第9話 本性

ある日の放課後帰ろうとした、その時だった。



「あっ!音葉先輩♪」



名前を呼ばれ私の腕に抱き付く人影。


私の腕には後輩の彼女の姿があった。




「何?」


「ちょっと付き合ってくれませんか?」


「えっ?ごめん…私…用事があって…」


「えっ?もしかしてデートですか?」


「デート!?いや…違うけど…」


「またまた〜、先輩可愛いから彼氏いるんじゃないんですか?」


「いや、本当に違うし。いないから」


「じゃあ今日は辞めておきます♪その代わり、明日、昼休みに必ず屋上に来て下さい」


「屋上!?」


「はい♪」


「それは…良いけど…」


「ありがとうございます♪それじゃ明日昼休みに屋上で待ってますね♪」




そう言うと彼女は私の前から去った。






〜 八吹 有 side 〜




偶然に遭遇した


アイツと彼女の会話


俺達は全く話もせず


別行動しているのにも関わらず



何故


彼女はアイツを


呼び出す必要があるのだろうか?


疑問に思った





「屋上…えっ!?ちょっと待って!どうして私、呼び出されなきゃならないわけっ!?私、有と一切話もしてないんだけどっ!?」




私は、ブツブツと苛立ちながらも帰る事にした。




次の日。


「じゃあ、砂夜香、ちょっと行って来るね」

「音葉っ!待って!行かない方が良いよ!」

「大丈夫だよ!行かなきゃ、また。呼び出されるから」



私を心配する砂夜香に、そう言うと私は教室を後に屋上へと向かう。



「綿辺、俺達もこっそり行くから音葉を必ず無事に連れて帰るから」


「うん…」


「任せとけ!」


「うん…分かった…お願い…」




俺と土家は、音葉の後を追うように屋上へと向かうのだった。




私が屋上に行くと既に彼女は来ていた。




「来て下さったんですね」


「約束だから。だけど、あなたに呼び出される理由が分からないんだけど?」


「良いじゃないですかぁ〜。仲良くしましょう?音葉先・輩♪」



「………………」



「それで?呼び出した理由は?用件は何?」


「…ねぇ先輩。私、本当に先輩が羨ましかったんだぁ〜。みんなから好かれてて、中学校の男子生徒、ほとんどが先輩を好きだった」



「………………」



「私が好きになった人に告白しても、み〜んな口を揃えて、好きな人いるからって…み〜んな好きだったんですよ〜」


「それで他に何があるの?第一、私、有とは一切、話をしてないし近づいてもいないんだけど!?」


「…先輩さえいなければ…有先輩も私の事、好きになってくれてた!」


「えっ…?」


「中学の時、……一層の事…傷付いてしまえば良かったのに…」


「えっ…!?…どういう…事…?」





次の瞬間――――




ガシッと両腕を背後から掴まれた。




ビクッ


私は驚くのと同時に肩が強張った。




「きゃあっ!」



あの時の記憶がフラッシュバックし、恐怖で、そしれ以上の言葉が出なかった。




「あれ〜?どうしちゃったんですかぁ〜?」



「………………」



「ねぇ…先輩。中学の時、男の人に関する噂が流れたじゃないですかぁ〜。先輩、そういう人じゃないって分かってたんですけどぉ〜、男ってすぐに騙されちゃって……」


「……何を……言い…たいの……?」


「あの噂……流したの誰か知ってますぅ〜?」


「…そんなの…知るわけ……。大体…噂が流れていた事さえも知らなかったんだから!…好きな人に…言われる迄は…」


「クスクス…その後、男子生徒に襲われちゃったんですよねぇ〜。あの事件、結局、未遂に終わっちゃってぇ〜……ざ〜んねん」



「…………………」



「…私…当時、先輩が付き合っていた彼氏にフラレちゃったんだぁ〜」


「…えっ…?」


「別れ告げられたのっ!」


「優月 音葉が好きなんだって言われたのっ!だーかーら!私がありもしない嘘の噂を流してやったんだよっ!」




ゾクッとした。


甘えるような言い方で女の子みたいな雰囲気をした容姿と、話していく姿を私に見せていたものの豹変した事に驚いた。


そして、私に近付くと前髪を掴む。




「あのまま傷付いてしまえば良かったんだよ!」



そう言うと掴んでいた前髪を離す。




「そうすれば、有先輩も振り向いてくれてたのに!」



「………………」



「今度こそ本当に傷付いてしまいなよ!あんた達彼女を好きにしちゃいなっ!」



私は押さえつけられる中、制服が荒々しく脱がされる中、彼女は私の前から去り始める。



「や、辞め…離してっ!ちょっとっ!宗上 梨砂っ!あんたに聞きたい事があるから答えてっ!」


「何よっ!」



彼女は振り返る。



「あんたは、有の事、マジなんだよねっ!?」


「そんなの当たり前でしょっ!?」


「だったら!有を絶対に裏切らないでっ!アイツを…有を傷付けるのは辞めてっ!私はどうなっても良いから有だけを見てあげてっ!」



「………………」



「それが出来ないなら有と別れてっ!」

「あんたに言われなくったって私は…」


「…有は…私以上に色々あったの!だから有の悲しむ姿を見たくないの!だから、これ以上有を傷付けないであげてっ!」


「何よ…さっきから…有先輩の事、何でも知ってるような言い方…マジムカつくっ!どきなっ!」




私に歩み寄り引っ張り起こすと頬を平手打ちされた。



「…っ…」




前髪を掴まれる。




「音葉先輩って本当、ムカつく!」



「別にムカつかれても構わないっ!だからってあんたに言われて有と話もしていない私が、あんたに呼び出される理由か分かんないよ!あんたがムカつくくらい憎むのは構わないけど、有を傷付けたらマジ許さないから!」



