第44話 上位種の力

「小うるさい風です。」

そう言って、手を振るとセイランの風魔法は、消滅した。

私はこの時点で、自分では勝てないと一歩下がろうとした。

「離れないで。」

ルーベルグが一言、私に囁いて私の足が止まった。

その瞬間に舌打ちの音がして魔物を見ると、セイランが魔物に話しかける。

「残念だったな。ボクから彼女が離れた瞬間に、地面に張り巡らせて細い糸で拘束しようと思ったんだろう?」

セイランの言葉に、ワザとらしく目を見開いて魔物が言う。

その隙に、セイランが地面の魔力で出来た糸を消した。

「ほぅ?精霊はわかっても、そのか弱い少女は気付いていないと思いましたがね。」

ニヤリと私を見て笑うその顔は、厭味ったらしくねちっこい貴族を思わせた。

生理的な無理なやつだ。魔物だから当然なんだろうけど、絶対仲良くなりたくないし、なれない。

「能ある鷹は爪を隠すっていう言葉を、知らないのかな?魔物に学があるとは思えないけどさ。」

セイランと魔物の嫌味の応酬が続く。

「そんなに、時間を稼いで考えるほど、その少女を私から逃がしたいですか?精霊君。」

「お前の知ったことじゃないだろう?」

「そうですねぇ、居れば役に立つでしょうけど、別にその少女じゃなくても事足りるんですよねぇ。元より他の少女を連れて行くつもりでしたしねぇ。」

「他の少女だと?」

セイランとの会話の中で、魔物が不穏な言葉を口走る。

「えぇ、この国の少女たちは、我々の研究に役立ちそうな魔力を持っている上に、一所に固まってくれていますからねぇ。お誂え向きってやつなんですよ。」

まさか、巫女たちを狙っている?ララが狙われている?

私の焦りに気付いたように、セイランが後ろに手を動かして私の手を掴んでくれる。

握り締めて、少し落ち着いた。

「この国の巫女たちの結界は、並大抵じゃないだろう。お前だって、木っ端みじんにされるんじゃないの?ざまあないけど。」

「まぁ、多少は痛いですけどね。人間の皮を被れば、難なく侵入できたんですよねぇ。随分、ザルな警備ですよ。探知魔法がザルなんて、お粗末すぎて笑えないほどにね。」

つまり、既にララや巫女たちに危険が迫っているということなの?

でも、サリアさんが傍にいてくれているはず。

「へぇ、大した自信じゃん。それが罠だとは、思わないんだ?おめでたいね、お前の頭。」

セイランが更に、突っかかったものの言い方をする。

「どんな罠を張ってくれているのか、楽しみですね。私は、行かないので後で仲間に聞いておいてあげましょう。」

他にも、この魔物みたいなのがいるの?

「仲間なんて言い方が出来るんだな。魔物でも。笑えるんだけど。まぁ、どーせ一人か二人だろう?人間がどれだけいると思ってんの?」

セイランの会話でどこまで、引き出せるだろう。

「知りたいですか?そんなに情報を集めても、ここを出られなきゃ意味が無いでしょうに。」

この魔物、わかっていて話したんだ。ここから出すつもりが無いから。

「ボクたちは、出してもらえないと?いや、別に勝手に出ていくけど?馬鹿なの?」

人を煽るのがセイランにとっては、普通なのかしら?

「ふふふ。まぁ、いいですよ。出て行けるなら出て行ってくれて構いません。因みに、他にも3人いますよ。貴女の言う、上位種が、ね。」

最後の言葉を、嫌味な笑顔を張り付けて私に言う。

その歪な笑顔が気持ち悪くて、ぎゅっとセイランの手を握り返した。

「んじゃ、そろそろお暇しようか。おいで。」

セイランが私の手を引いて、私がセイランの隣に出ると、腰に手を回されて一瞬心臓が跳ねる。

そんな場合では、ないのだけど?と、自分をそっと叱る。

セイランが足を踏み出そうとした瞬間に、黒い閃光が放たれた。

セイランが魔力壁で防ぐと、魔物が後ろに移動している。

セイランが振り返りざまに、風を放つ。

私はセイランに腰を抱かれたまま、振り回されているだけだった。

邪魔になるのに、お荷物なのに、私に攻撃が当たらないように大きく動いて魔物の攻撃を躱すセイランに申し訳なさが募る。

「もう少し待って。我慢して。」

私が、離してほしいと言う前に、先にセイランに言われてしまう。

何か考えがあるみたいだ。小さく頷くと、セイランの動きに合わせられるように、魔物の動きを注視することにした。

抱っこされている状態だから、特に何をするわけでもないけれど、意識しているかいないでは力の入り方が違うし、少しでも邪魔にならないでいたい。

右に飛ぶならその様に、後ろに下がるならその様に、着地するにしろ、負担にならないようにしないといけない。

しばらく、魔力を放つ、躱すの攻防が続いた。

セイランの考えが成功するには時間が掛かるのだろうか。

そう思いながら身を躱すセイランの動きに合わせていると、私たちの来た方向から何かが飛んでくる気配がする。

誰か援軍に来てくれたのだろうか?でも、連絡なんてどうやって?

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