第53話 イライヤ
「ララはイライヤと縁を結んだ様じゃな。クシュが深い海の底で見つけた魔石に手を加えたものじゃったはず。」
「えぇ、そうよ。それはそれは、自己主張の激しい石だったわ。」
ロンデル様の言葉に、遠い目をしてクシュ様が答えた。
「そんなに嫌そうな顔をしないで下さい!確かに、ハッキリものを言う方ですが、この子は可愛いしっかり者です。」
ララがイライヤの事を手のひらで優しく抱きしめて反論していた。
滅多に声を荒らげる事がないと思っていたけど、極度の「可愛い」好きかもしれない・・
確かにイライヤは、とても可愛らしい。
青緑の浅葱色を少し濃くしたような海の色の髪は肩口で切り揃えられて豊かで緩やかに波打っていた。瞳は深い藍色で、とても知的な印象を受ける。
ツンとした最初の印象も、ララの手のひらに包まれて安心している今の顔を見れば和らぐ。
安心しきった顔をして、ララの指に頬をすりすりしている様は、とてもとても可愛らしかった。
「仲良くなったくれて何よりだのぅ。ララは、守りと癒しの力に特化しておる様じゃし、しっかりしたイライヤが手助けしてくれるなら心強いじゃろ。本人は攻撃はあまり得意じゃないだろうが、イライヤは攻守に優れた子じゃからな。」
ロンデル様の言葉に、イライヤはララを見てうんうんと大きく頷いていた。
それを見て、ララは頬を緩ませる。
お似合いな二人だなぁと、私たち三人は微笑ましく眺めていた。
「ライ、これから仲良くしていこうね。」
「うん。仲間だね。」
「おぅ・・・」
ルーベルグとレーベルグは素直に、ゲルガンはちょっとそっぽを向いて恥ずかしそうに小さく、よろしくと手を振っていた。
新たな仲間をちょっとしたおやつとお茶で歓迎会をして、お喋りをした。
暫くすると、レミネス様がそう言えばと話し出した。
「魔核を埋められた人たちの事だけどな、レニスの子らに預けてある。それと、魔核の除去は、ロンデルが考えてくれている。少し時間はかかるだろうが、大丈夫だろうと思う。気にしていただろう?」
4人がホッと胸を撫でおろした。みんなが気にしていた、気になっていた。
本当に良かったと思う。どうか、いつか穏やかな日常に戻ってほしい。
「ついで話になっちゃうけど、メルセリウムについても情報があるわ。」
レーネ様が、マリの実家であるメルセリウムについて現状を教えてくれた。
「今回のマリナの津波を、聖龍の怒りとして信者に伝えているみたいよ。聖龍正教の教えを拒絶したから怒りに触れて津波が襲い、それを狙ったように魔物に襲われたのだと。信者も聖龍の怒りに触れないように、今まで以上に聖龍正教に尽くすようにと。随分と都合よく脚色してるわね。」
「聖龍正教は魔物の何らかの実験のために集められている。メルセリウムは聖龍正教を擁護している。つまりは、メルセリウムと魔物は繋がっている。だが、それをわかっているのはレニスの子らとマリナ連合だけ。ですね。」
マリが簡単にまとめてくれる。
メルセリウムが、魔物との闘いの決戦の地になるのだろうか。
「そうね、魔物が何のために聖龍正教を使って何の実験をしているのかが大きな疑問ね。メルセリウムは既に乗っ取られたと考えるのが妥当だわ。」
エレンの言葉に、マリが俯いてしまう。
「メルセリウムから逃げ出した民たちは、どうしていますか?レニスの方々にはお世話になりっぱなしですね。一度、お礼を言いに行きたいです。民たちの顔も見たいです。ダメでしょうか?」
マリが顔を上げて、真剣な眼差しをレーネ様に向ける。
「会いに行きましょう?いいでしょう?マリが願っているのだもの。」
シルビア様が、後押しをしてロンデル様から順に顔を見渡していく。
私とエレン、ララは、すぐに賛成の意を示した。
「我も良いぞ。ちょうど、人の子らの体内から魔核を取り出す術を作り上げたしな。それを試したい。行ってくれると助かるのぅ。」
ロンデル様の言葉で、精霊王様方3人も承諾してくれた。
どうせ、ララの冒険者登録もするのだからと学園長様に連絡をしてくれるとのことだ。
日程を確認してもらって、調整をしてもらうことになった。
それまでは、少しの間ここでの生活と訓練になりそうだった。
ララは走れるのかな?と、考えると少し不安な気持ちになった。
私たち4人は、全員冒険者として登録をして各地を回り、鍛錬がてらに魔物の状況を確認することになっている。
マルレイ王国とムンダイ国の現状も、実際にこの目で見に行く約束をしている。
しばらくは、ここに戻ることもできないかもしれない。
ロンデル様と精霊王様方と過ごせる時間を大切にして、訓練に励むことにしようね。と、4人で話し合った。
小龍精達も、お菓子の入っていた籠の中から顔を出して一緒に頑張ると可愛らしく約束してくれた。
私たちの物語はきっと、ここから始まる。
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