第55話 古の種族

商業都市の中心から外れた、住宅街の外れに小さな家がたくさん連なった住宅の一つがシンディさんの家になっていた。

二階建ての一回に、水回りと食堂と居間がくっついていて、とても機能的な造りの家だった。

一人暮らしには、少し狭いくらいが丁度いいけど、今は狭いですねぇと冗談めかして中に案内してくれた。

ちゃんとお掃除されていて、男性の一人暮らしにしては生活感が殆どなかった。

「じゃ、先ずご挨拶から。僕はシンディ。薄ーく薄ーく大昔のエルフ族の血を引いているらしい先祖返りの男の子だよ。年を来たら倒れちゃうから、聞かないで妄想してるだけにしてね。本当の名前は教えられないけど、許して。マリ様の言った通り、吟遊詩人をしながら暗殺も諜報も護衛もこなすよ。」

おちゃらけた様に話し出すシンディさんだが、耳がとがって見えたのは間違いじゃなかったみたい。

エルフ族はおとぎ話に出てくる大昔の種族で、風の精霊と交わった一族だったはず。とがった耳と綺麗な金色の髪に美しい顔と声が特徴だったはず。

「本当に、エルフ族の血を引いているのですね?」

エレンが聞くと、シンディさんは笑って答える。

「そう、おとぎ話は空想じゃなかったんだよ。エルフにドワーフ、マーマンにノーム、みんな実在する。実際、僕の耳と顔と声と髪はエルフの特徴に合ってるはずだよ。」

「ドワーフは火の精霊と、マーマンは水の精霊と、ノームは地の精霊と交わった種族ね。レニスの子らは、ノームの末裔よ。私の遠い眷属になるわね。」

シンディさんの答えに、レーネ様が詳細と驚きの事実を教えてくれた。

「レニスの方々は、ノーム族の末裔だったのですね!」

マリが大きな声を出して驚いていた。

どの種族も遠い昔のおとぎ話に出てくるから。驚いて当たり前だ。

「それじゃ、シンディさんとマリの出会いは?」

私は、驚きと興味でマリとシンディさんを交互に見て問いかけた。

「それはね、マリ様がまだこ~んなに小さいときに、人に追われてケガをしていた僕を小さい体で一生懸命動かして、隠して、手当てをして、涙を拭ってくれたところからだよ。だから、長い僕の命の尽きるまでマリ様に尽くすと決めたのさ。」

指でほんの小さな隙間を示して見せて、穏やかな笑みを浮かべながらシンディさんは話してくれた。

「そんなに小さくありませんでしたよ!!」

マリが頬を膨らませて、抗議の声を上げた。

「ずっと私のそばに居て、いつも助けてくれていました。離れていても、信頼できる数少ない私のお友達です。」

にっこりと微笑むマリに、シンディさんは照れたようにありがとうと呟いた。

「シンディ、あの人たちはどうしていますか?」

レーネ様が、聞くとシンディさんが神妙な顔になった。

「概ね穏やかに眠っていますが、一名危険です。ゆっくりですが確実に進行は続いている様です。いつ魔物化してもおかしくありません。」

私達が、小首を傾げるとレーネ様がシンディさんが魔核を埋め込まれた人たちのお世話をしてくれている協力者の一人だと教えてくれた。

「そうですか。一度確認に行きましょう。試験的な術式が完成したところです。試してみましょう。」

「わかりました。すぐにお願いできますか?このまま案内しますが。」

レーネ様が頷くと、全員立ち上がって部屋を出る。

向かったのは、学園都市との境にある小さな小屋だった。

小屋に入ると、地下に向かう階段を下り広い空間に出た。

いくつもの寝台の上に魔核を埋められた人たちが寝かされていた。

寝台分の結界が張られていて、半透明の繭の様だと思った。

その中に一際顔色の黒い男性がいて、たまにビクッと体が撥ねていた。

その様子を見て、私たちにここに居る様にと言い残してレーネ様がシンディさんと男性の元に歩いていく。

傍には、魔法で治療をしているだろう女性がいて、なにやら3人で男性を見ながら話をしていた。

私達は自然と全員が手を繋ぎ合って、その様子を見ていた。

レーネ様が男性に手をかざすと、男性の胸の辺りに小さな光の球が現れて吸い込まれていった。

しばらくすると、大きく体が撥ねだして寝台が壊れるんじゃないかと不安になった。

4人で肩を寄せ合って固唾を飲んで、見つめていた。

どんどん動きが苦し気に大きくなって、しばらくして段々落ち着いていった。

嘘みたいに寝台の上で大人しくなった男性の胸の上には、黒くて拳大ほどもある禍々しい光を放つ石が浮いていた。

それを、レーネ様が手に取って、包み込む。

危険な気がして、手が伸びかけたが、ちらりとレーネ様がこちらを見て微笑んだからきっと大丈夫なんだと思って、手を下した。

石を包んでいた手が解かれると、中には禍々しさの消えた魔核が残されていた。

おいでと声がかかったので、4人でレーネ様の元に急いだ。

「男性は?」

私の声に、レーネ様が微笑んで男性に視線を移す。

私達も男性を覗き込んだ。

「顔が黒くない・・・」

エレンが呟くと、シンディさんが答えた。

「体内の魔核が抜かれて、彼は助かったよ。しばらくは動けないだろうけど、これ以上悪くならないから、静養すれば大丈夫。」

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