第56話 果てなき旅路へ

男性が、何の異常もなく過労状態で眠っているだけの状態だと教えて貰うと、私たちは知らず知らずに詰めていた息を吐いた。

「ロンデル様の術式が、功を奏したのですね?皆、助かるのですね?」

ララがレーネ様に問うと、レーネ様が微笑む。

周りの全員が、笑顔になっていた。

「ロンデルのこの術式を、とりあえず全員に施してくるから、もう少し待っていてね。貴女達。」

はいと良いお返事をして、初めの男性の顔をもう一度覗き込んだ。

顔色はまだ悪いけれど、苦しそうな呼吸もなく、穏やかに眠っていた。

「あとは、体力を回復させるために日に何度か回復魔法をかけて、たくさん寝て、たくさん食べてもらうだけよ。この男性が、無事に家族に会えると良いわね。」

ふいに、女性に話しかけられた。

振り向くと、金色の瞳の可愛らしい笑顔のレーネ様と話していた女性だった。

「はい。彼は、私の祖国の住人の様ですし、きっと帰ればご家族が居るはずです。早く良くなって貰いたいです。」

ララがニコニコと話すので、女性も私達もつられてニコニコしていた。

女性と話をしていると、レーネ様とそれにくっついて回っていたシンディさんが戻ってきた。

周りを見るとここに横たわっていた20人弱全員が魔核を取り除かれて、穏やかに眠っていた。

にっこりと微笑んでレーネ様が女性に後を頼むと、女性は大きく頷いて小走りに眠っている人たちを見て回っていた。

「行きましょうか。」

レーネ様に促されて外に出ると、既に夕方になっていた。

一度学園長様のお家に帰って報告をしないといけないからと、全員で向かった。

シンディさんも学園長様と面識はあるらしく、メルセリウムの民の避難にいろいろと便宜を図ってもらったのだと教えてくれた。


「おかえりなさいませ。食事の用意が出来ております。食堂にご案内いたします。」

学園長様のお家に着くなり、執事さんがお迎えしてくれた。

ずっとここで待っていてくれたのかと申し訳く思うと、レーネ様に見抜かれたのかコソッと帰り際に連絡したのだと教えてくれた。

なんだ、そっか。と、一人で胸を撫でおろした途端にお腹が鳴った。

執事さんは、振り向かなかったけれど、エレン達には盛大に笑われた。

レーネ様とシンディさんが、肩を震わせているのが目に見えて分かってブスッと頬を膨らませて抗議した。

お夕飯は、色々な国の名産や特産が調理されていて、とても美味しかった。

香辛料たっぷりの揚げ鶏やアクアパッツァ、黄色と赤色の野菜がきれいなサラダに、加工肉を使ったスープ、どれもこれも美味しかった。

お腹いっぱいまで食べて満足していると、レーネ様と学園長様が今日あった出来事の報告を話しあっていた。

魔核の件は一件落着、マリもシンディさんや避難してきた人たちの安否の確認ができたし、あとは冒険者登録をするだけ。

今日は、このまま泊まらせてもらうことになって、明日はついに冒険者組合に登録しに行く。

ララは興奮気味にはしゃいでいるし、私達も冒険者組合の会館に入ったことは無いから楽しみだしで、おしゃべりが尽きることなくレーネ様に優しく寝なさいと怒られるまで起きていた。


翌日は朝からバタバタと支度をして食事を取り、浮足立つ4人と保護者として落ち着き払っているシンディさんとで、商業都市にある冒険者組合の会館に向かった。

レーネ様は、色々話し合いや準備や用事があるのよと言って見送ってくれた。

会館に着くと、その大きさに4人揃って口がポカンと開いてしまった。

どこの王族貴族の屋敷かと思うほどに大きかった。

商業都市の一角を丸々使っているかのような大きさに、少し尻込みしてしまう。

私達を促して、シンディさんが先頭で中に進む。

「おはようございます。」

職員のお姉さんに、玄関を入ってすぐに声を掛けられた。

「おはようございます。あの、冒険者になりたくて来ました。登録は、どこに行ったらいいですか?」

ララが率先して、話をする。

シンディさんは、4人の後で見守っているよと言って少し離れて行った。

にっこりと笑ってあっちの長机の人の所だと、教えてくれた。

4人で団子の様にくっついてきょろきょろと歩く私たちを、周りの人たちが微笑ましく思ってくれているのが分かってしまって、恥ずかしくなった。

長机に着くと、ララが男性に話しかけた。

「冒険者登録をしに来ました。お願いします。」

ララが頭を下げるのと合わせて3人が頭を下げると、男性は少し笑って紙を4枚出してくれた。

「この紙に、名前と出身国、通称名があればそれと年齢を書いてくれる?それが終わったら、水晶に少しだけ魔力を流して君たちだけの冒険者証を作るよ。」

優しい声でゆっくりと話してくれる男性に、少し緊張も解けて紙に記入を始めた。

書いているのを見ていた男性は、全員の出身国を見て少し何か考えていた。

全員が書き終わって提出すると、大きな水晶を出してくれる。

一人ずつ名前を呼ばれた順に手をかざして魔力を流した。

ほんのりとした光が灯って、光が線になって隣に置いた小さな鉄製の銀色の板に文字を彫っていった。

私達は自分の冒険者証を各々受け取り、ニコニコと微笑みを浮かべながら冒険者組合を後にする。

シンディさんは、終始穏やかに綺麗な笑顔を口元に浮かべていた。





                           ~小休止~

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4人の少女と聖なる龍の物語 あんとんぱんこ @anpontanko

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