第50話 マリナ諸島連合国頭首

「そして、ララ、お前も自由になっていい。この島の事はお前が成人するまで、私が代行しよう。絶対にお前に不利なことはしないと、クシュ様にかけて誓う。冒険がしたかったんだろう?父上からシェリルの日記と冒険者証を預けたと聞いているよ。彼も本当は自由にしてやりたいと思っていたんだろうな。大切にしなさい。」

そういうと、頭首様はララの頭を撫でた。

ララは、声もなく涙を流していた。

巫女たちも帰れることや嫌々しなくてもいいと言われて嬉しそうだった。

「しばらくは、事後処理や避難民の帰還などでバタバタとするだろうが、自宅で家族と話し合ってほしい。それと、もし家族を亡くして身寄りのない子供や老人が居たら教えれくれるか。国で面倒を見ることになるから。」

巫女たちは頷いた後、一度神殿に戻り自分で考えてから行動すると言って部屋を出た。

ララと叔父である頭首様とも身内の話があるだろうと、部屋を出ようとして呼び止められた。

「すまないが、少し良いだろうか。できれば、クシュ様にもご同席願いたいのだが、来ていただけるだろうか?」

頭首様が大事な話があるようだと、ルーベルグからセイランを通してクシュ様まで伝えてもらった。

クシュ様から承諾を貰うと、待っている間にララのお母様の話をしてもらった。

中々有名な冒険者で、魔法に長けていた事、身内贔屓を差し引いても、美しく快活で誰にでも分け隔てなく接する人だったと教えてくれた。

ララは肌身離さず持っている魔法袋から、そっと小箱と本を出して、冒険者証と日記を見せてくれた。

丁寧に大事そうに触れるララの姿には、お母様への尊敬と親しみを感じた。

まだ私も中身を読んでないのと、笑うララが可愛かったのか、マリが突然ララを抱きしめるから全員でびっくりして笑い出した。

雑談をしていると、扉が叩かれてクシュ様が到着する。

「大切なお話があると言うから、馳せ参じましたよ。どうしたのです?」

「お越しいただきありがとうございます。どうぞ、お掛け下さい。話というのは、ララの事です。」

頭首様が椅子を示して、クシュ様が腰かけると、温かいお茶が運ばれてきた。

お茶を一口飲むと、頭首様がララを見てからクシュ様を見て話し出す。

「ララを冒険者にしたいと思います。この子の夢だと教えて貰いました。巫女という重責から解放してあげたいと思います。つきましては、クシュ様の加護の元アンルージャへ連れて行ってやって頂きたいのです。国に縛られたくない冒険者は、わざわざ中立国であるアンルージャで冒険者登録をすると聞きました。ここに居るマリさんが魔法学園で学んでいたと聞いてから考えていたことです。何とかその伝手を辿って、冒険者登録をさせてやりたいと考えています。ご助力頂けませんか。」

頭首様の言葉に、そんなことを考えていたの?とララが呟く。

「できれば、君たちにも冒険者になってララと一緒に居てやってほしいが、皆やるべきことがあると聞いた。せめて、ララの門出の祝福と、これからも良き友人でいてやってほしい。それを頼みたくて、居て貰ったんだ。私が叔父として出来る数少ないことの一つだから。」

私たちは、もちろんずっと友達ですと、同時に答えていた。

それを見て、安心したように笑う頭首様にクシュ様が返事をする。

「加護も連れて行くのも私は構わないわ。アンルージャにも伝手はあるし。でも、ララがどうしたいかを優先していいかしら?この子が、そうしたいと言うならその通りに、違うなら違うように、私はララの意見を尊重したいわ。」

クシュ様がそう言うと、頭首様はもちろんですと答えてララにそういう選択肢もあることを知って考えてみてもいいと思うと言い直していた。

追い出したいとか考えてないことは、様子を見ていてわかっていたから、誰も何も言わずにララの家に帰った。

その日は、ミハエルさんやオリガさんも含めてみんなで、国を守り切った祝勝会だとありったけの食材で、料理を作ってくれた。

賑やかに慌ただしかった一日が終わろうとしていた。

四人とも肉体的にも精神的にもクタクタになっていたから、お風呂を頂いて最後の体力を使い果たしてしまっていた。

用意された寝室で横になった瞬間に、気怠い体と気の緩んだ精神が眠りに転がり落ちて行った。


私は自宅の中庭に居た。優しい光が木々の隙間を抜けて地面に落ちていた。

そこでは、お父様がアレンの剣の稽古をしていた。

それをお母様がお気に入りの長椅子に座ってみている。

アレンの稽古、始めたんだ・・・一緒にやるって約束したのに。

仲間外れにした文句を言おうと、近づく。

気付いたお父様が、にっこりと微笑んでくれる。

それに気づいたアレンとお母様も、振り返った。

三人が笑顔で迎えてくれるから、怒る気を失くしてしまう。

お父様が私の頭を撫でて、アレンが珍しく抱き着いてくる。

お母様が、微笑んで頬を撫でる。

そのまますっと三人の姿が消えて、私は飛び起きた。

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