第52話 聖龍の歓迎
いつも通り起きて支度をして、朝食を頂き、4人で荷物を持って玄関に向かう。
お世話になった人たちに出立の挨拶をすると、いつでも帰ってきてほしいと笑顔や涙に見送られて、頭首様の屋敷に向かった。
出立の挨拶をと取次を頼んだら、謁見の間に通されて待たされた。
謁見の間は、国賓の到着や出国の挨拶の時か、叙勲される時などでしか使われない。
マルレイでも、玉座の間には1・2度何かのお披露目などの時しか入ったことがない。
突如、緊張に襲われてソワソワとしてしまう。
他の三人は、王族や国の重要人物だから兎も角、私は王家の血を薄く引いているだけの小市民ですと叫びたくなる。
しばらくすると、頭首様がいらっしゃる。
私達は頭を下げて、正面の大きな椅子に腰かけるのを待った。
声がかかって頭を上げると、なんだか以前にお会いした時とは違う、豪奢な羽織を着ていて国家元首としての威厳に満ちているように見えた。
「待たせたな。今日は、そなたらの功績に対しての褒美を授与する。出立の前で急いでいるだろうが、付き合え。」
頭首様が横を見ると、多分高官だろう人が目録を読み上げる。
金一人につき300万、原産魔石の付与付き宝飾品各種、絹織物などの高級反物各種など貰いきれないほどの目録が続く。
土地や家や家畜など持って歩けないものは、ご辞退申し上げると、簡単に言うと「他の物で補うから絶対に貰って持って帰れ」と言う内容を高官の方から圧力めいて言われたのでわかりまいたと頂いた。
それらを受け取って、代表でララとマリが挨拶して場を辞した。
退出間際、頭首様は少し寂し気な顔をしていたけれど。
精霊王様方に指定された場所まで来ると、セイレンがこっちだと手を挙げてくれたので、そこに向かう。
既に魔方陣が出来上がっていて、4人が陣に入った瞬間に魔法が発動して転移していた。
目の前には、湖とそこに鎮座する真っ白な龍姿のロンデル様、精霊王様方が揃っていた。
「ただいま戻りました。」
私が言うと、ロンデル様が姿を変えててくてくと近づいてくる。
「お帰り、お主たち。」
一人一人を優しく抱きしめてくれた。
ほんの少し離れていただけで、懐かしい景色とロンデル様の姿に「帰ってきた」のだと思った。
いつの間にか、ここが我が家になっていたことに自分で驚いた。
精霊王様方からも声を掛けられて、ただいまを言う。
「ララと申します。聖龍様。これから、この3人と共に行動させていただきます。よろしくお願い致します。」
ララがロンデル様に挨拶をすると、ロンデル様が鷹揚に頷いて言う。
「よく頑張ったな。逐一見ておったよ。大したものであった。その背にはもう、何の重圧もない。楽しく過ごせよ。そして、この子らと共に魔物どもとの戦いに手を貸してくれ。我の事は、畏まって呼ぶ必要はない。」
ロンデル様は、ふわりとララの頭を撫でてから、龍姿に戻って寝床の籠に戻っていった。
ララに部屋や施設内を案内して、お昼にはお土産のお披露目会と実食会をして、わいわいと久々の感覚を楽しんでいた。
午後になると、毎回恒例となったロンデル様の「とっておき」の儀式があった。
ララがかくんとロンデル様の鼻先に倒れ掛かると、私もああだったのかとマリが私を揺する。
案外、心臓に悪い倒れ方をしていたことに気付いた上に、ララを見て心配になったようだった。
まぁ、三回目ともなれば私もエレンも慣れてきている。
今回はどんなとっておきが出てくるのか、楽しみで仕方なかった。
因みに今までは、私のルーベルグは短い棒状の杖になるはずだった腕輪、エレンのゲルガンは片手半剣、マリのレーベルグは小型の弩弓になる予定だった腕輪だ。
ララが持つなら、聖者などの聖職者や僧侶などが持つような身長の7割ほどの長さの杖になるかと思うけれど、とっておきたちの中には変わり種も多いからどうなるかわからない。
のんびりとお茶を頂きながら待っていると、むくりとララが起きた。
その手には、球状の青い魔石を冠した長い杖が握られていた。
ぱっと見は装飾があまりわからないが、青い魔石は光の当たり具合で反射が変わるように完全な球体にみえる細かすぎる多面体になっていて、台座になる部分は白金の輝きの細い爪が魔石を包み、同じ輝きで上に向かって咲く花びらの先が自然に下に垂れる形で花を模った装飾に魔石が鎮座しているように見える。
持ち手の部分も細い線で美しい曲線が全体に刻まれていて、結界を張るときのララの凛とした姿を思い出させた。
ララの肩には、ちょこんとすまして座る小さな青緑の髪の女の子がいた。
「あ、イライヤじゃん。」
「ホントだ、ライだ。」
「あぁ・・・そ・・・だな・・・」
それぞれの小龍精がポンっと飛び出してくる。
ルーベルグとレーベルグとは、反応が違うゲルガンの表情は少し苦手なのかな?と思ってしまう。
「おつかれ、ララ。素敵な子と出会えたみたいだね。」
「えぇ、そうなの!あんまり可愛くて、離れがたかったのよ。」
小龍精達の盛り上がりを余所に、3人でララに近づく。
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