第48話 結界発動

「ふふふ・・・・・はぁ・・・。悲しみは、全てが終わるまで封印しますわ。」

ララが思わず笑ってしまったと、切なげな笑顔を浮かべる。

「先ずは、現状のすり合わせをしましょう。こちらでは、魔物と自らを魔将デンゼルと名乗る上位種の襲撃に遭いましたわ。私たち巫女を連れ去ろうと画策していましたが、サリアさんとマルタさんが精霊王様方のお作りになった四聖結界の外に隙を見て弾き飛ばして下さいました。魔物は残りましたが、多数の犠牲の上に我々はこの部屋に辿り着きました。その後、クシュ様が一度影を飛ばしてくださって、「結界の外には夥しい数の魔物が入れずに蠢いているが、羽虫1匹通さぬから何とか踏ん張れ。」と仰いました。それからは、お父様と数名の精鋭が守りを固めてくださる中、エラにアナとエレンの案内を頼んだのです。そちらは?」

ララの問いにエレンが答えた。

「こっちは、アナ達からの連絡の後、ガルラのアナとセイランさんの救出作戦の中、洞穴近くの駐屯所でアナを迎えて、何度か魔物と戦闘になりながらここまで来たわ。門でしばらく魔物の数を減らしたつもりだったけど、もっと早く来るか、もっと減らしてくればよかったと思ってる。」

「こっちはアナを外に送り出して戻ったセイランと合流後、上位種と戦闘。そういえば、あいつも魔将と名乗っていなかったか?」

エレンに続いて、報告を始めたガルラさんの問いに、セイランが後を引き継いだ。

「あぁ、確かオーランドと名乗っていた。そのオーランドを撃破後、洞穴を埋めてから気配を探すと、頭首の屋敷にもう1体上位種を確認した。そいつは、魔将リンドウだったかな。頭首の屋敷の兵を指揮してリンドウを撃破。もう1体も探したけど、見つけられなかった。そのまま、ここに来たよ。」最後の1体の所在が気になる処だと、セイランが肩をすぼめた。

「わかりました。それでは、頭首様はご無事なのですね?」

ララは、ほっとして足の力が抜けたのかへたり込みそうになっていた。

それをすかさずマリが支えると、小さくお礼を言って巫女たちに向き直る。

「聞いた通り、ある程度の脅威は去ったと言えるでしょう。私たちは、私たちのやるべきことを致しましょう。予定より人数が減り、一人一人の負担は増えますが、私たちでなければならないのです。そのための、この国のための巫女なのですから。

さぁ、準備を。」

ララの言葉に、巫女たちは一様に強い瞳で頷いた。


この部屋には元々悪しきものの侵入を拒む結界が張られていて、扉が閉まっている限り解除されないのだという。

大きな閂を内側から閉めて、その前には守備兵さんたちが守りに就いてくれた。

扉の正面の大窓の前にはセイラン、垂直方向の壁にはガルラさんとマルタさんが、

部屋の中央の魔法陣が書かれた絨毯の上に大きな魔石を乗せた台座とララとサリアさん、それを取り囲むように魔法陣の縁に巫女たちが立ち、その外側に私とエレンとマリが等間隔に立っていた。

「津波を鎮める魔法をサリアさんが私たちの結界に組み込んでくれました。これで国を守れなければ嘘ですね。少しでも被害を食い止めるために死力を尽くしますよ。」

ララがそう言うと、巫女たちは頷いてその場に跪いて祈り始める。

祈りが魔力として魔法陣を通ってララに集まり、ララが魔石に魔力を注ぐ。

その上にサリアさんが、手をかざして魔力を重ねる。

魔石が水の中から空を見た時のような優しい光を放って部屋中に満ちると、弾けた様に外に波紋を広げるかの如く広がって行った。

外を見ると、淡い光は傾きかけた日の光と相まって不思議な色に染まっていた。

美しい光の光景を眺めていると、大きな音と振動が伝わってくる。

外には、世界を飲み込まんとする程の大津波が見えた。

国を一つ飲み込むには、十分な大きさだと思った。

やがて、大波は半球状に張られた結界を飲み込むように覆いさった。

木や鉄や武器や色々なものを含んだ波が、上空を通り過ぎていく。

海底から嵐の通る海を見上げた見たいだ。

響く振動と音に不安が掻き立てられて立っているのも辛くなってくる。

それでも、毅然とした姿で結界を維持し続けるララを見れば弱音は吐けない。

どれほどの時が経過したのかも、わからないまま時を過ごした。

徐々に引いていく波を見ると、魔物とそれと戦って亡くなった兵士たちの死体が飲み込まれて流されて行った。

海の民は元々亡くなると海に帰るのだから一足先に帰って行ったのだと、お別れの言えなかった家族に申し訳ないと、ララが悲しげに呟いた。

ララが波が落ち着いたみたいだと後ろを振り返ると、巫女の数人が魔力の枯渇で倒れていた。

魔法陣が解かれるまで動けなかった私たちは、大急ぎで手当てをした。

飲める者は回復薬を自分で飲ませて、飲めないものには口移しで流し込んだ。

守備兵さんたちのマントを借りて、敷いた上に彼女たちを寝かせると規則的な呼吸を確認して、私たちは一息ついた。

大精霊様達に外の様子を見てきてほしいと頼むと、セイランとガルラさんが行ってくれた。

あの二人は元気ねとサリアさんが呆れた様に脱力して、床に座り込んだ。

それを見て、巫女たちの様子を見てくれていたマルタさんが同意するように頷いた。

私たち四人は、緊張から解かれてサリアさんと同じようにサリアさんの近くに座り込んでしまった。

守備兵さんたちは神殿の様子を見に行くと言って、マリクさんともう一人を残して出て行ってしまった。

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