慟哭の槍
@turutokugorou
第1話
戦国時代の中国。
すなわち、群雄割拠の戦乱に生き残り、天下に覇を唱えるべく諸国がしのぎを削っていた。
これはそんな戦乱の時代のお話です。
壮年の武芸者が酒場で酔いつぶれていました。
この男姓を田(でん)、名を中(ちゅう)、字(あざな)を正史(せいし)といいます。
田中
「ああ、この国でも士官しそこなった。齢14にして山に籠り、20年かかって極めた我が三身流槍術(さんしんりゅうそうじゅつ)。どこの国の者も理解しようとはしない。
奴らは、『一人で100人殺す者より、1万の軍勢を操って10万の敵を殺す将を求めている』と言い放つが、人を一人殺せないやつに将軍が務まるものか!!。
畜生、路銀も底をついた。
他国へはもう回れない。
俺の編み出した三身流は、天下に陽の目を見ないまま消え失せるのか・・・・・。」
「そうだ、士官だけが道じゃない。
山賊になってやる。裏の世界で、俺の槍の強さを証明してやる!!。」
それから、田中は山賊に身を落とし次々を村を襲いました。
彼は他の山賊の様に、徒党を組むことはありませんでした。
自分の強さに絶対の自信を持つ彼に仲間は不要でした。
効果音SE 村の焼ける音 ”パチパチパチ”
田中
「ざまあみろ、誰も俺に傷ひとつ付けることが出来ない。
俺の槍の前に敵はいない。
しかしこの村も時化ているな、金目のものはおろか食い物さえろくに無い。
山賊稼業ってのはもう少し儲かるもんだと思っていたんだなあ。
戦争に亭主を取られて、重税を搾り取られたんじゃ仕方ないかもしれん。
まあいい、こうやって村を襲えば国は傾く。
俺を、俺の槍を馬鹿にした奴らもきっと後悔しているだろう。
フフ、フハハッハハッハ。」
林明(りんめい)
「そうやって笑っていられるのも今のうちだけだ。」
田中が声のする方を振り向くと、美しい女剣士が立っていた。
田中
「貴様、何者だ。」
林明
「林明、ただの賞金稼ぎだよ。」
田中
「この俺を狙っているのか。
だったらやめておけ、剣で槍に勝つには相手の3倍の技量がいる。
剣を使う貴様に、勝ち目はない。」
林明
「勝ち目が無いのはお前の方さ。
私はお前が村人を殺してゆくのをずっと見ていたんだ。
すでにお前の太刀筋は見切った。」
田中
「村人が死ぬのをずっと眺めていたのか。
冷徹な女だ、だが面白い。
相手をしてやる。」
田中「ダーーー!」
林明「でりゃぁーー!」
効果音SE カキン
一合目を切り結ぶと、田中の頬にうっすらと赤い筋が浮き上がった。
田中
「ペロッ
おお、久しく忘れていた戦いの味だ。
なかなか楽しませtれくれる。」
林明
「ほざけ、次で決めてやる。」
効果音SE カキン、グサッ、グサッ!!!
2合目、林明の剣は田中の左手を切り落とし、田中の槍は林明の首をとらえていました。
田中
「決して油断していたわけではなかった。
あの程度の剣が避けられなかったのは老いた証拠かもしれんな。」
その時、物陰から10歳にも満たない女の子が飛び出してきました。
そして林明の遺体にすがり付いて泣き出す。
林原(りんげん)
「母様、かあさま、かあさま、・・・・」
田中
「この子は、あの女の娘か。
母に似て、可愛い顔をしている。」
子供は涙を手で拭うと林明の剣を持ち田中に向かって構えた。
林原
「くっ・・・。勝敗は兵家の常なれど、この母様の剣と技で仇を討ってくれる。
えいっ!!!!」
効果音SE チャリ
子供が剣で突きかかってくるが田中はあっさりと払いのける。
田中
「無駄だ。
たとえ片腕になったとはいえ、その程度の腕では俺の首は取れない。
だが俺に向かってくる胆力だけは認めてやる。」
田中は思った
(左手を無くした今、もはや武芸者としての俺は終わった。
俺の槍術を後世に伝える為に弟子を取らねばならんのだが・・・
ちょうどいい、この娘を弟子にしよう。)
田中
「名はなんという。」
林原
「林原、姓は林(りん)、名は原(げん)。」
田中
「どうしても仇を討ちたいか。」
林原
「はい。」
田中
