第51話 巣立ち宣言

ララの家で目が覚めた。

懐かしい顔を夢に見た。

涙が零れていた。

涙を拭いて寝台を降りると、顔を洗った。

扉が叩かれて、セイランの声がする。

「起きた?朝ごはん、みんなで食べるってさ。」

「はーい、すぐに行きます。」

急いで着替えて部屋を出ると、セイランが待っていてくれた。

何かを言いかけてやめるセイランに、なんにもないよ?と、言っておく。

食堂に来ると、私とセイラン以外が揃っていた。

珍しく、私より先にエレンがいることに驚くと、エレンにふくれっ面をされた。

笑顔で朝食の時間を過ごすと、ララが徐に席を立って注目した。

「私、冒険者になりたいです。事後処理が終わって、神殿のあり方の方向性を見極めて、領主としての引継ぎを確認し終えたら、叔父様の言うとおりにアンルージャで冒険者資格を取得します。その後は、アナ・エレン・マリと共に行動します。冒険者は取捨選択が自由な職業ですもの、みんなが私と一緒に居れなくても私がみんなと一緒に居ればいいのですよね。そのことに、昨夜気づきました。この家は、このまま私が相続しますが、管理は長年家令を務めてくれているセドリックに任せます。いつ帰ってきてもいい様にお願いしますね。アナ・エレン・マリ、不束者ですがどうか私を連れて行ってください。」

早口で言い切って、大きく頭を下げるララに驚いてしまったけれど、私たち三人は顔を見合わせて同時に立ち上がる。

「こちらこそよろしく、ララ。」

「末永く仲良くやりましょうね。」

「大切にするから、安心してね。」

私、マリ、エレンがそれぞれ言うと、結婚するの?と、セイランが真顔で発言する。

全員が一瞬キョトン顔で頭に疑問符を浮かべてから笑い出した。

これから、私たちは4人で末永く仲良くやっていくことになった。

ララの言ったことが全て片付くまでは、私たちもララの家に下宿して国の復興のお手伝いをしたいから置いてほしいと、ララと精霊王様方と大精霊様達、セドリックさんや他の執事さん達にも頭を下げた。

人族全員が、よろしくお願いしますと頭を下げ合っている様子を見て、シルビア様が変なことをするのねぇと変な感心をしていた。

一度は戻ってロンデル様に報告をすることと言い添えて、魔核を植え付けられた人たちを安全な場所に移動するからと精霊王様方はララの家を後にした。

大精霊様達は、精霊王様方の手伝いの合間に、こちらの復興も時間が合えば手伝うからと言って精霊王様方に付いて行った。

セイランは私に、ガルラさんはエレンに、サリアさんはララに、マルタさんはマリに、それぞれの属性と同じ色の小さな魔石がついた揃いの意匠の耳飾りを手渡してくれた。

自分たちに連絡が直接取れるようにと、魔法をかけてくれたらしい。

どの大精霊様にも繋がることを教えてくれたガルラさんが、寂しくなったら連絡してねとお茶目に片目を瞑って笑って去っていった。

「なんでガルラは、あんなに軽薄なのかしら。本当に薄っぺらくて軽いのよね。強いのに・・・」

エレンは呟くと、耳飾りを耳に付けて、どう?と見せてくれた。

全員が左耳に飾りをつけると、右耳に付けていた耳飾り型の通信魔道具と相まって左右非対称の意匠に見える作りになっていることに気付いて、笑った。

絶対にサリアさんとマルタさんが考えたのだろうと話が盛り上がったが、それぞれに今日のすべきことをサドリックさんに指示されて動き出した。

それからしばらくは、事後処理に、復興のお手伝いに、執事さんたちや仲良くなった守備兵さんたちとの訓練にと、楽しく忙しく飛ぶように過ぎて行った。

家の掃除や倉庫の片付け、引き継ぎ書類の配達や、庭のお手入れのお手伝いに武具や装飾品の手入れ、洗濯に調理のお手伝いなど、居候として楽しく扱き使われていた。

どれもこれもやったことがない事ばかりで、その大変さを思い知った。

そして、それが冒険者として最低限やれなければならないことや知っていた方が良い事の練習だったのだと気づいて、セドリックさん以下みんなの優しさに泣きそうになった。

ララは二日前に、国中に退任の挨拶をして筆頭巫女の職を辞した。

頭首様と共に人前に立ち、優しいのに響く声でしっかりと発言していて、格好いいと思わず見とれて演説を聞いていた。

国民は、寂しいながらも新たな国の政策と神殿のあり方に納得した様で、ララを責める声は一つとして上がらなかった。

お世話になった人たちへの挨拶回りに付き合って丸一日と半分、歩き回った。

明日は、いよいよ一度ロンデル様のいる聖域に戻る。

ロンデル様へのお土産も、精霊さん達へのお土産もたくさん買い込んだ。

今日は、ララの出立と私たちの旅立ちのお祝いするからとセドリックさんも執事さんたち侍女さん達も張り切って準備をしていた。

賑やかに夕食の時間を過ごして、少し早めに寝るように言われてバタバタと荷物をまとめてから布団に潜り込んだ。

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