「うるさい!音葉先輩に言われなくても私は有先輩の事を傷付けないからっ!」



再び手が上がり打たれると思い私は目を閉じ顔をそらす。


しかし衝撃が来ない。




《あれ…?》



「辞めとけよ!」


「もう、良いんじゃないかな?」




二人の男子生徒の声が聞こえた。


私が顔をあげゆっくりと目を開けると同時に




「…有…先輩…」



ドキン


名前に胸が大きく跳ねる。



私が打たれるはずだった手は、同じクラスの土家君によって止められていた。


その様子を見ている中、パサッと私に制服の上着を羽織らせたかと思うと頭をポンとされた。



ドキン



《…有…》


「女って…こえーなー…」



彼女は後ずさりし私から離れる。


押さえ付けていた数人の男子生徒も離れた。


私は乱れた制服を整える。




「君は、八吹 有と付き合っていける自信ある?あんたの情報は色々入っているんだけどさ…勿論、コイツの耳にも既に入っているんだ。コイツ、今、すっげー、人間不信状態。挽回出来るのかな?宗上 梨砂さん」



「………………」



「梨砂ちゃんには…申し訳ないと思ったけど…俺、本当、アイツ、音葉が言うように…今迄良い恋愛マジでしてなくて…女って嫌いに近くて…」


「…先輩…」


「…梨砂ちゃんの想いに応えられないのは音葉は一切、関係ない!俺自信の問題だからズルズルだったんだ。友達として付き合っていける自信も正直怖いに近くて…裏切られるんじゃないかって…」


「じゃあ…どうして…?どうして音葉先輩とな仲良く出来るんですか!?女なのに…どうして!?」


「アイツの…音葉の心の傷を知っていたからだよ」




ドキン


有の一言に私の胸が高鳴る。




「…有…」


「先輩…」



「最初は怒られたけど、アイツは…彼氏が出来る前から既に小さい傷を負っていたんだ。でも…その後…好きな人と両想いになって幸せな時間を過ごせたけど…梨砂ちゃんが言った嘘の噂でアイツの心は更に傷付いたんだって…」



「………………」



「確かに、梨砂ちゃんの彼氏が別れを告げて、君の元を離れたかもしれないけど、梨砂ちゃんは俺の事を好きになる事が出来ている。だけど…アイツは…音葉は…恋をしたくても出来ないんだよ。嘘の噂が消えてなくならない限り彼女の誤解は解けないまま…」



「……………」



「現に前に学校帰り初対面だった俺に他校生の男子生徒が、音葉と一緒にいただけで、また男つくったの?そう言われて俺は一瞬、音葉を疑った瞬間があった」



「………………」




「お互いの心の傷を知ってるから仲良く出来ているんだと思う。喧嘩して、馬鹿しあって…恋愛感情とかそういうの抜きで本音でぶつけ合っているから。現段階では恋愛感情が生まれる、生まれないは正直分からないけど」



「………………」



彼女は私に歩み寄る。




「音葉先輩っ!」

「な、何?」

「私、まだ有先輩の事は諦めませんからっ!」




そう言うと彼女は男子生徒と屋上を後に去り始める中




「諦めないのは構わないけど、コソコソ会って音葉を傷付けるのだけは辞めて欲しいんだけど。それ守ってくれないか…?」


「そうだね。もし、そういう事したら俺が一言言って君の本性拡散させちゃうよ?」


「そんな事、いちいち言わなくても私の存在は、街で人気あるからっ!みんな、それを知っているし!」



彼女は私達の前から、去った。




「人気あるって…自分で言うから違う意味で凄くね?」

「そうだな」




屋上に、私達、3人だけが残る。



私はゆっくり、二人に歩み寄ると土家君側に行き、土家君にだけ聞こえるように



「ありがとう…」

「いいえ…」


「何が、いいえなんだよ」

「ありがとうだってさ」

「俺、聞いてねぇぞ!」

「だって二人は話さない約束でしょう?」



「いや…だとしても…それ…あり?」

「あり!」


「音葉っ!テメェー、待てっ!」



私は、つい笑みがこぼれ、屋上から走って逃げるように、そこから去った。



「明日から賑わうな」


「おいっ!音葉っ!」



私は足を止め制服を返す。



「どうも!」

「どうもって…もっと心…」

「…べーっ!」



音葉は俺が言い終える前にアカンベーをした。



「ムカつく!」



私は走り去った。







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