤い噴水がごぼごぼと泡立ち、そこから流れる幾本かの赤い線が血管のように脈打っています。連綿と繋がるパッチワークのような大地は、先の見通せない濃い霧の向こうへと続いていました。

「行きましょう」

 丘を下り、間欠泉に近づくにつれて、湿った温かい風が肌に纏わりついて来ます。轟音と共に突発的に熱湯を噴出する間欠泉は、さながら大地の呼吸でした。

「メリー、知っていますか。この間欠泉は地底の奥底でチャンネル8の大釜と繋がっているんです。綺麗な場所ですが、メリーに見せられないのが残念です。さあ!着きましたよ」

 メリーと共に間欠泉の淵に立つと、そこはもう濃霧の中に居るようで、周りは殆ど見えなくなりました。噴出が始まればわたし達はたちまちに吹き飛ばされてしまったでしょうが、泉はわたしの呼吸に合わせてごぼごぼと音を立てるのみで落ち着いていました。

「ではルーシー、わたしたちは先にゆきます。わたし達の誘導が終わり次第あなたも戻ってきてくださいね」

 そうして、わたしは沸き立つ熱湯の深い穴の中へ臆する事無く歩みを進めました。


 3


「目を開けて」

 ブーーン——

 ルーシーの声に導かれて部屋に戻ってくれば、丁度、先生が訪ねて来ている所でした。わたしはメリーがきちんと戻って来られているかが気掛かりでしたが、先生は背を向けて丁度わたしとメリーの間に立ってしまっていた為に、すぐさま確認する事は叶いませんでした。

「おはようございます、先生」

 パチパチ

 まだ、HALOの残滓がこそばゆい音を鳴らしています。

「戻ったのか」

 その時初めて、先生が歩行補助機を両の脚に取り付けている事に気が付きました。一体いつからそうだったのか、わたしは思い出そうとしてみましたが、全ての記憶は時系列というものがまるで滅茶苦茶で、最初から機械に頼っていたようにも、今初めて確認した事のようにも思えました。

「こいつに何をした?」

 先生が身体を退けると、見るも無残なメリーの姿が露わになりました。マネキン人形の身体はまだ行儀良く座っていようと努力していたようでしたが、頭部パーツの方は耳の穴や終ぞ崩れる事無く終わったアルカイックスマイルから真っ白い液体がどろりと溢れていて、グロテスクな様相を呈していました。あの白い液体が、彼女の脳に相当する部分だったのでしょう、吐血したかのように溢れた脳液はボディや床を汚して、足元には応急処置的にタオルが宛がわれていました。

「ルーシー、彼女の目を開いてみてくれませんか」

「かしこまりました」

 細い、作業用マニュピレータが一本伸びて、メリーの片方の瞼を持ち上げました。

「凄いですね」

 メリーの水晶玉のような眼球は、その眼窩から飛び出さんばかりにびくびくと震え、暴れていました。

「気味が悪いな」

「ルーシー、もういいですよ」

「もう一度聞くが……何をした?」

「わたしはただ、彼女と重なって——彼女の扉を全て開けて——裸の彼女に触れただけです。口頭での説明は不可能です、常に道は示されていました。実験中、わたしは正に——全知でした」

 モニターは渦巻いて、煙で作られたアダムとの邂逅を映し出します。その後ろでいつの間に用意されたのか、ルーシーはメリーの死体を台車に移す作業を黙々と始めました。

「駄目だ、意味が分からないな、ルーシー、翻訳を」

 先生に言われると、ルーシーはわたしからは四角になっているモニターの内の一つに何かを表示して、見せたようでした。

「なるほど、詳しくはログを見て確認しよう。何かあれば連絡を」

 そうして、先生は台車をガラガラと押して去ってゆき、後には床に飛び散った彼女の残滓を掃除する正方形のロボット掃除機が駆動する小さな音だけが残りました。

 メリーはもうどこにも居ませんでしたが、わたしはそれを最初から知っていました。

「ルーシー、一つ質問をしても?」

「もちろんです」

「先生は何故歩行補助機を付けているのですか」

 ルーシーはしばらく何か考えるような間を開けた後、言いました。

「アルパカの首」

 瞬間、幾つかのトリガーが引かれ、わたしは幾つかの記憶を思い出す事になりました。先生の異常に細くなった脚、繰り返される筋肉移植手術。恐らくは何度も繰り返した問答だったのでしょう、デジャヴに塗れた疑問の答えが、そこにはありました。

「わたしのドナーについて忘れるなんて……」

「お気になさらず、少しずつ違う繰り返される記憶は一つに繋がってしまって、整合性が担保出来なくなっていきますから」

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