「ならば機会をやる。」
林原
「えっ。?」
田中
「お前が母から学んだ剣術を捨てるなら、俺の弟子にしてやる。
そしてお前が十分に強くなった時、存分に仇を討つがいい。」
林原
「剣は・・・捨てられません。
私はかあさまの・・・・」
(田中は林原の言葉を遮るように言った。)
田中
「だが、もう母はいない。
その未熟な腕では仇を討つ願いは叶わないぞ。」
林原
「くっ・・・・・・。」
効果音SE チャリン(剣を捨てる音)
林原は田中に弟子入りすることにしました
林原
「えいっ、えいっ、えいっ」
効果音SE ビシッ
田中
「違う違う、槍をねじり込むようにして打ち込むのだ。
相手の内臓を食い破り一撃で決定的な痛手を負わせなければならん。」
林原
「はい。
・・・えいっ、えいっ、えいっ」
効果音SE ビシッ
田中
「駄目だ、穂先がふらついている。
手首を使って直線的に打ち込め、攻撃を一点に集中するんだ。」
林原
「はい。
・・・えいっ、えいっ、えいっ」
田中
「よし、上出来だ。よく頑張ったな。」
林原「はい。💛」
林原は槍術の厳しい稽古の他にも、食事の支度といった雑務もやらされていました。
林原
「あーあどうしちゃたんだろう、私。
あいつに褒められて嬉しくなってしまうなって。
あいつは、田中は母様の仇だというのに・・・。
なんだか仇討する気が萎えていくわ。
さて、今日のきのこスープの味はどうかしら。」
効果音SE ビシッ
林原
「痛い、何するのよ。」
田中
「この傘の青いキノコは毒キノコだ、食べたら死んでしまうぞ。」
林原
「えっ。!」
田中
「お前は俺の可愛い愛弟子なんだ。なにかあったら・・・
いや、これからは気を付けろよ。」
林原
「はい、師匠。」
田中
「初めてだな、師匠と呼んでくれたのは。
・・・・
そうだ、明日は川に行こう。
今の林原の槍なら川魚を突くことなど造作もないだろ。」
次の日二人は川に行きました。
効果音SE バシャ、バシャ(水音)
林原
「すごい、師匠の言った通り、魚が次々と取れる。
初めて槍を持った時には重くて十分に振れなかったのに、今は体の一部になったように自在に動かせる。」
田中
「大漁だな。フフ。
林原。
手首のスナップを自然に利かせられる様になってきている。動きに無駄が無い。
とてもいいぞ。
突きは免許皆伝だな、明日からは兜割の練習をしよう。
そのために今夜はたらふく腹ごしらえをしよう、昨日の分も含めてな。
ハハハハハ。」
林原
「もう、師匠その話は止めてくださいよ。
今日は、この魚を団子にしてつみれ汁にしましょう」
田中
「それは楽しみだ。」
林原
「ええ、本当に。」
その日の夕食
林原
「はい、師匠つみれ汁です。
腕によりをかけて作りましたよ。」
田中
「いい匂いだ。それじゃ一口、パク。
うっ、これは、体が痺れる。」
田中は慌てて食べたつみれ団子を確認すると団子の中心に刻んだ青い毒キノコが埋め込まれていました。
田中
「今更、理由を聞く必要もないな。
林原、みごと母親の仇を討ち果たしたな。
お前に殺される事になんら不満はない。
だが、せめて殺される時は、お前の、お前の槍で殺して欲しかった。」
林原
「嫌よ、母様を殺した槍術は封印するわ。
槍は2度と使いたくないの。」
田中「何!!!!」
林原
「ふふっ、三身流槍術はあなたの代で終わるのよ。
キノコのこと教えてくれてありがとう、師匠(し、しょ、お)。
サヨナラ。」
そう言い残すと林原はその場を立ち去りました。
田中
「どれほど槍の技術を磨いても、策謀の前では子供にすら殺されてしまった。
ふっ『一人で100人殺すより、1万の軍勢で10万の敵』か。
チカラだけで戦争をする時代は終わったというのか!?。
もう10年早くそのことに気づいていれば、俺は、俺は、俺は、ーーーー。
ぐふっ。」
乱世の中国が一応の平和を取り戻すのはその8年後の事でした。
完
慟哭の槍 @turutokugorou
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