第54話 避難民と協力者
魔法学園都市を擁するアンルージャへの旅立ちの朝、私たちはロンデル様の湖の前にいた。
「ついに今日じゃな。行ってしまうのは。寂しくなるのぅ。部屋はそのままにしておくから、いつでも帰ってきたらいい。何もなくても、顔を見せてくれると嬉しいのぅ。」
寂し気にそう言って、人姿のロンデル様は私たちの頭を一人ずつ撫でていった。
寂しげに笑うロンデル様に、行ってきますと言うといつでも帰っておいでと返してくれる。
旅立ちの餞別にと大きめのたくさん入る斜め掛けにも背負い型にもなる形に作られた魔法袋に着替えも野宿用の用意も何もかもが入ってしまって目に見える荷物は魔法袋だけの状態で、私達はレーネ様の同行でアンルージャに転移した。
アンルージャへ一瞬で到着すると、学園長様のお家の前に泊まらせてもらったお部屋だった。
学園長先生と家令の男性と共に出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。レーネ様。そして、貴女達もよく来ました。お茶でも飲みながらお話を聞かせてください。」
前にも来た小さな箱の並ぶ部屋で、お茶を頂く。
前に来た時には不思議な部屋だと思ったけれど、その日の夜に学園長様の一族について教えて貰ってから、きっとどれも大切なものなのだと思っている。
ここにある小箱は、全て歴代のお役目の方々の瞳が保管してあると聞いた。
防腐処理をして、小箱に入れて、小さくそれぞれの名前が書いてあるらしい。
不思議と不気味には、思えなかった。
ぼんやりとお茶を飲みながら考えて思い出している間に、レーネ様が今までの事を説明していた。
「今ご紹介いただきました、ララと申します。よろしくお願い致します。有名な魔法学園の学園長様にお会いできて光栄でございます。」
ララが説明の後に挨拶をして、冒険者になりに来たことや、マリがメルセリウムの避難民たちに会いたいことと助けてくれたお礼を言うと、学園長様がにっこりと頷いた。
「わかりました。皆さん、お疲れ様でしたね。よく頑張りました。冒険者会館は、商業都市の方に、メルセリウムからの方々は農業都市の方に、どちらを先にしますか?」
学校の先生という立場の人に褒められて、何故だかとても嬉しくなった。
レーネ様は、別に冒険者になることを急いでいる訳でもないから、農業都市からにしようと提案してくれたので、そちらを先にする。
しばらくは学園長様のお家に4人とも泊めて頂けることになって、帰ってきたら部屋で休めるようにしておくからゆっくり会いに行っておいでと送り出してくれた。
学園都市から西側に広がる農業都市には、いろいろな家畜たちの放牧地や魚などの養殖用池、穀物畑に野菜畑、果樹園とたくさんの生産物があって、色とりどりに彩られていた。
大きな中央産業施設に処理場や加工場まで入っていて、会合などの大規模集会用の施設もあった。
中央産業施設の入り口に、何人かの人が集まっていて、誰かを待っている様だった。
人だかりから少し離れたところにも一人、男性が居た。
マリは、その中に見知った顔を見つけたらしく駆け寄っていった。
「シンディ!!」
駆け寄った先に居たのは、少し離れて場所に居た、いかにも演奏家という姿の細身で長身の男性だった。
長い金髪を後ろで一つに結んでいて、ほんのりと耳がとがっているように見える。
芽吹いたばかりの若葉色をした瞳が、嬉しそうにマリを見ていた。
「マリ様、お変わりありませんか?少し大きくなりましたね。」
大きくうん!と答えてから、マリが振り返る。
「紹介するわね。彼は、シンディ。たまに諜報員で暗殺者で私の護衛の吟遊詩人よ。」
とても、たくさんの顔を持つ人の様だ。
「ざっくりとし過ぎかと思いますが、その通りですね。みなさんが、お友達になって下さった方々ですね?よろしくお願いします。」
少しワザとらしい位に綺麗なお辞儀をして、シンディさんが微笑んだ。
「こっちから、アナ・エレン・ララよ。たくさん話したいことがあるわ。他の人たちのことも教えて。」
マリに言われて、他の人たちの所に向かう。
マリは、一人一人に挨拶をしてどこからどうやってここまで来たのかを丁寧に聞いてから、手を握って苦労を慰めたり、弱気を叱咤したりと王女の顔になっていた。
きっと、ずっと、気になっていたのだろうなと、切なくなった。
その場にいた全員と話し終えてから、シンディさんと落ち着いて話せるようにと今の寝床になっているという商業都市の彼の家にお邪魔することにした。
学園都市から見て東側に位置する商業都市に来ると、農業都市とは全く違う賑わいにレーネ様とシンディさん以外の全員で目を丸くした。
それを見て、二人がクスクスと笑っていた。
4人で頬を膨らませて抗議をしても、余計に笑われるだけだったので抗議を諦めた。
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